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人生を一変する恋もある!




ハローハローハロー







「あっ」


 手がぶつかってしまった。手と手が一瞬、絡み合うような形になる。

 相手を見れば、背の高いイケメンだった。何色にも染めていない黒髪で、アーモンド型の黒い瞳の持ち主。こんなイケメンと触れ合ってしまったことに申し訳なさが湧いてきてしまった。病気のせいもあるだろう。


「どうぞ」


 最新の人気洋画のDVD。しかも残り一つのDVDだったため、互いに取ろうとしてぶつかってしまったのだ。ここはレンタルビデオ店。

 譲ろうとしたけれども、イケメンさんは首を横に振った。


「いえ、どうぞ。僕は他を見ますので」


 それだけを言うと颯爽とこの場を離れる。

 離れられては、私が取るしかない。私はそのDVDを取った。

 私は重度の鬱病で一度入院して、今現在親の元で休養中。

 鬱の原因としては、簡単に言えばトラウマからくるものだった。

 幼き頃、両親は離婚。妹と弟はバラバラになってしまい、ドン底の思春期を迎えていた。一度はまた集まって生活をしていたから落ち着いていたのだが、私や弟が一人暮らしを始めると母親がまだ学生の妹と弟を残して、別居を始めてしまったのだ。新しい恋人の元に行った。

 そのことがまともに働けないほど大分ダメージだったらしく、それをきっかけに私の気分はドン底になったのだ。またバラバラになってしまう恐怖。もう死んでしまおうかと幾度も考えてしまった。あれは中々、振り払えない。

 それから救ってくれたのは、入院と薬だった。

 今は私は母親とその恋人のところに、休養することになったのだ。一人暮らしをしていた弟も来て、学校を卒業したら妹と弟もこちらに引っ越してくるという話で落ち着いた。

 ビデオレンタル店に通い詰めているのは、暇だからだ。休養で案外難しい。


「……」


 一瞬だけ絡み合った手を見つめてしまう。

 これをきっかけに恋が始まる。なんてドラマや漫画みたいな妄想をちょこっとしてみては、こっそり笑ってしまう。自嘲含み。

 バカだな。そんなことあるわけないじゃないか。私なんて。

 そう思うのは、鬱病のマイナイス思考のせいか。そもそも後ろ向きなせいだったのかもしれない。

 可愛いとか美人とかお世辞で言われるけれども、それでも自分に自信はなかった。一目惚れされる容姿なら、自信も持てただろう。

 あれほどのイケメンと親しくなんてなれない。

 けれども、そのイケメンと思わぬ場所で再会した。

 そこは母親の恋人の行きつけのお店で、ばったりと会ったのだ。

 団体様として個別の部屋に入ろうとしたところを、ちょうどお店に入ってきた私と目を合わせて「あっ」と互いに声を漏らす。

 ちょっと運命を感じてしまった瞬間。

 ただ同じ町にいて、たまたま同じ店にいて、同じ時間に来て会ってしまっただけなのに。

 運命じゃないかな、なんて前向きなときめきをしてしまった。


「この前はどうも」


 気が付けば、そう声をかけていた。


「いえ。楽しめましたか?」


 彼も覚えていてくれて、そう尋ねてくれる。

 私は嬉しくて笑みを溢した。


「はい、とても」

「……そうでしたか。俺も、あのあと借りて楽しめました」


 彼は特に笑ったりしなかったけれど、声は優しいものだった。


「じゃあ、またあとで」


 そう言って個室の中に入ったものだから、私はその場で舞い上がってしまいそうになる。

 またあとで、だって。きゃー!

 家族と食事をしていれば、彼は来た。

 名乗り合って、連絡先を交換。彼もときめきを感じてくれたようで、トントン拍子で交際に発展した。

 彼の名前は、雲雀冬也ひばりとうや。建設会社の若き社長だという。歳は二十九。私の四つ上だ。

 彼にはちゃんと私が休養していることも、その経緯も話した。ちょっと泣きそうになってしまいそうだったけれども、多分全部話せたはずだ。


「辛かったね。頑張ったね」


 優しい声でそう言ってくれる冬也さんに、結局私は泣かされてしまった。


「俺がついているから、大丈夫だよ」


 そう声をかけて、私の頭を撫でてくれた冬也さんを大好きになったのだった。


 三ヶ月付き合って、ある日提案される。


「海外旅行?」

「俺も有給使わなくちゃいけないし、せっかくだから海外旅行に行きたいと思って。一緒に行こう」

「でも私、英語喋れないバカだよ?」

「俺が通訳するよ。自分を卑下しないで」

「……冬也さんがずっとそばにいてくれるなら、うん、行く」

「まだ行き先行っていないよ? 赤音あかね

「冬也さんが行きたい場所なら何処でも」

「ロスだよ」


 ロサンゼルス! 行く!

 私はむぎゅっと冬也さんに抱き付いた。冬也さんも私をむぎゅっと抱きしめ返してくれる。

 親の許可ももらって、早速旅行に出掛けた。

 機内で英語の日常会話の本で猛勉強。でも十時間のフライトだから、ほとんど冬也さんの肩に凭れて眠ってしまった。十時間起きて勉強をしても、対して喋れるようにはなれないだろう。

 初めて来る国と場所に、緊張でドキドキした。

 絶対に離れないと、冬也さんの手を握る。冬也さんは指を絡めて握り締めてくれた。


「ロサンゼルス!」


 私は両手を上げて喜んだ。これだから、年齢より下に見られてしまうのだ。

 ちょっと幻滅されたかな、と過って振り返るといつもはポーカーフェイスの冬也さんが微笑んでいた。そんな風に見つめられると照れる。

 冬也さんから出逢ってから、ラブ映画の中に入ってしまったみたい。

 そんな冬也さんとまた手を繋いで、先ずはホテルにチェックインした。

 ほげーと漏らしてしまうほど、豪勢なホテルだった。全部冬也さん持ちなんて申し訳ない。でもそれを言ったら怒られかねないので、心の中だけ謝罪。


「ありがとうございます、冬也さん」


 だからお礼を伝えた。


「冬也さん、大好きです」

「……俺も、大好きだ」


 照れた笑みで伝えれば、同じ言葉が返してくれる。嬉しい。

 ロサンゼルスのハリウッドサインを見に行き、記念撮影。

 それから行ったのは、ユニバーサルスタジオハリウッド。

 ハリウッド映画が制作される舞台裏を覗いた。

 楽しいものだった。ポーカーフェイスの冬也さんも破顔してくれたものだから、たくさんの写真を収める。冬也さんも私のことを撮った。

 長蛇の列に並んでいた時のこと。

 後ろに並んでいた女性に話しかけられた。

 ペラペラと英語で話されたものだから、私は聞き取れず、冬也さんに助けを求める。


「キュートな恋人だって君のこと褒めている」

「あーthank you」


 私はとびっきりの笑顔で、そうお礼を言う。

 はしゃいでいたから、私を幼く見えて可愛いと思ったのだろう。


「私は、ジュリアン。夫はフィリップよ」


 そう名乗ってくれた夫妻は、美女と美男だった。

 ジュリアンさんは金髪と青い瞳、サングラスをかけているけれど、美しい。フィリップさんはブルネットとブラウンの瞳だ。ハンサム。


「俺は冬也、恋人の名は赤音。日本から旅行しに来ました」


 冬也さんは英語で名乗ると、私の腰を引き寄せた。

 その行動に、ドキドキ。キュンキュン。

 ペラペラと冬也さんと夫妻が話す。

 何かなぁ、と私は耳をすませて拾おうとした。パーティーってワードが聞こえる。


「よかったら、パーティーに来ないかって。今夜開くそうだ」

「え? なんで誘うの?」

「赤音が可愛いから。それに彼女の誕生日パーティーなんだって」

「……フレンドリーね」


 あまりにも唐突だから戸惑う。でもフレンドリーな人だから、誕生日のテンションも手伝って招きたいのだろうか。


「冬也さんはどうしたい?」

「赤音は?」

「んー、せっかくだから行く? 誘ってもらったし」

「そうだね。行こう」


 冬也さんは行くと返事をした。

 ジュリアンさんが舞い上がるように喜んだ。

 それからは夫妻とほぼ同行して、ダブルデートとなった。

 ジュリアンさんはたまに腕を組んで、食べ物を買おうと誘ってくれる。


「ちょっと妬けるから、あまり俺のカノジョを取らないでくれ」


 なんて冬也さんが多分そんな風に言ったものだから、ジュリアンさんは「可愛い!」と声を上げた。私も同感である。


「ジュリアンは君と少し似ている。無邪気なところ」

「私は子どもっぽいだけ」

「それも魅力だ。好きだよ」


 苦笑を溢すけれど、冬也さんは真面目に言う。いつものポーカーフェイス。かっこいいし、そんな発言はずるい。


「あら、アカネが真っ赤になってる。可愛い!」


 ジュリアンさんがグリグリと私の頭を撫で回すものだから、明るいボブヘアが崩れた。そして、冬也さんはジュリアンさんから引き剥がして羽交い締めにした。

 ジュリアンはキュートなカップルだと喜んだ。

 ユニバーサルスタジオハリウッドをあとにしたら、次はショッピングモールに連れて行かれた。パーティーのドレスを買ってあげるとのこと。

 私は「NO NO!」と言い続けたのに、宥められた。

 冬也さんは乗り気で私の頭を撫で付けつつも、ジュリアンさんと一緒になってドレスを選んだ。

 クールなフィリップさんを見上げても、助けてはくれなかった。選べ、と促すように顎で指す。

 何着か試着したあと「これがいいわ! これがいい!!」とジュリアンさんが推す真紅のドレスを購入してもらった。

 カクテルドレスで、膝丈のスカートはフレアで広がっている。


「靴! 靴もいるわね!」


 ジュリアンさんが次に靴を選ぶものだから、私は「 NO NO!」と叫んだ。


「誕生日なのはジュリアンさんなのに!」

「君を好きにすることが、彼女の誕生日プレゼントだ」


 なんて冬也さんは通訳した。

 誕生日プレゼントは私!?

 結局、紅いヒールを買ってもらってしまった。

 車に乗せてもらって連れてってくれたのは、夫妻の豪邸だった。流石はロサンゼルス在住。プール付きで、大きな庭があった。どんどんパーティーに招待されたお客さんが来て、私達を紹介してくれる。華やかな人達だった。皆笑顔でハグの挨拶。

 まるで自分が誕生日を迎えたみたいに、舞い上がってしまった。

 乾杯をして、食事をして、家のあちらこちらで立ち話。洋画でよく見るホームパーティーは、映画の中にいるんじゃないかって思った。

 まぁ、英語が出来ない私は、冬也さんの通訳を聞くだけ。

 相槌を打ち、ジョークなら大袈裟なほど笑って見せた。それくらいがちょうどいい。

 冬也さんがお手洗いに行けば、私は心細くて、廊下で待った。

 すると、男性の人に話しかけられる。

 名前は確か、ライリーだったかな。フィリップさんの大学の頃からの友人だって、紹介された気がする。

 何か話しかけられるけれども、わからない。いわゆる海外版の壁ドンをされる。これは異性として見て、口説かれているのだろうか。


「ごめんなさい、ボーイフレンドを待っているから」


 そう言っても何処かに連れて行きたいらしく、私の腕を掴んだ。

 なんだろう。私が思わせぶりな態度でもしてしまったのだろうか。

 首を傾げつつも、その場に留まった。


「本当にごめんなさい」


 何度も謝るのだけれども、強引だ。痛みがした。


「何をやっている?」


 そこで冬也さんが出てきてくれる。

 ライリーさんは、パッと手を放してくれた。

 笑って去る。私はそれを怪訝に見送って、手首を摩った。


「大丈夫?」

「うん。ちょっと怖かった」

「ごめん」

「冬也さんのせいじゃないよ」

「ちょっとフィリップに苦情を言ってくる」


 私の肩を抱き寄せて、今度は放さないと言わんばかり。


「苦情なんて、いいじゃない」

「聞こえてた、君を口説こうとしてたんだ」

「妬いた?」

「嫉妬もする」


 にへっと笑ってしまう。むっすりした顔をする冬也さんは、ちょっと可愛いと思ってしまった。

 フィリップさんを見つけ出して、冬也さんははっきりと苦情を伝える。

 フィリップさんはやれやれと言った風に首を振っては肩を竦めた。冬也さんの肩を撫でてから何か言うと、寄り添っていたジュリアンさんから離れる。直接、注意してくれるみたいだ。


「ライリーは女癖が悪いそうなんだ。可愛い君にちょっかいを出したくなったんだろうって」


 冬也さんが、そう通訳してくれる。

 女癖が悪い人に目を付けられたことは、誇っていいのか、なにやら。


「これお詫びにどうだい?」


 戻ってきたフィリップさんが差し出したのは、鍵だ。

 案内されたのは、さっき入った車庫。もう一つの車のカバーを剥がせば、黒いオープンカーがあった。


「ポルシェのボクスターだ」


 ボクスターはわからないけれど、ポルシェはわかる。

 冬也さんを見上げれば、目を見開いて輝かせていた。


「運転していいって。行こう」

「え? あ、うん。ありがとう」


 そんな冬也さんを眺めていたけれども、右の助手席を開けてくれた。

 そこに座る前にジュリアンさんに「楽しんで!」と頬にキスされる。

 左の運転席に座った冬也さんは早速エンジンをかけるので、私はシートベルトをした。

 夜のロサンゼルスの街を駆ける。風が頬を撫でて、髪の毛が靡く。

 気持ちいい。オープンカーなんて初めて乗ったけれども楽しい。

 それは冬也さんもそうだ。笑っていた。

 楽しそうな冬也さんの横顔を見ているだけで、幸せだった。

 ずっと言いたかったことを、ここで伝える。


「I love you」


 風の中、聞こえたのか、聞こえなかったのか、冬也さんは私を二度見した。

 それから、ブレーキをかけて車を脇に止める。

 すると冬也さんは私の顔を両手で押さえて、むちゅーっとキスをしてきた。


「愛してる。愛してる。君を愛してる」


 そう熱がこもった声で囁く。

 私はもっと幸せな気持ちになって、また唇を重ねた。

 人生を一変するような恋だ。




end




今日見た夢を元に書き上げてみました!

ラブコメ風だったのですが、それは書けませんでしたね。

しかし私としては珍しく現実世界の恋愛が書けて、楽しかったです!

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


20180116

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