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004 情報収集


「おう兄ちゃん! 今日もうちの野菜買っていくだろ!」



「もちろん、いつもの詰め合わせでお願いします」



 勇者パーティーを追い返した俺が今一体何をしているかというと食材の買い足しである。

 因みに魔王様はお留守番だ。



 先日、勇者パーティーがやって来たばかりのこのタイミングで魔王城に、五歳の魔王様を一人にしていいのかというのは尤もな疑問だが、魔王城の戸締りは完璧にしてきた。



 万が一魔王城に誰か来たとしても、「誰が来ても入り口を開けたりしたらだめですよ。もし約束を守れたら、何かおやつを買ってきてあげますから」と魔王様と約束してきている。

 おやつと聞いた時の魔王様の輝いた顔を考えれば、約束を破ったりはしないだろう。



 まあそんなに心配なら魔王様も一緒に連れてきてあげればよかったと思われるのは仕方がない。

 しかしこれまで一度も魔王城から出たことがない魔王様にはいささか刺激が強すぎるのではないだろうかという判断だ。



 といっても今日はそのためだけにわざわざこんなところまで転移してきたわけではない。



「そういえばおじさんは勇者って知ってる?」



 俺の目的は魔王城にやって来た勇者パーティーについての情報収集だ。

 最果ての城からの距離を考えると、比較的近いところにあるこの街をあの勇者パーティーが通った可能性は低くない。



「そりゃあ知ってるよ! 勇者様だろう?」



「おぉ! できれば少し話を聞かせてほしいんだけど……。もちろん野菜は少し追加してくれて構わないから」



 この八百屋の店主は昔は冒険者をやっていたらしく、今でもかつての仲間の冒険者たちとの交流があるらしい。

 だとすれば色んな情報を知っているのではないだろうかという俺の判断は間違ってはいなかったようだ。



 追加で野菜の注文を得た店主のおじさんは、ほくほく顔で話し始める。



「俺も詳しいことは知らないんだが、何でも最近になってから急に色んなとこの国が、それぞれの国の勇者を最果ての城に向かわせているらしいんだ」



「え、勇者って一人じゃないのか?」



「あぁ。俺の知ってる限りでも三人はいるな」



「えぇ……」



 まさかの情報に思わず唸る。

 ただでさえ勇者などとは出来るだけ関わりたくないところなのに、それが三人もいるとなれば面倒なことこの上ない。



 昨日のような自称勇者はともかく、他の二人とはできればあまりお近づきになりたくないというのが本音だ。

 しかし魔王城を目指しているという以上、いつかの邂逅は避けられないだろう。



「めんど……」



「ん、どうした兄ちゃん」



「いや、こっちの話だ。それで他に何か知ってることとかは?」



 とりあえず今は出来るだけ情報を集めるのが優先だろう。



「実はこの前、勇者パーティーっていう三人のお嬢ちゃんたちがこの街に来たんだよ」



「もしかして一人は物凄く幼かったり」



「おう、もしかして兄ちゃんも見たのか? 確かに皆若い女の子だったけど、一人は兄ちゃんの言う通り飛びぬけて小さかったな」



「あー……」



 間違いない。

 あの幼女賢者のことだろう。



 どうやらあの勇者パーティーはこの街を経由して、魔王城までやって来たのだろう。



「俺も偶然、そのお嬢ちゃんたちを見たんだけど、その中でも白いローブを着ていたお嬢ちゃんは別格だったね。膨らみが」



「あー……」



 間違いない。

 清楚ビッチな聖女だ。



「勇者様も高貴な雰囲気が出ていて格好良かったなぁ」



「あー……?」



 それは自称勇者のことを言っているのだろうか。



「あ、でも何でもないところで転んだりしてたな」



「よし、おっけー」



 間違いない。

 自称勇者だ。



 高貴な雰囲気とか言うからいまいち分かりにくかった。

 魔王城で対峙した時は全くそんなことなかったのだが、この店主は一体何を見てそう思ったのだろうか。

 もしかしたら店主の目はビー玉か何かなのかもしれない。



「他に勇者パーティーとかって見たことある?」



「いや、俺が見たことあるのはその三人だけだ。他の二人の勇者とその仲間たちは見たことがないな。あ、でも何でも一人の勇者のパーティーには八厄災の生き残りがいるって話だぜ。ほら、これ今日の分」



「へー……。色々と教えてくれて助かったよ。これは野菜と感謝の分」



「おう、またなくなったらいつでも来いよ!」



 八百屋の店主に別れを告げると、俺はそのまま人通りの少ない道に入る。

 情報が足りなさそうだったら他の店も回ろうと思っていたが、一軒目で知りたいことは大体聞けたので今日のところは帰るとしよう。



 俺は魔王城の入り口を意識しながら、転移魔法を発動した。







「……ってなんでいるんだよ」



 魔王城の入り口近くに転移した俺の視線の先では、見覚えのある赤髪の少女が入り口の門を力強く叩いているところだった。



「あ、開けなさいよぉぉおおお!!」



 恐らく勇者は昨日とは違って門が簡単に開かないことを不思議に思っているのだろう。



 それは何を隠そう、俺がそういう魔法をかけたからである。

 魔王様を一人残して街へ出かけられる程度には強度もしっかりしており、もちろん防音効果もばっちりだ。



 今ごろ魔王様は外に勇者が来ていることなど知る由もなく、お昼寝でもしているのだろう。

 あぁ早く寝顔見たい。



 おっと、今は仮にも目の前に勇者がいるのだからもう少し気を引き締めなければいけない。

 とはいえ自分で張った魔法のせいで直接中に転移することも出来ないので、結局は勇者が叩いている入り口から入らなければいけないのだが。



「おい勇者、人様の家の扉を遠慮も無しに叩くとは一体どういう了見だ」



「あっ、ご、ごめんなさい……って何で私が謝らなくちゃいけないのよ!」



 敵ながら惚れ惚れするようなノリツッコミに思わずたじろぐ。



「あ、あんたは昨日の……! 昨日はよくもやってくれたわね……!」



 俺の姿に気付いた勇者は咄嗟に剣を抜き、俺に向けてくる。

 さすが勇者を自称するだけあるというべきか、その頭には世界のために魔王を倒すという目的が刻まれているのだろう。



「あんたのせいでお気に入りの服がだめになっちゃったじゃないの!」



「思いっきり私怨じゃねえか!!」



 少しでも見直した一瞬前の俺を殴りたい。

 そして目の前の自称勇者も殴りたい。



「仕方ないじゃない! 買ったばかりの新しい服をお披露目するいい機会だったんだから!」



「どう考えても魔王城に着てくる感じの服じゃねえ!?」



 思い返してみれば確かに他の二人の賢者や聖女のらしい服装に比べて、一人だけやけに気合の入ったふりふりのワンピースだとは思った。

 しかしまさかそんなおニューの服を戦いの場に着てくるとは思わないだろう。



「そんなこと言われてもどうすればいいんだよ。まさか魔王様に会わせろとか言うんじゃないよな?」



 腐っても俺は魔王様の部下だ。

 いくら勇者の新しい服をだめにした罪悪感が多少はあるとはいえ、そんな非現実的なお願いを聞くつもりはない。



「弁償しなさい!」



「めっちゃ現実的!?」



 まあ迷惑をかけたのはこっちだ。

 ここは素直に新しい服の分のお金を弁償するのが当然というべきだろう、と財布からお金を取り出そうとして気付く。



「って魔王の部下が勇者に迷惑かけるのは当然じゃねえか!」



 思わず叫んでしまったが、よく考えればその通りだ。

 なぜにこれまで勇者に迷惑をかけたことを少しでも悪いとか思ってしまったのかが疑問だ。



 むしろ昨日、魔王様との心地いいランチタイムを邪魔されたり、買い物帰りに絡まれたり、迷惑なのはどう考えても自称勇者の方だろう。



「そ、それはそうだけど……っ」



 勇者も俺たちが敵同士であることを思い出したのか、再び俺に剣を向けてくる。



「お気に入りの服だったのよ!」



「知らねえよ!?」



 目に涙を浮かべながら叫ぶ自称勇者。

 こいつはもうだめだ。




魔「やさいはいいから、おにくかってきて!」


デ「駄目ですよ魔王様。ちゃんと栄養バランスのことも考えないと」


魔「そんなのいいからはんばーぐたべたい」


デ「魔王様、知ってますか? ピーマンの肉詰めという料理があってですね……」


魔「ぴーまんのにくづめ?」


デ「簡単に説明すると、ピーマンの中にハンバーグが入っているんですよ」


魔「はんばーぐ!」


デ「どうですか? ピーマンの肉詰めを食べてみたくなりましたか?」


魔「うん! なかだけたべる!」


デ「…………」


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