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024 かけっこ


「かけっこだー!!」



「「「「おー!」」」」



 魔王様の掛け声に一斉に手を掲げる。

 今、俺たちは普段勝負をする部屋ではなく、魔王城にある庭にやって来ていた。



「これが庭って、どういう規模の話をしてるのよ……」



「何言ってるんだ。仮にも魔王城なんだからこれくらいは普通だろ」



 呆れたように呟くエリカの言葉に俺は反論する。

 とはいえエリカがそう思うのも無理はない。

 なぜなら俺たちの目の前には、何千人と集まれるだろう広さの庭が広がっているのだ。



「魔王様にのびのびと遊んでもらうには、むしろこれでも小さいくらいだ」



 何と言っても最上級魔法を遊び感覚で使ってしまうような魔王様である。

 小さい庭であれば魔法一つでダメになってしまうだろう。



「それじゃあかけっこのルールの確認だ。まず選手は俺、魔王様、エリカ、システィの四人。ルルは悪いが審判をよろしく頼む」



「分かりました。私も走るのは得意ではないのでちょうどいいです」



「じゃあ次はハンデの確認だな」



「ハンデ?」



 俺の言葉にエリカが首を傾げる。



「あぁ。さすがにこのメンバーで同じ条件で走るっていうのは厳しいからな。ここは簡単に距離でのハンデをつければいいだろう。因みにお前にはハンデなしだから安心しろ」



「なんでよ!?」



「いや、ハンデとかつけられるのは逆に嫌がられると思ったんだが」



「ま、まあ確かにそうね。勇者たるものハンデなんてものは受け取れないわ!」



 何やら拳を握りながら力説するエリカをとりあえず無視する。

 こっちはまだハンデの説明の途中なのだ。



「まずシスティの方のハンデだけど、システィって走るのは得意か?」



「い、いえ、お恥ずかしながら走るのは苦手で……」



「あー……」



 俺は僅かに視線を下げる。

 これなら走るのが苦手というのも納得できる。



「じゃあシスティのスタートはここからだな。これでもハンデ少ないかもしれないが頑張ってくれ」



「は、はい! 頑張ります!」



 胸を揺らすんじゃない。

 皆がジト目を向けてきているだろう。



「それじゃあ次は魔王様ですが、魔王様はここからスタートということで」



「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」



「どうかしたか?」



「どうかしたか? じゃないわよ! 何よそれ、ほとんどゴールの目の前じゃない!」



 魔王様のスタート位置を確かめてみる。

 ちょうどゴールの数メートル手前くらいだろうか。



「ちょうどいいだろ」



「ちょうどいいの!?」



「お前、魔王様は五歳なんだぞ。いくら勇者だからとはいえ、それくらいは大目に見てやれよ」



「そうですよエリカ。大人げないです」



「えっ、私がおかしいのこれ!?」



 何やらうるさいエリカを無視して、それぞれにスタート位置につく。

 未だに納得していなさそうなエリカも皆の準備が出来てしまえば、渋々と俺の隣にやって来る。



「あ、あなたには絶対負けないんだから!」



「そうか頑張れよ。まあどうせ無理だろうがな」



「なっ!?」



 怒りの表情をするエリカを他所に、審判のルルがスタート合図に手を挙げる。



「それじゃあスタートしますよー。はーい、どん」



「「適当だなおい!?」」



 思わずエリカと台詞が被ってしまったが、スタートには違いない。

 一斉に走り出す選手一同。



「お、さすが勇者だけあって意外に早いな」



「な、何であなたはそんなに余裕そうなのよ!?」



「そりゃあ魔王様の部下なんだから当然だろ?」



 見れば既に魔王様がゴールしている。

 さすが魔王様だ。

 そしてそんな魔王様がゴールからこちらを応援してきている。

 魔王様に格好悪いところなどは絶対に見せられない。



「ふっ、どうした。それでも勇者か」



「う、うっさいわね! 絶対に追い抜いてやるんだから!」



「それは楽しみだ……ん?」



 エリカを振り返りながら適当に煽っていると、隣に人影がやって来る。

 エリカかと思いびっくりするが、それはあり得ない。

 だとするとこの人影の正体は……。



「シ、システィ」



「さ、さすがデストさんですね。は、早すぎです」



「い、いやそんなことはないと思うが……」



 システィが言っていた走るのが苦手というのはどうやら本当のことだったらしい。

 あんなにあったハンデもすっかり意味のないものになってしまった。



 しかし俺は隣を走るシスティを抜き去ることが出来ない。

 正確にはシスティの揺れる胸から目が逸らせないというべきか。



「ゆ、揺れすぎだろ……」



 システィの豊満な胸がこれまでに見たことが無いくらい揺れている。

 この状況でシスティの胸に興味を示さずに抜き去ることが出来る男なんて、それこそ特殊性癖の持ち主だけだろう。



「あらデスト、もしかして体力の限界? 魔王の部下も大したことなかったわね!」



「なっ、いつの間にっ!?」



 俺がシスティの胸に釣られている隙に、どうやら俺との差を縮めたらしいエリカが挑発してくる。

 しかし俺の隣にシスティがいる限り、ほとんどシスティと同じ速さの俺ではエリカには敵わない。



「優勝は私のものよ!」



「いや、魔王様がもうゴールしてるから」



「そ、そんな細かいことは気にしなくていいのよ! どちらにせよあなたには勝てるんだから!」



 走りながらこちらを振り返って来るエリカには腹立つが、確かにこれでは俺の負けは目に見えている。

 しかし俺の隣にシスティがいる限り、全力で走ることは出来ない。



「くっ、今回は仕方ないが俺の負け――」



「あっ……」



「————あ」



 俺が屈辱に耐えながら自分の負けを認めようとした時、こちらを振り返り挑発しながら走っていたエリカが何かに躓いた。

 とはいえこの庭には段差も何もあるわけではないので、やっぱり何もないところで躓いたのだろう。



 しかし問題はこの後。

 結構な速さで走っていたエリカだったが、油断していたのかろくに受け身も取れていないようだった。



「い、痛い……」



 僅かに涙目になりながら起き上がるエリカの膝は血が滲んでいる。



「じっとしてろ!」



 怪我していても尚走り出そうとするエリカを強い口調で止める。

 エリカが驚いたようにこちらを振り返っているがそんなこと気にしていられない。



「ヒール!」



 俺は一瞬でエリカの下へ駆け寄り、回復魔法をかける。

 すると瞬く間に傷は消え去ってしまう。



「あ、あなた回復魔法が使えたのね」



「当然だ。魔王様の部下だからな」



「そ、そっか」



 腰を下ろすエリカに手を差し出す。

 もう傷も消えてしまったので、これ以上は特に心配する必要はないだろう。



「というかこういう時の回復役はどこに行ったんだ……ってゴールしてんじゃねえか!」



 見れば既にシスティは満足げな表情で肩で息をしている。

 もしかしたらエリカが転んだことにすら気付いていなかったのかもしれない。



「ほら、とりあえず行くぞ」



「う、うん」



 何やら呆けたように突っ立っているエリカに声をかける。

 既にシスティがゴールしてしまっている以上、特に勝負を気にする必要もないだろう。



「あ、あの」



「ん、どうした?」



「そ、その……ありがと」



「別に大したことじゃない。でも今度からは気を付けろよ」



「……っ! う、うん」



 何やら顔が赤い気がするエリカが走り出し、俺もその後を追った。


 

魔「なんかひさしぶりなきがするー」


デ「そうですね魔王様。何でも作者が新作を書いてるようでこちらを疎かにしているそうですよ」


魔「しんさくー?」


デ「はい。何でも『現代恋愛もの』とかいうものを書いているらしく」


魔「ふーん。それはいつよめるの?」


デ「さ、さぁそこまでは分かりませんが。今のところ二万文字くらいの書き貯めがどうとか」


魔「まぁどうでもいいや!」


デ「そうですね魔王様!」

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