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007 手遅れ


「んぅ……。こ、ここは……?」



 勇者パーティーの回復役である聖女システィが目を覚まして初めに見たのは、知らない天井だった。



「もしかして夢でも見ているんでしょうか」



 背中に感じるふかふかベッドの感触に、システィは思わず呟く。



 ふと隣を見れば、賢者のルルもベッドで横になっている。



 システィが覚えているのは、冷たい身体を温めるようにパーティーの皆で火を囲っていたところまでだ。

 それが一体全体どうすればこうなるのか分からない。

 それこそ夢だと言われた方が納得できる。



 だが肌に感じる空気感が、今を夢じゃないと告げている。



「……あれ、そういえばエリカがいませんね」



 そこでシスティは同じパーティーメンバーである勇者エリカの姿が見えないことに気付いた。

 明かりもなく薄暗い部屋を見渡してみても、やはりその姿はない。



「あれ、起きてたの?」



 どこにいるか分からないエリカを探すべく、ベッドから身体を起こそうとしたちょうどのタイミングで、部屋に明かりが射し込んでくる。



「良かった、無事だったんですね。どこに行ったのかと心配してました」



「それはごめんなさい。何か書置きでもしていけば良かったわね」



「いえ、それはまあ別にいいんですが……」



 部屋に入って来た時からずっと持っていたお盆をベッドの近くの机に置くエリカに、システィは気になっていたことを尋ねる。



「そんなことより、ここはどこなんですか? 私たちは野宿していたはずですよね?」



「あー……それはね……」



 エリカが気まずそうに顔を背ける。

 そんな妙な反応にシスティは首を傾げる。



「さ、最果ての城ぉー……なんて」



「……は?」



 システィは自分の耳を疑わずにはいられなかった。



「じょ、冗談ですよね……?」



「…………」



「う、嘘だと言ってください」



 何がどうなれば、意識のない間に敵の本拠地である最果ての城に連れてこられているのか。

 その上、ふかふかのベッドで横になっているのか。



 何から何まで意味が分からない。



 しかし普段から勢いだけは立派なエリカが、気まずそうに視線を逸らしているのがむしろ現実的だと思えてしまう。



「ど、どうしてそんなことに……。まさか一人で敵を倒した、とか」



 もしエリカが一人で最果ての城を攻略したのであれば、ここにいるのも分からなくはない。

 しかし昨日の一件を考えると、それも考えにくい。



「ふ、二人の体調が悪いって言ったら、デストがこの部屋を貸してくれたの」



「デスト……?」



 僅かに聞き覚えのある名前にシスティは首を傾げ―———思い出した。



「そ、それってこの城にいた魔王の部下でしたよね」



 清楚ビッチと称されたことは忘れられるはずもない。

 あんなことを言われたのは初めてだ。



「そうそれ」



「な、何でそんな状況に……」



 エリカが状況を説明すればするだけ、意味が分からなくなってくる。



「まぁ強いて言えば服の弁償代、かな?」



 ほら見ろ。

 余計意味が分からなくなった。



 システィは思わず頭を抱えそうになるのを何とか堪える。



「まあとりあえずそれは置いといて、今は早く体調を良くしないと」



 現在進行形で頭痛が酷くなっているのは間違いないのだが、形はどうであれ心配してくれているエリカにそんなことを言うのは忍びない。



 システィがそんなことを考えていると、エリカは何やら小皿を渡してくる。



「これは、お粥ですか……?」



 受け取った小皿の中身を見たシスティは驚かずにはいられない。



「もしかしてエリカが作ったんですか……?」



 勇者パーティーとして生活を共にしているからこそ、システィはエリカに料理経験が皆無であるということをよく知っていた。

 そんなエリカがお粥を持ってきたのだから、それは驚く。



 しかしシスティの疑問に対して、エリカはまた気まずそうに苦笑いを浮かべる。



「そのお粥はデストが作ってくれたの。私はほんの少し手伝っただけ」



「え˝……」



 途端に目の前のお粥を凝視するシスティ。



「ど、毒とか入ってるんじゃないですか……?」



「そんなわけないでしょ! ……多分」



 そこはちゃんと断言してほしい、と思いつつもどこか期待した眼差しのエリカを前に食べないという選択肢は選べそうにない。

 恐らく少しでも自分が初めて関わった料理を食べてほしい、というのが本音なのだろう。



「い、いただきます」



 恐る恐るお粥を口にしてみる。



「……美味しい」



 そのお粥は意外にも美味しかった。

 病人が食べるように気遣い薄味で、優しい味が口いっぱいに広がる。

 とても魔王の部下が作ったものとは思えない。



「そ、そう?」



 ちらちらと盗み見てくるエリカは、どこかニヤついている。



 そんなエリカに構うことなく、美味しいと分かったお粥を黙々と口に運んでいく。



 するとそんなシスティの耳に、ぐぅ、というお腹が鳴った音が聞こえてくる。



 システィは自分のお腹を見下ろしてみるが、現在進行形でお粥を食べているのでお腹はなるはずがない。

 だとすれば考えられるのは……。



「——っ!」



 視線の先でエリカが恥ずかしそうに頬を赤く染めている。



「エリカは食べないんですか?」



 既に二杯目に突入しているシスティだったが、まだ鍋の中にはお粥が残っていたはずだ。

 小皿にも分けているので風邪がうつる心配も、そこまでする必要はないと思うのだが。



「こ、これはシスティとルルの分だから」



「でもルルもそんなにたくさん食べるとは思えないですし、エリカの分も全然あると思いますよ?」



「わ、私はいいの」



「ですがそれだとエリカはどうするつもりなんですか?」



 このままではエリカは空腹のまま過ごすことになってしまう。

 しかしそんなシスティの心配を他所に、エリカの表情はどこか期待の色が浮かんでいる。



「私の分はデストが自分の分と一緒に作ってくれるらしいから」



「そ、そうですか」



 その理由に思わず納得しそうになった自分がいることに、システィは冷や汗を流す。



 お粥の味からしても、恐らくデストの作る料理が美味しいのは容易に想像出来る。

 それを食べる前にお粥でお腹を満たしたくはないというのがエリカの考えなのだろう。



 しかし魔王の部下が作る料理をわくわくしながら待つ勇者、というのは果たしてどうなのだろうか。



「そういえばいつも食後とかにシスティが出してくれるやつって、まだ余ってたりする?」



「え、えぇ。荷物の中にあると思いますがそれがどうしましたか?」



「いや、さすがにしてもらってばかりというのも悪いかなと思ったからせめて何か持ち寄ろうかな、と」



 さもそれが礼儀だとばかりに笑顔を浮かべるエリカ。



 そんな姿に、この勇者様はもう手遅れかもしれないと思わずにはいられなかった。




魔「ですとのりょうりっておいしいよねー」


デ「ま、魔王様!? 急にどうしたんですか!?」


魔「んー、なんとなくそうおもっただけだよ? おいしいなーって」


デ「そ、それは魔王様のことを思って作っていますから」


魔「ですとのりょうりすき!」


デ「そ、そう言っていただけると感激の極みです!」


魔「だからぴーまんたべて?」


デ「それは駄目です」


魔「にゃああああああああああああああ」


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