scene .26 六人の姉妹
「あーちび達おかえり! 皆さんもお疲れ様なんだぬ!」
村に着くと、馬車置き場で待っていたらしいウェネが小走りで近づいてきた。
どうやら想定よりも遅かったため心配していた様だ。ウェネは手慣れた動作で踏み台を置くと、荷台の端に手を添えながら前方に向け口を開く。
「作業を終えて戻ってみれば、まだ帰ってないって言うから何かあったのかと。ボクも今から出ようかと思ったところだぬ」
恐らくあの三つ子に言っているのだろう。だが、自分達が原因で彼女たちが注意を受けるのは気持ちの良いものではない。そう思ったロルフは、遅くなった経緯を話す。
「すみません、俺達が駅に着くのが遅くなってしまって」
「そっかそっか、そうなんだぬ。なら仕方ないぬ」
ウェネはそれを聞いてロルフの方を向きニッコリした。だが、彼女たちが怒られるのは運命だったらしい。
御者台から降り近くに寄って来た三人の手元に視線を向けたウェネは、笑顔のまま少しだけ眉根を寄せた。そんなウェネに、三人は慌てて手を後ろに隠す。
「まぁた泥だらけの手で手綱を触ったぬ! ちゃんと洗ってくること!」
「わぁ!」
「バレただぬ!」
「ごめんなさぁい」
馬車置き場脇にある水道をびしっと指さしそう言うウェネまるで母親だ。
バタバタと三人がプフェアネルから外した手綱を持って水道へ走っていくのを確認すると、はぁと小さくため息をつく。
「じぃじが甘やかすからいつまでも子供っぽさが抜けないんだぬ……」
「でも彼女達、ウェネさんの事とっても褒めてましたよ」
「うん! ボクたちもウェネ姉みたいになりたいって言ってた!」
モモとシャルロッテがすかさず入れたフォローの言葉にウェネは少し照れたように笑う。そして、「まぁ、ボクもあの位の頃はばぁばによく怒られてたからぬ」そう言って頬を掻いた。
「さ、家に向かおうか。お腹空いたよぬ?」
「はーい!」
ウェネは真っ先に反応したシャルロッテに笑いかけると、一行を連れ馬車置き場を出た。時間が時間なだけあってか、夕食のものであろう良い香りが村のあちこちから流れてくる。
家などの造りは最古の村と言われるだけあって、古めかしい木造が多いようだ。科学技術よりも魔術が振興している雰囲気も感じる。
「あ、そう言えば三人の運転はどうだったかぬ?」
「どうだったかぬ? じゃないわよ……どうしてウェネが来てくれなかったのかしら」
ロルフ達が村の様子を観察しながら歩く中、前方を歩くウェネとヴィオレッタが会話を始める。
以前にも来たことがあると言っていただけあって、ヴィオレッタは村の様子にまるで関心はないようだ。
「悪いね、できるだけ早い出発がいいかなと思って船の整備をしていたんだぬ」
「ふぅん……でもアナタ、知っててあの子達よこしたでしょ。他の大人じゃダメだったワケなの?」
「まぁまぁ、マシな方の三人だからぬ。許してほしいんだぬ。――さ、到着だぬ! ようこそわが家へ」
数分も経たずに辿り着いた家の門をウェネがそう言いながら開くと、
「おかえりなさい!」
「お夕飯出来てるぬ!」
「皆さんお疲れ様だぬ~」
他の家屋に比べると数倍の広さがありそうな家の佇まいだが、そのことについて言及するのは後にしておこう。見覚えのある三人組が出迎えた。
「あ、あれ? いつの間に……」
「この子たち髪型あんなだったかしら?」
「あ、さてはあの三人自己紹介してないんだぬ?」
きょとんとする一行に、ウェネは少し面白そうにくつくつと笑う。
そして少しもしないうちにバタバタという足音がしたと思うと、後ろから「ただいまぁ!」というこれまた聞き覚えのある元気な声が庭中に響いた。
「えっあっ……えっ!」
一番後ろ――門に近い場所に立っていたクロンが、口をパクパクとしながら前と後ろに三人ずついる同じ顔の少女を交互に指さす。
「そうそう! 普通はその反応だよぬ!」
そう言いながら、ウェネは今帰ってきた三人と出迎えてくれた三人を横一列に並ばせた。
「この子達はボクの妹で、六つ子なんだぬ。まだまだ子供で至らないところが多いけれどみんな仲良くしてやってだぬ!」
ウェネに促され、全員揃って「よろしくだぬー!」そう言う姿は生き写しと言っても過言ではない程によく似ている。髪型が同じであったら全く見分けなどつかないだろう。
「ちなみにこの子らは生まれて十九年目だけど、ボク達トゥアタラ族は二年に一つしか年を取らないんだぬ。だからロロとクロンの間位の歳かな?」
ロルフ達の反応に、ウェネは満足そうに腕を組んでうんうんと首を動かす。
ちなみに十四年前、当時十三歳だったヴィオレッタが六つ子になぜ驚かないのかと聞かれ言い放った言葉は、
「別に六つ子位モンスターにも普通にいるじゃない」
だったそうだ。
自身が双子であることも相まってか、初めて六人に出会った時も大して驚かなかったらしい。大人となった今は双子ですらそれなりに珍しい事を頭では理解している様だが、普段からモンスターに囲まれて過ごしているヴィオレッタにとって彼女達の存在は感覚的に“普通”でしかないようだ。
だが、そんなヴィオレッタすらをも驚かせる出来事が起ころうとは、今は誰も知る由もない。