聖女の封印 ~勇者様、急いでください。機嫌切れになりそうです
活動報告「2018/4/28 隙間時間に思いつきネタ」に書いた内容です。この活動報告にはあらすじしかかいていませんでしたが、今回小話を追加しました。
活動報告にも書いてありますが、「人に言えない勇者パーティー大人の事情」に無理やり追加しようとして断念です。
【あらすじ】
聖女様は世界を破滅させるために顕現した魔王をずっと祈りの力で封じていた。強大な魔王を封印するだけの力が残っていない。歯を食いしばり、体の痛みを抱えながら耐え続けた。勇者がいつかきっとやってきて、魔王を倒してくれる。その望みだけで必死に封印をし続ける。
勇者の訪れを待って、待って、待って、待って……。
勇者になった少年は人が良くてのんびり屋。頼まれると断れない。しかも一度ハマったらとことんやるタイプ。のんびり冒険をし始めてしまう。恋愛関係の仲を取り持ったり、詐欺師に金品巻き上げられたり。
そして、現在。
孤独なお嬢さまを放っておけずに、領地立て直しに奔走中。
それを知った聖女様が怒り大爆発。
魔王の力を使って勇者に呪いを送り始める。
早く聖女の元へ行かないと勇者には恐ろしい呪いが発動する……らしい。
******
【小話】聖女と魔王の秘め事
「くそったれめ」
ぎりぎりと唇を噛み締めると、血の味がした。
「そういきり立つなよ」
面倒くさそうに窘めるのは、夜の王のような黒い長い髪をした美丈夫。白い陶磁のような滑らかな肌、薄い青の瞳と薄い唇が少し冷たい印象を見せる。
「そもそも貴方が! 魔王がいるからこんなことになっているのよ!」
「しかしな、魔王が自殺などできないだろう?」
「したらいいじゃない!」
「魔王は基本、魔力で生きているのだ。魔力が取りこめる限り、死なぬ。その魔力を自分自身で散らすとなると……この世界を壊してみるくらいしか手がない」
彼女は、聖女は狂ったように髪をかきまぜた。
「ああああ、早く、早く勇者が来てくれないかしら」
「ここ数百年、国王どもが面倒くさがって魔王討伐をあまり推奨していないからな」
魔王はどうでもよさそうに本をめくった。最近手に入れたばかりの推理小説だ。なかなか意表をついていて面白い。
魔王と聖女がぶつかり合い、聖女が辛うじて魔王を封じたのがかれこれ500年前。人間の寿命が平均50年と考えれば、世代交代して10代。人間にとって、十分長い時間だ。
聖女が封じているおかげで、人間界はとても平和だ。500年も封じている聖女の力は徐々に落ちていき、最近では魔王は少しの時間なら人間界に遊びにいけるぐらいの封印になった。要するに封じる力が弱まってきたのだ。
魔王としてもこの500年、同じ空間で過ごしてきた相手だ。実はけっこう楽しい。封じられる前の魔王城には沢山の魔族や魔物がいたがあくまで配下。精神的な壁があった。
魔王は普通に存在しているだけでも、負の魔力を放出しているので人間界には相当ひどい状態となる。歴代一の浄化の力を持つ聖女が己の持つ力で魔王城ごと封印をしたのだった。出会いたての頃はこの封印を解いてやろうと全力で魔力をぶつけていたが、それもすぐに飽きた。
案外聖女というのは面白い女性で、長い間一緒にいても飽きない。長く封印を続けてもらいたくて、こっそりと魔力を供給してやっているのだがそれも限界に近づいていた。
そう、聖女はもう封印をするだけの力は残っていないのだ。抑え込む力が弱くなったことを俺は肌で感じていた。聖女もうすうすそのことに気が付いている。気が付いているからこそ、魔王を滅することのできる勇者を待っていたのだが。
「今回の勇者は人がいいのだな」
水晶を使って勇者の様子を毎日眺めていると彼の人の良さがよくわかる。勇者に選ばれただけあって人格者だ。
「あれは人がいいとは言わないわ。ただ単に騙されやすい馬鹿よ」
ぎりぎりと爪を噛み、聖女が低い声で吐き捨てた。
「そうともいうな。今回はあざとい幼女に騙されて奔走しているぞ」
「本当にバカだわ。ドレスを着ているからって幼女とは限らないのに!」
そう言われてもう一度幼女を見るが、何度見ても顔立ちの整った幼い女の子だ。
「成人女性には見えぬ」
「ほんと男ってバカばっかりね! あれは男よ、男!」
男、と言われてもう一度見る。今度は魔力を使って判別した。その方法は……まあなんだ。色々だ。
「だが、勇者は気が付いていないようだが?」
「そうなのよ、いっそうのこと、ここに来なくてはならないようにしてやろうかしら?」
ぶつぶつと聖女は一人思考の海に沈んでいった。
このお話を育てるにあたって変更してはいけない点は以下となります。
1.500年前、当時の聖女が魔王を封印する。
2.聖女の封印はそろそろ切れかかっている。
3.魔王を殺すことができるのは勇者の持つ「勇者の剣」のみ。
4.勇者は人が良く騙されやすい
5.世の中は平和で、各国の王も魔王に危機感を持っていない
活動報告にも書きましたが、某ゲームのセリフから思い浮かんだ設定です。自分で書ければよかったのですが、やはり勇者とか書きにくくて。
ちなみにタイトルの「機嫌」は誤字ではありません。