018 忠誠ゲーム(後)
「ほい……っと、出たのは5か」
一番手の俺がまずサイコロを振る。
そして出た目の分だけマスを進める。
早速5マス分だけ進め、マスの内容を確かめる。
『魔王様の朝食を作る。忠誠度プラス5』
「な、なんか思ったより普通の内容ね」
「当たり前だろ。逆にどんなのがあると思ったんだ」
元々の忠誠度100から始めて、これで今の俺の忠誠度は105になったわけだ。
この調子でどんどん忠誠度を高めていくのがこのゲームの鍵になってくる。
「そ、それじゃあ次は私ね。えっと、サイコロの目は……3だわ」
俺よりも2マス分少ないからかどこか落胆した声のエリカがマスを進める。
「それでマスの内容を見ればいいんだっけ? ……って何よこれ!?」
「な、なんだよ急に叫んだりして」
「マスの内容がどう考えてもおかしいでしょ! 何よ『魔王様にピーマンを食べさせる。嫌われる。忠誠度マイナス5』って!」
「別に何もおかしくないだろ」
「何で魔王にピーマン食べさせたくらいで忠誠度が下がるのよ! 魔王ってそんな小物だったの!?」
「なっ、魔王様を侮辱するのは許さんぞ!」
とは言え、確かにエリカの言うこともあながち間違いではないかもしれない。
これは俺が魔王様のことを考えながら作ったボードゲームだ。
だから当然、ここに書かれてある魔王様が五歳であることが前提条件なのだが、それを知らないエリカたちからしたらピーマン如きで嫌う魔王というのは想像しにくかったのだろう。
作っている時は夢中になりすぎて、そのことがすっかり頭から抜けてしまっていた。
俺は文句を垂れるエリカを何とか誤魔化しながら、ゲームを進める。
「私は4ですね」
ちょうど俺とエリカのマスの間にやって来たのはルルだ。
早速、ルルが止まったマスを確認してみる。
『魔王様にピーマンを食べさせる。栄養満点。忠誠度プラス5』
「ちょっっっっと待ちなさいよ!!」
再びエリカが叫ぶ。
「ど、どうしたんだよ」
「どうしたんだよじゃないわよ! 百歩譲って私のマスで忠誠度がマイナスなのは納得したけど、どうして同じピーマンを食べさせたルルは忠誠度がプラスなのよ!」
「マ、マスにも書いてるじゃないか。栄養満点だって」
「なら私のも忠誠度プラスにしなさいよおおお!」
エリカは怒り心頭といった様子で、顔を真っ赤にしている。
これはどうしたものかと困る俺だったが、そこに意外なところから助け船がやって来る。
「エリカ落ち着いてください。これはゲームなんですよ」
「ル、ルル……。確かにあなたの言う通りかもしれないわね。ゲームなんかに怒ったりするなんて」
「そうですよ。今回のもただエリカに運がなかっただけですよ……ふふ」
「……何か面白がってない?」
「そ、そんなことないですよ? そんなことは決して……ふふ」
よく見れば、ルルの肩が小刻みに震えている。
口元は押さえているものの、ほとんど笑っているのが隠せていない。
「じゃ、じゃあ次は私の番ですよね! 振ります!」
エリカがまた怒りだす前に、システィが慌てて自分の番に進める。
振ったのは果たしてサイコロなのか、それとも胸なのか気になるところだ。
「えっと、私は……6です! これってサイコロの中では一番大きな数字ですよね!」
他の皆よりも大きな数字が出て嬉しそうにマスを進めるシスティだったのだが……。
『魔王様にはしたないことを教える。忠誠度マイナス20』
「「「せ、清楚ビッチぱねぇ……」」」
システィ以外の皆が全く同じことを思った瞬間だった。
「意外に結構かかったなぁ」
「そうですね。もっと早く終わるかと思ったんですが」
「まぁ俺たちはそれなりに早く終わってたんだけどな」
忠誠ゲームを始めて一時間程度が経ち、ようやく全員がゴールに到着した。
因みに一位から俺、ルル、システィ、エリカの順だ。
「結局、最後に忠誠度が初期値よりも高かったのは俺とルルだけってやばすぎるだろ。忠誠度マイナスのマスはプラスのよりも少なくしていたはずなんだが……」
忠誠度が一番高かったのは当然、俺。
初期値の100から順調に忠誠度をプラスしていって、最終的に190にまでなった。
あと少しで200だったのは悔しいが、一位だったので良しとしよう。
その次のルルの忠誠度は150。
まあ普通にプレイしていれば恐らくそれくらいの忠誠度になるはずだ。
そして三番目のシスティの忠誠度は初期値100から大幅に下げて、60だ。
とはいえシスティは全体的で見れば忠誠度がプラスになるマスにいた方が多かった。
しかし一度の忠誠度マイナスが20や30などの大きな数字だったせいで、こんなことになってしまった。
そして最後にエリカだが、エリカに関してはもはや一人だけ別のゲームをしているのではないかと疑ってしまうくらいにひどかった。
初期値100とかそういうことをすっ飛ばして、まさかの忠誠度が0を下回るというとんでも結果になってしまったのだ。
むしろマイナスのマスを狙っているのではないかと疑うほどの運の悪さは、見ていて途中から気分が悪くなりそうだった。
「ま、まぁゲームなんだし気にするなよ? いくらビリだったとはいえ」
「そうですよエリカ。ビリだったとしても気にすることはありません。ビリだったとしても」
「ビリビリうるさいわね! 馬鹿にしてんの!?」
「エ、エリカ落ち着いてください。私も他の二人に比べたら酷い結果ですから……」
「でも私に比べたら全然マシでしょ!」
「そ、それはまあ確かにそうかもしれませんが……」
システィの慰めにもエリカは耳を貸さない。
「と、というか私は別にビリだったのを気にしたりしてないんだから! むしろ勇者パーティーとしては一番立派な結果じゃない!」
そしてまた意味の分からないことを言いだした。
いや、言ってる意味は分かるのだが、それにしても随分と無理やりなこじつけのような気がする。
「きょ、今日はこれくらいにしてあげるけど明日は容赦しないんだからね!」
「お、おう。また明日な」
そしてそんな捨て台詞と共に去っていく勇者とそれを追いかける賢者と聖女。
これまで無駄に騒がしかったからか、やけに一人が静かに思える。
そして床には恐らく今後二度と使うことはない自製のボードゲームが転がっている。
「……とりあえずこれ片付けよ」
「魔王様、今日の晩御飯はどうですか?」
「ん、おいしーよ」
本日の勇者パーティーとの勝負も終わり、俺は魔王様と二人で晩御飯を食べていた。
可愛い魔王様とのこの一時は、勇者パーティーとの勝負で疲れた俺にとっては癒し以外の何物でもない。
「このしろいやつってなにー?」
「これはシチューっていうんですよ。きっと魔王様も気に入ると思ったんですが」
「かれーみたいでかれーじゃないけど、これもすき!」
「それは良かったです」
魔王様の満面の笑みが尊い……。
あまりの可愛さに思わず吐血してしまいそうになるのを何とか耐えながら、俺は魔王様との時間を楽しむ。
「ねー」
「はい、どうしましたか?」
俺がシチューを食べていると、ふと魔王様が声をかけてくる。
食事の時は俺から声をかける以外はいつも黙々と食べる魔王様なのに珍しい。
そんなことを暢気に思っていた俺だったが、次の魔王様の言葉で一瞬で熱が冷めずにはいられなかった。
「さいきん、いっつもなにしてるの?」
魔「ですと、なにかしてるの?」
デ「い、いえ? そんなことは決してないですよ?」
魔「ほんと?」
デ「ま、魔王様! そんなことよりもあんなところにお菓子が!」
魔「えっ、どこ!?」
デ「あ、見間違いでした」




