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014 裁縫


「勝負よ!」



「お前ら、休むってことを知らないのかよ……」



「そりゃあそうよ。一日一回は勝負を受けてもらう約束だからね!」



 そうは言うが、勇者パーティーがこの城に住むことになってから毎日欠かさずに勝負を申し込んでくるのはどうだろう。

 一日一回までという条件をつけた俺にも責任はあるのだが、それにしても仲間内で「今日は休もうか」などという話にはなったりしないのか甚だ疑問である。



「むしろ私たちの場合、基本的にデストさんとの勝負以外は何もすることが無いので暇してるんですよ。昨日とかは貸していただいたオセロで遊んだりしたんですが……」



「なるほど。確かにそれなら一日一回の勝負は欠かさないよな」



 さすがの俺もそこまでは考えていなかった。

 こんなことになるなら三日に一回とか一週間に一回とかにしておけば良かったかもしれない。



しかしそんなことを嘆いても仕方がないのは分かっているので、とりあえず今日の勝負内容を決める。



「今日の勝負は裁縫なんていうのはどうだ?」



「裁縫? あの糸をちくちくするやつ?」



「あぁ、それだそれ」



 考えるのが面倒だったとかそういう諸々の理由は置いといて、俺も最近やっていなかったのでリハビリがてらにちょうど良さそうだ……と思ったのだが。



「裁縫とか私やったことないんだけど」



「そういえばお前、料理もしたことないとか言ってたもんな。そりゃあ当然か」



「と、当然って何よ。失礼ね!」



 腕を組みながらそっぽを向くダメ勇者にこの手のことを期待するのは酷だった。



 とはいえ勇者パーティーはエリカだけではない。

 普段から料理を担当している二人がまだ残っている。



「わ、私も裁縫とかはあまりやったことないですね……」



 申し訳なさそうに呟く清楚ビッチな聖女システィ。



「私は針に糸を通すのが面倒だからやらないです」



 そしてどうしてそんなに誇らしげに言えるのか分からない幼女賢者ルル。



「何だ。お前たち三人の中で誰も裁縫が出来るやつはいないのか」



 今日は本格的に何か作ってみようとせっかく道具も用意してきたというのに、どうやら勇者パーティーの三人とも裁縫が出来るやつはいないらしい。



 この場合、どうしたらいいかという話になるが……。



「……ん? 誰も勝負できないってことは今回の勝負は俺の不戦勝ってことで良いのか?」



 以前に決めた条件では、勝負の内容は俺が提案し、それを受けるか受けないかは勇者パーティーの自由。

 そしてその勝負を受ける受けないにせよ一日一回きりである、というものだ。



 今回の場合なんかは誰も裁縫が出来ないのであれば、勝負は受けられないだろう。

 つまり俺の不戦勝になる。



「……まあ今回に関しては仕方ないですよね」



「さすが魔王の部下と言ったところでしょうか。私たち三人ともが苦手な分野を攻めてくるなんて」



「いや、何でだよ。どう考えてもただの偶然だろ」



「さて、どうだか」



 俺の性格の悪さを疑ってくるルルはともかく、不戦勝になるのであれば別に俺としては文句はない。

 むしろ毎回そうなってくれる方が好都合だろう。



 これからは事前に調査して、三人とも苦手なことを勝負に出すのが良いかもしれない。



 自分の苦手分野が何なのかを簡単に教えてくれるシスティやルルではなさそうだが、おバカなエリカなら二人のこともぺらぺら話してくれるだろう。

 エリカ自身の苦手なことであれば、大抵想像できる。



 もしかしてこれ物凄い発想なのでは……。

 


 自分の天才とも思える発想ぶりに震えながらも、今回は不戦勝ということであればこれ以上俺がここにいる必要もない。

 適当に手を振りながら三人に背を向けようとしたところで、ふとこれまで黙っていたエリカの声が聞こえてきた。



「裁縫って言ってたけど、具体的にはどんなものを作る予定だったの?」



「んー、特には決めてなかったんだが。例えばエプロンとか、ローブとか、……ワンピースとか?」



「「「っ……!」」」



 エリカの質問に何気なく答えただけのつもりだったのだが、その瞬間、場の空気が変わったような気がした。



「まあどちらにせよ俺の不戦勝なわけだし、今日は俺もこれで――」



「待ってください。やっぱり勝負しましょう」



 部屋から出て行こうとする俺の服の裾を、どういうわけかルルが掴んでくる。



「いや、勝負ったってお前ら裁縫出来ないんだよな?」



「そういう問題ではありません。やっぱり一日一回の勝負をみすみす捨てるわけにはいきません」



「えー……」



 さっきまでそんな気配全くなかったのに、一体どういう心境の変化があったというのだろうか。



「確かにルルの言う通りね」



「私もそれに賛成です」



「お前らもかよ……」



 しかも他の二人までルルと同じように勝負をする気満々だ。



「まあ勝負するかしないかは俺には決められないし、お前らが勝負するって言うなら勝負するけどさ……」



 如何せん一度やらなくていいと言われた勝負をやるというのは残念である。



「それじゃあ何を作るかだが――」



「ローブで」「エプロンでお願いします」「ワンピースよ!」



「…………三つは作らねえぞ。一つだけだ」



 何やら必死の形相で同時に叫ぶ三人に俺はため息を零す。



「私が呼び止めたのですから、決定権は私にあるはずです」



「そんなの関係ないでしょ! ここはパーティーのリーダーである私の意見を採用するべきよ!」



「待ってください。それだったらパーティーの回復役であり一番の功労者である私の意見が一番です」



「何を言ってるんですか。一番の功労者は勇者パーティーの頭脳である私に決まってます。だからローブを作ってもらうのが当然です」



 三人の会話の成り行きを見守っているが、全く終わりの気配が見えない。

 何を言い争っているのかは分からないが、とりあえずこのままだとどんどん時間が押してしまう。



「お前ら落ち着け。決められないんだったら俺が決めてやる。それならいいだろ」



「ま、まぁそれなら……」



 三人ともそれで納得してくれたらしい。

 意外に素直な三人に驚きつつ、俺は三人の希望の中で何を作るか決める。



「じゃあ今回はエリカの希望のワンピースでいいな」



「やったー!」



 俺の言葉に飛び上がるエリカと、途端に不服そうになる他二人。



「どうしてエリカなんですか。もしかして好きなんですか」



「んな訳あるか。エリカのが一番作りやすいと思っただけだよ」



 思わずエリカ以外の二人の身体を見てみる。



 まずルルに関してはどう考えても平均より小さい。

 その分使う材料は少なくて済むだろうが、それ以上に作りにくさの方が目立ってしまう。



 そしてシスティに関してはエリカよりかは身長も高いが、そこまで極端ではなく平均的だと言ってもいい。

 だが唯一平均的でない部分のせいで、ちゃんと調べでもしない限り作るのは難しそうだ。



「というかいつの間に俺がお前らに服を作ってやろうなんてことになったんだ」



 気付いたのだが、初めはただ裁縫の勝負をする予定だった。

 それがいつの間にか三人が希望を出し合い、自分の作ってもらいたいものを作ってもらうことになっている。



 別に魔王様用に作るのであれば、ローブでもエプロンでもワンピースでもいいわけだ。

 それなのに三人の体型を考えて作ろうとしているのは一体どうしてだろうか。



「「「…………」」」



 俺の言葉にすーっと視線を逸らす三人も、どうやらそのことには気付いていなかったらしい。



「まあもう別にいいけどさ。そういえばエリカにはワンピースが何とかって言われてたし、ちょうどいい機会だろ」



 もはや三人は勝負をする気がないのか、そもそも裁縫道具を受け取らない始末だ。

 ため息を零しそうになる俺の下に、ふとルルとシスティがやって来る。



「分かってると思いますけど、後から私のローブも作ってくれるんですよね? まあ当然ですよね」



「あ、あの出来れば私にもエプロンとか作っていただけると……。作業する時とかにこの白のローブが汚れちゃうといけないので……」



「……分かったよ。あとで作って持っていくから」



 確かにエリカにだけ作るというのは二人からしたらあまり良い気はしないだろう。

 どうせ俺ならそんなに時間もかからずに作れるので、そこまで問題があるわけでもない。



「でもシスティ、後で良いから胸のサイズとか教えてくれ。服を作る時に必要だから」



 断じて個人的に知りたいわけではない。

 服を作る時に必要な情報なのだ。



 大事なことだからもう一度断っておくが、断じて個人的に知りたいわけではない。


魔「あれ、きょうはいつもとすこしちがうじかんなんだね」


デ「何でも”予約投稿”なるものし忘れていたということらしいです」


魔「だっさ!」

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