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016 お勉強


「魔王様、それでは今日のお勉強の時間ですよ」



「うー、べんきょーいやー」



 机に向かう魔王様は、不服そうに足をじたばたさせている。



「駄目ですよ。勉強は大人になる前にしっかりしておかないと」



「でもおもしろくなーい!」



 見ての通り、魔王様は勉強があまり好きではない。

 まあそれは仕方ないといえば仕方ないことではあるのだが、だからといってやらなくていいというわけではない。



 将来の魔王様のために、俺は心を鬼にして魔王様に勉強を教える。



 とはいえ魔王様はまだ五歳。

 そんな本格的に勉強を始めるような歳ではないので、教えることは専ら魔王様でも簡単に覚えられるようなことばかりだ。



 因みに最近では魔王様の努力の甲斐あってか、簡単な足し算が出来るようになった。

 こういう年頃は大好きなものに例える方が覚えが早いので、お菓子などを用いながら説明したのだがどうやら成功だったらしい。



 引き算はまだ勉強していないものの、この調子ならすぐにマスターしてしまいそうだ。



「魔王様、今日のお勉強は社会ですよ」



「しゃかいっ!? それならやる!」



 しかし勉強が好きではない魔王様にも、好きな分野はある。

 それが社会だ。

 どうして社会が好きなのかはいまいち微妙だが、魔王様がやる気になってくれたのならそれでいい。



「それじゃあ前回の復習からしましょうか。魔王様は今この大陸に何個の大きな国があるか覚えていますか?」



「みっつ!」



「はい、その通りです。ではそれぞれの名前まで覚えていますか?」



「えっとー……、あるま、くりえと、びじね!」



「正解です! よくちゃんと覚えていましたね」



「えへへー!」



 魔王様の言う通り、この大陸には三つの大きな国がある。

 その三つがアルマ国、クリエト国、ビジネ国である。

 もちろん他にも小さな諸外国などはあるものの、今の段階で覚えるべきなのはこの三つだろう。



「じゃあ今日はその続きから勉強していきましょう」



「はーい!」



 返事が元気な魔王様、まじかわいい。






「まず、前回説明した三つの国にはそれぞれの得意分野というものがあります」



「とくいぶんや?」



「これだけは他の二つの国に負けない! というのがどの国にも一つあるんですよ」



「わらわはせかいさいきょー!」



「そんな感じのやつです」



「なるほど!」



 好きな社会の勉強だからか、魔王様のテンションがやけに高い気がする。

 まあ可愛いから何でもいいけど。



「例えばアルマ国は、戦うことに関して他の二つの国よりも優れています」



「あるま!」



「そしてクリエト国は、物を作ることに関して他の二つよりも優れています」



「くりえと!」



「最後にビジネ国は、商売に関して他の二つよりも優れています」



「びじね!」



「あの魔王様? ちゃんと聞いてましたか?」



「きいてたよ!」



 本当だろうか。

 正直あやしい。



「それじゃあアルマの得意分野は何でしょう」



「たたかうこと!」



「クリエトは?」



「ものをつくること!」



「ビジネは?」



「しょーばい!」



「おお、全部正解です!」



「えっへん」



 やだこの魔王様、まさか天才……!?



 冗談はさておき、どうやら魔王様はちゃんと俺の教えたことを覚えてくれていたらしい。



「それじゃあここで問題です。三つの国の中で一番強い国はどこでしょうか」



「んー……あるま!」



「残念ですが不正解です。正解は三つとも同じ、です」



「えー! なんでー!?」



 少し意地悪な質問だったかもしれないが、魔王様に理解してもらうためにはこれが一番いい。

 案の定、魔王様は疑問を抱いたようだ。



「たたかうのがとくいなら、ほかのふたつよりもつよいんじゃないの?」



「魔王様の言うことは尤もですが、しかしそんなに簡単な話でもないんです」



 とはいえ五歳の魔王様から考えるとかなり良い着眼点だったのは間違いない。



「三つの国はそれぞれ自分の得意とする分野で、他の二つの国に援助をしているんです」



「えんじょ?」



「手助け、っていう意味です。アルマなら戦う力を、クリエトなら物を作る力を、ビジネなら物を流通させる力を」



 だからこそそれぞれ三つの国が均衡を保っているというわけだ。



「魔王様の言う通り、普通に考えれば戦うことが得意なアルマが他の二つの国より強いと思うでしょう。でも戦うだけではどうにもならないことがあるんです」



「どうにもならないこと?」



「はい。それを理解するためにも今、魔王様は頑張って勉強しているんですよ」



「おー」



 俺の言ってることをちゃんと分かってくれただろうか。

 五歳の魔王様には少し難しい話だったかもしれないが、俺が魔王様に教えたいことは究極的にはそれだ。



 魔王様には実力がある。

 それも最上級魔法をぽんぽん放てるような、魔王の力が。



 でもそれだけではだめだということを、魔王様には理解してほしいのだ。



「しかし戦うことが得意なアルマですが、実は衰退しています」



「どうして? みっつはおなじくらいのつよさじゃなかったの?」



「確かにその三つの強さは同じくらいでした。でも今から百年と少し前、厄災と恐れられた” 八代目の魔王 ”によって一時壊滅まで追いやられたのです」



「まおー……?」



 心配そうに振り返って来る魔王様の頭を撫でる。



「魔王といっても”八代目”です。魔王様は”九代目”ですから安心してください」



「そ、そっかー。でも、そのはちだいめのまおーはそんなにつよかったの?」



「強かったらしいです。とんでもないくらいに」



「ですとよりも?」



「さぁ、それはどうでしょう。ほら、そんなことよりも今は勉強の途中ですよ」



「うー……」



 少し残念そうな声をあげる魔王様だが、無視してお勉強の再開だ。



「とはいえ百年以上前の話ですから、アルマに関しても少しずつ国力を取り戻していっているようですね」



「……そーなんだ」



 明らかに先ほどよりもやる気のない返事の魔王様に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 そこまで露骨だとこちらも反応に困ってしまう。



「……魔王様は、八代目の魔王のように色んな国と戦いたいと思いますか?」



 授業もきりが良いところで、ふと聞いてみる。

 魔王様は机に向かっていて、今はその顔は見えない。



「わらわはあんまりそーゆうことはしたくない。たたかわなきゃいけないくらいなら、ですととふたりがいい」



 しかし今日習ったことを紙に鉛筆で記しながら、魔王様は静かに零す。



「魔王様はお優しいですね。どうかそのお気持ちを大切になさってください」



 俺は思わず声が震えるのを何とか堪えながら、魔王様の頭を撫でる。


「よし! じゃあ今日のお勉強も終わりましたし、ご褒美にお菓子でも食べましょうか!」



「おかしっ!?」



 途端に笑顔で振り返って来る魔王様はやはり可愛い。



「はい! ですから魔王様、今日勉強したことを早く紙に書いてくださいね!」



「まかせろー!」



 願わくば、この笑顔をずっと――。




デ「魔王様! 久しぶりの登場ですよ!」


魔「んー、めんどくさかった!」


デ「そんなこと仰らずに! みんな魔王様の可愛さを見に来ているんですよ!」


魔「そーなの? ですとも?」


デ「そ、それはもちろんですよ! 魔王様の可愛さを一番理解しているのは俺ですから!」


魔「……なんかきもちわるい」


デ「魔王様っ!?」

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