013 オセロ
「今日の勝負はこれだ!」
エリカたちからの勝負の申し込みを受けた俺は、事前に準備していたものを背後から取り出す。
「……なにこれ?」
「何だ、知らないのか」
俺としてはもっと大きなリアクションを期待していたのだが、どうやら勇者パーティーの三人ともこれが何かを知らないらしい。
これだから現代っ子は。
「これはオセロっていうボードゲームの一種だ」
「オセロ?」
名前も聞いたことが無いのかと驚きつつ、俺はひとまず説明を始める。
「オセロっていうのは二人用のゲームだ。まずそれぞれ黒か白かで色を決める。そして自分の色で相手の色の石を挟むようにして盤面に置いていく」
「挟まれた石はどうなるの?」
「挟まれた石は裏返して、挟んだ色に染まる。そうやって相手の石を挟んで裏返していって、最後に色の多い方が勝ちだ」
「なるほど。それは意外と単純ですね」
以前、魔王様と一緒にやろうと思って用意していたのを物置から引っ張り出してきたのだ。
結局まだ魔王様とは一度も遊べていないのだが、まあ今はそれは置いておこう。
「ちょっと待ってください」
意外と乗り気なエリカとシスティに反して、幼女ルルが待ったをかける。
「あなたは経験者かもしれませんが、こちらは誰もしたことがありません。それでは明らかにこちらに不利なのでは?」
その言い分は尤もだ。
しかし俺がそんなことを考えていないわけがない。
「勝負は三回だ。一人一回ずつと勝負して、その中の誰か一人でも勝てればお前らの勝ちだ」
「その条件なら、まあ妥当でしょう」
「よし、それじゃあ早速やるか。順番はそっちが自由に決めていいぞ。誰からやる?」
「それじゃあ私たちはまずエリカを出します」
「わ、私!?」
突然話を振られたことに驚くエリカだったが特に異論もないのか、素直に勝負の位置までやって来る。
「任せて! 私が一番に終わらせてあげるわ!」
「あーはいはい」
そういうのをフラグって言うんだろうなと思いつつ、俺たちは勝負を始めた。
「お、お前弱すぎだろ……」
俺とエリカの勝負が始まってからしばらく経ち、目の前の盤面は黒一色で染められていた。
もちろん俺が黒だ。
「う、嘘よ。こんなことになるなんて……。な、何かいかさましたんでしょ!」
「してねえよ!? 純粋にお前が弱すぎただけ」
「そ、そんなぁ……」
いかさまなんて魔王様の教育上よろしくないことを、俺がするわけがない。
しかしいくら初心者とはいえ、まさかこんな結果になるとは俺も思っていなかった。
それだけエリカにこの手のゲームの才能が皆無だったということだろう。
それにしても見事なフラグ回収だった。
思わず感心してしまった。
しかし一人目のエリカは倒したものの、今回の勝負はまだ終わらない。
あと二人残っている。
「それじゃあ次は私がお相手します」
「出たな。清楚ビッチ」
「普通に名前で呼んでください!」
未だ落ち込んでいるエリカを他所に、システィが勝負の位置につく。
「それじゃあよろしくお願いします」
揺れる胸を凝視しながら、俺たちの二回戦は始まった。
「うぅ……、悔しいです……」
「あ、危なかった。全然集中できてなかったから本気で負けるかと思った……」
強さだけで言えば、恐らくエリカとさほど変わらないだろう。
しかしその豊満な胸が終始俺の集中力を奪い、正常な判断をすることが出来なかった。
そのせいで置き場所を間違えたりなどの凡ミスを連発してしまったのである。
「恐るべし、清楚ビッチ……!」
「わ、私が何かしましたか!?」
叫ぶシスティは放っておいて、次が最後の勝負だ。
「ようやく私の番ですか。待ちくたびれましたよ」
いかにも自信がありそうな様子のルル。
「前の二戦を見ていて気付いたんですが、これは四つ角を取ることがかなり重要ですよね?」
「おお。たった二戦見ただけでよくそれに気付いたな」
「これでも賢者ですから」
「なんちゃって幼女だけどな」
「……それじゃあ始めますよ」
てっきり怒ったりするかと思ったが、意外と冷静な判断力を残しているようだ。
「ちょっと待ってくれ。オセロの特性に気付いた賢者様には何かご褒美が必要だな」
「そんなものはいりません。……まあでもとりあえず聞くだけ聞いておきましょうか」
口では興味なさそうなルルだが、やや声の高さが上がっている。
「四つ角は初めから白でいい」
「……ほう? そんなことを言っていいんですか?」
「別に構わないさ。どうせ勝つのは俺だしな」
「そうですか。それでは遠慮なく」
そう言って本当に遠慮なく四つ角を白にするルルは勝利を確信したような表情を浮かべている。
「それじゃあラストゲーム、開始だ」
勇者パーティーの頭脳、賢者との戦いが今始まる――――ッ!
「い、一個差……」
「ふー。危なかったなー」
予想を上回るルルの実力にひやりとさせられたが、俺は辛くも勝利を収めた。
その拮抗具合は盤面を見ただけではどちらが多いか分からないほどで、石もたった一個の差しかない。
しかしそれでも俺の勝利には違いない。
「まあ四つ角のハンデがあったとはいえ、他の二人に比べたら十分にマシな方だったぜ」
「それは当然です。これでも賢者ですから」
ふいっと顔を背けるルルの見た目相応な仕草は魔王様のようで可愛らしい。
それにてっきり相当悔しがっていると思っていた割には、意外とそうでもなさそうだ。
一個差の盤面に顔を近づけ、先ほどまでの勝負の内容を復習している。
「すみませんがこの道具、しばらく借りてもいいですか?」
「まあすぐに使う予定もないし俺は全然構わないけど」
どうやら賢者様にはこのゲームが随分とお気に召したらしい。
きっと他の二人を捕まえて、勝負をするつもりなのだろう。
いずれリベンジにやって来ないか、今から不安だ。
デ「そろそろネタが尽きてきましたね、魔王様」
魔「ねた? ねるの?」
デ「いえ、そういうわけでは無いんですが……」
魔「ねないの?」
デ「まあまだお昼寝の時間ではないですからね」
魔「ふーん」
デ「そうじゃなくてですね、色々と話題がなくなってきましたねっていうことです」
魔「なくなっちゃだめなの?」
デ「そりゃあ話題がなくなったら困ると思いますけど……」
魔「ですとがいるならべつにいーやー」
デ「ま、魔王様……っ!!」
魔「ですとはわらわがいるだけじゃ、だめ?」
デ「とんでもございません! 魔王様がいるならそれ以上は望みません! 魔王様最高!!」
魔「えっへん。わらわさいこー!」




