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022 疑問


「それで実際その子が本当に魔王なの?」



「まあ、そういうことになるな」



 俺の腕の中でぐっすり眠っている魔王様を見ながら、勇者が訝し気に聞いてくる。

 きっと普段ならお昼寝している時間なのにあんなに走り回ったりしたせいで疲れてしまったのだろう。



「とてもその子がお伽噺に出てくるような、悪い魔王には見えないんだけど」



「そりゃあそうだろ。魔王様は九代目の魔王だからな」



「え、どういうこと?」



 どうやら俺の言わんとすることが分からないらしいエリカたちに魔王様のことを詳しく教える。



「そもそも魔王様はまだ五歳だ。それなのに何十年も昔のお伽噺に出てくるはずがないだろ」



「ご、五歳!?」



「魔王だからあんな見た目なのかと思っていましたが、年相応の容姿だったんですね……」



 システィの言葉に頷く。

 しかしどうやらまだエリカは納得できていないらしく、頭を抱えながら唸っている。



「お伽噺に出てくるような魔王とか、お前たちが魔王魔王って言ってるのはきっと先代の魔王のことを言ってるんだろ?」



「先代……?」



「百年前くらいに国を一つぼこぼこにした魔王だよ」



 エリカたちが考えている魔王は八代目の魔王のことだ。

 間違っても俺の腕の中で気持ちよさそうに眠る魔王様ではない。



「じゃ、じゃあその魔王は一体何をしたのよ」



「さあ?」



「さ、さあって……」



「だって考えてみろよ。魔王様はまだ五歳だ。それにそもそも魔王様が俺以外の誰かに会ったのだって、お前たちが初めてなんだぜ?」



「そ、そうなんですか?」



「あぁ。これまではずっと二人でこの城に暮らしてたわけだし、こんな辺鄙なところに誰かが来るなんてこともなかったしな」



 だからこそ魔王様は初めて会う俺以外の他人に対してあんなに興味を示したのだ。

 まさかそれが魔王の天敵である勇者とは露知らず。



「逆に聞くがお前たちはどうしてこんな城までやって来たんだよ」



「そ、それはここに魔王がいるっていう話があったから……」



「でもそれって先代……八代目の魔王のことを言ってるんだろ? なのにどうしてそんな昔のことを今更掘り下げようと思ったんだ?」



 どう考えてもこのタイミングで勇者が魔王を倒しに、こんなところまでやって来ることが一番おかしい。



「そんなこと言われても私たちだって分からないわよ。ここに贈られたのだって勇者だからっていうそれだけの理由なわけだし」



「いや、そこはもっと詳しく聞いておけよ……」



 仮にも自分の命が危なくなるかもしれない可能性だってあるはずなのに、この勇者はそんなことも考えなかったのだろうか。

 半ば呆れながら、他の二人にも視線で聞いてみる。



「わ、私が聞いた話では何でもこの城の方角からとんでもない魔力が感じされた、とか何とか」



「とんでもない魔力……?」



「それは私も感じました。正直どれだけの実力があればあんなことが出来るのか身震いしました」



 賢者であり魔法を得意とするルルだからこそシスティやエリカが感じなかった何かを感じたのだろう。

 それにしてもこの城からとんでもない魔力……。



「まあその話は置いといて」



「おい、何を思い出したんですか」



「そんなことを気にしたって仕方ないだろ。今はもっと現実的なことを話そうぜ」



「さっきと言ってることが全く違うんですけど!?」



 何やら騒がしい三人を適当にあしらう。



「静かにしないか。魔王様が起きたらどうするつもりなんだ」



「うっ……」



 俺の言葉はどうやら効果てきめんだったらしく、三人とも一気に口を噤む。

 その甲斐あってか魔王様は気持ちよさそうに俺の腕の中で眠っている。

 この寝顔に比べたらここにいる三人なんて鼻くそみたいなものだろう。



「可愛いは正義ってよく聞くけど、あれが本当ならむしろ私たちが悪よね……」



「おいおい、俺としては激しく同意したいが仮にも勇者がそんなこと――」



「「分かる」」



「分かんのかよ!?」



 思わず叫んでしまったが、どうやら幸いにも魔王様の眠りを邪魔せずに澄んだらしい。

 しかしこの勇者パーティーは本当に大丈夫なのだろうか。

 いや、それだけ魔王様の可愛さが尊いということなのだろう。



 本当、たまらんかわいい。



 ◇   ◇



「おいおやじ、最果ての城ってのはどこにあんだ?」



「さ、最果ての城ですかい?」



 明らかに柄の悪い青年から、これまた妙なことを聞かれたと八百屋の店主は戸惑っていた。



「も、もし最果ての城に行こうとしているなら今はやめといたほうがいいと思いますが……」



「あぁん?」



「い、いやあそこには魔王が住んでるっていう噂があったんですが、つい最近勇者様が向かったらしくて噂が本当だったんじゃないかーって専らの噂なんですよ」



 だから最果ての城に行くのは止めておいた方がいい。

 行くとしても勇者様が戻って来て安全が確保されてからにした方がいい、ということを伝える。



 いくら柄が悪そうに見えてもまだ若い。

 それなのに命を危険に晒すなんて行為はするべきではないだろう。



「それなら心配いらねえよ。それに他の勇者が先に向かったなんて聞かされたら、余計急がねえとなぁ」



「他の勇者……?」



 特に商品を買おうともせずに、聞くだけ聞いて店を出て行こうとする青年の言葉に店主が首を傾げる。

 そんな店主を振り返る青年の顔にはとても善人には見えない悪い笑みが浮かんでいた。



「俺はアルマ国の勇者。これから魔王をぶち殺しに行くんだよ」



魔「ねむいからきょーはおやすみ。ばいばい」

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