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017 忠誠ゲーム(前)


「今日の勝負は一味違うぞ!」



 今日も今日とて勝負を挑んできた勇者パーティー三人に高らかに宣言する。



「ど、どうしたのよ。そんなにテンション高くて」



「遂に頭がおかしくなりましたか。あ、おかしいのは元々でしたね」



「だ、大丈夫ですか? どこか頭をぶつけたんじゃ……」



 そんな俺に三者三様の反応を見せる。

 曇りなき眼で心配してくるシスティの反応が何気に一番心に刺さった。

 さすが清楚ビッチというべきか。



「今日の勝負の内容はずばり『忠誠ゲーム』だ!」



「「「忠誠ゲーム?」」」



 首を傾げる三人の前に、俺は前もって用意してきたものを置いて並べる。



「これってボードゲーム?」



「あぁ。俺が寝る間も惜しんで作ったボードゲームだ」



「て、手作り!? それにしてはかなりクオリティが高いような……」



「当たり前だ。何せ俺が作ったんだからな!」



「全然説明になってないんだけど……」



 作るのにはそれなりに苦労したが、今ではいい思い出だ。



「それで、その忠誠ゲームっていうのはどんなゲームなの?」



「もちろん今から説明する!」



 むしろその質問を待っていたと言っても過言では無い。



「この忠誠ゲームはサイコロを振って出た目の数だけマスを進めていくんだ。そして出来るだけ早くにゴールを目指すゲームだ」



「なんだ。大仰ぶった割には意外と簡単じゃない」



「……ただ、このゲームの醍醐味はそれだけじゃない」



「な、何よ」



「止まったマスに書かれている内容で、魔王様への忠誠度をどんどん高めていくんだ」



「……は?」



 満を持しての宣言に、三人が固まったのが分かった。

 そうだろうそうだろう。

 驚きで言葉も出ないだろう。



「忠誠度が高ければ高いほど、色々な特典があって有利にマスを進めやすくなったりするんだ。どうだ、面白そうだろ?」



 この俺の最高傑作だ。

 その面白さの前にひれ伏すがいい!



「どこが面白そうなのよ!!」



「…………ん?」



 自信満々に胸を張っていた俺はどうやら柄にもなく聞き間違いをしてしまったらしい。

 寝る間を惜しんだ影響が今頃になって出てきたのかもしれない。



「ごめん、何だって?」



 今度こそ聞き間違いをしないようにしっかりと耳の穴をかっぽじって聞いてやる。



「それのどこが面白いのかって言ってるのよ!」



「……は?」



 しかしどうやらそれは俺の聞き間違いではなかったらしい。



 だがだとしたらそもそも言葉の意味が分からない。

 俺の作ったゲームの面白さが分からない?

 一体どういう神経をしたらそんな結論になるというのか。



「初めは良かったわよ。簡単に出来そうなボードゲームだし、面白そうかなぁって思ったわ。でも途中からのあれは何?」



「途中からのあれ?」



「魔王様に対する忠誠度とかいうやつよ!」



「そ、それの何がおかしいんだよ!」



 むしろこのゲームの最も注目するべきところだと言っても良いだろうそれに、一体何の不満があるというのか。



「この際面白そうとか面白そうじゃないとかは置いといて、仮にも私たちは勇者パーティーなのよ! ゲームとはいえ魔王に忠誠を誓うなんてあり得ないわ!」



「ゲ、ゲームなんだからそんなこといちいち気にしなくていいだろ!?」



「気にするわよ! 敵の大将になんで忠誠なんてしないといけないのよ!」



「はぁぁぁああああ!?」



 お前はそんなことで俺の努力を無駄にするのか、と他の二人にも協力を仰ぐ。



「わ、私も聖女としてそういうのはちょっと……」



「つまらなそう」



 しかし俺の思いは無慈悲にも打ち砕かれた。



「お前こんな時だけ聖女ぶりやがって! お前の本性はもっとビッチなんだから別にいいだろ!」



「なっ、なんてことを言うんですか! 私は最初から最後までずっと聖女ですし、ビッチじゃありませんから!」



「それにお前もそんな子供みたいな身体してるんだから、もっと子供らしくゲームを楽しめよ! なんだよ『つまらなそう』って!」



「ほう。喧嘩を売ってるつもりなら買いますよ」



 どうしてこんな時だけ勇者パーティー面をするのか。

 俺がこんなにも努力して、せっかくボードゲームを作って来たというのに。



「別にあなたからすれば不戦勝になるわけですし、むしろ喜ばしいことなのではないんですか?」



「そ、それはそうだけど……。で、でもせっかく作って来たわけだし!」



 それなのに一度も使うことなくお蔵入りというのはあまりにも悲しすぎる。



「そんなの私たちには関係ないでしょ。それにデストが最初に提示した条件では、勝負をするもしないも私たちの自由なんだから」



「なっ……!?」



 そういえばそんなことを言った気がする。

 気付けばエリカの言葉に他の二人も頷いており、俺の味方はどこにもいない。



「……お前たちがそんな考えなら、俺にだって考えがあるぞ」



「な、何よ」



 そちらが条件を盾に勝負を受けないつもりなら、俺も条件を盾にさせてもらう。



「勝敗がはっきりした場合の勝負内容については次回以降の勝負で同じことはしない、っていうのは覚えてるよな?」



「エリカ、そんな話があったんですか?」



「た、確かにそんな話もした気がするけど、それが何か関係あるの?」



「不戦勝になった場合は、次回以降の勝負に持ち越される可能性もあるっていう話もしたよな?」



「エリカ、それは本当ですか?」



「……そ、そんなこともあったような、なかったような」



 そう言うエリカだが、その視線は完璧に泳いでいる。

 きっと俺の言葉でようやく思い出したのだろう。



 そんなエリカに他の二人は呆れたようにため息を零す。

 どうやら他の二人はこの条件をそもそも知らなかったらしい。



 しかしいくら知らなかったとはいえ、それに関する落ち度はエリカにのみある。

 俺に文句を言ってこないのは、ルルもシスティもそれを十分に理解しているからなのだろう。



「それで、この勝負はどうするんだ? 受ける? それとも受けない?」



「……受けなかったらどうせ明日の勝負に同じ内容を提案してくるくせに、さすが魔王の部下だけありますね。腹黒です」



「まあお前のところの清楚ビッチほどじゃないがな」



「確かに」



「何でちょくちょく私の悪口を挟んでくるんですか!? ルルさんも乗らないでください!」



「まあそんなことはさておき」



「そんなことはさておき!?」



 システィのツッコミには今日も惚れ惚れするが、とりあえずはスルーの方向で。

 変なやり取りをしていたせいで、予定よりもだいぶ時間が押しているのだ。



「それじゃあ早速『忠誠ゲーム』を始めようか」



 魔王様への忠誠を手に、目指せ優勝!




デ「魔王様! 俺の忠誠を受け取ってください!」


魔「んー! やだ!」


デ「なっ!? ど、どうしてですか!?」


魔「めんどくさそう!」


デ「…………」


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