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012 説得

勇者パーティー内での会議(前日談)です。


「この城に住まわせてもらう、ですか……?」



 日も傾いてきた頃、部屋の中に戸惑う聖女システィの声が響く。



「エリカも面白い冗談を言うようになりましたね」



 そして賢者ルルは面白がるように、ふっと吹きだす。



「え、えっと……」



 そんな二人の異なった反応に、勇者エリカは視線を彷徨わせる。



 予想していたとはいえ、やはり二人にどう説明したものか。



 エリカはうーんと唸りながら、言葉を詰まらせる。



「え、冗談じゃないんですか……?」



 しかしそんなエリカの様子がむしろ真実味を出してしまったのだろう。

 二人が恐る恐るといった風に聞いてくる。

 だがその二人は見るからに「こいつ正気か?」という表情を浮かべている。



「わ、私だって考えなしにそんなことを言ってるんじゃないわよ? ちゃんとした理由があっての発言だからね」



「さすがに私たちもあなたがそこまで酷いとは思っていませんでしたが、そのちゃんとした理由というのは?」



「こ、この城に住むメリットがたくさんあるのよ」



「メリット、ですか……?」



 良い感じに食いついてきてくれた二人に、エリカは胸を張る。



「例えばだけど、この城に住むことになったら基本的に快適な生活空間があるわ。今二人が使ってるベッドだったり、キッチンだって完備よ」



「そういえばお粥を作って来てましたね」



「それにもう経験してるから分かると思うけど、荒野の夜は寒いわ。あなたたちだって現に風邪をひいたわけだし」



「それは確かにそうですが……」



 先ほどと比べて明らかに反応が良くなった二人。

 このままいけば何とか説得できるかもしれない。

 少しだけ希望が見え始めたエリカは笑みを浮かべる。



「でもあの魔王の部下……デストさんはどうするんですか? 魔王のいる城に勇者パーティーが住まわせてもらうなんて到底許して貰えるとは思えませんが……」



「そ、それについては私がもう話してきたの」



 システィの疑問は尤もだ。

 初めて触れられる話題ではあるもののエリカは慌てない。

 なぜならそれはこの城に住まわせてもらうために避けては通れない道だからだ。



「話してきたって私のことを”なんちゃって幼女”とか言いやがったあいつとですか?」



「そ、そうその人」



 これから話を進めようと思っていた矢先、ルルが眉を顰めながら聞いてくる。

 表情から察するにあの一言を相当に根に持っているらしい。

 冗談でもこれから言わないようにしようと心に決めながら、エリカは話し始める。



「こっちの事情とかも色々話した結果、この城で住んでもいいっていうところまでは話が進んだの」



「え、本当ですか?」



「それが本当ならこちらとしてはありがたい話ですけどね」



 まさか城に住んでもいいというところまで話が進んでいるとは思っていなかったのだろう。

 二人は意外そうにしているが、本音で言えばやはり野宿よりかはベッドで休みたかったらしく嬉しそうな表情を浮かべている。



 だが話はここでは終わらない。

 むしろここからが本番だ。



 エリカは一呼吸置くと、嬉しそうな表情の二人に続きを話す。



「ただ私たちがここに住まわせてもらうにあたって、条件があるって」



「条件……?」



「うん。三つの条件を呑んでくれるなら、ここに住んでいいし、食事に関しても材料とか好きに使ってくれていいって」



「そ、それは一体どんな条件なんですか?」



 訝しむ二人に、エリカは三つの条件を一つずつ説明していく。



 一つ、魔王の部下との勝負に勝てるまで魔王には危害を加えない、ただし勝負は一日一回のみ。

 一つ、勝負の内容はあちらが決める。

 一つ、以上の条件を勇者パーティー全員が呑むこと。



「————あり得ませんね」



 三つの条件を全て説明し終えた時、ルルが論外とばかりに首を振る。



「私もそれは少し怪しい気がします。何か裏があるんじゃ……」



 そしてシスティもルル程ではないにせよ、デストに出された三つの条件に疑いを持っている。



 そんな二人の様子は先ほどまでの雰囲気とは打って変わり、反対ムード一色に染まっている。



「で、でもこの三つさえ呑めば、あとはこの城に住んでもいいのよ?」



「その前に私たちは魔王討伐が目的です。その条件では相手に都合の良い勝負ばかりされて、一向に魔王を倒すことなんて出来ませんよ」



「逆にその条件で私たちを油断させてから攻撃してくる可能性もありますからね……」



「で、でもデストの実力を考えても、もし私たちをどうにかしたいなら、そんな回りくどいことをしなくても十分に出来るんじゃない?」



「確かにそうかもしれませんが、もしかしたらそれにも何か意図があるのかもしれませんよ?」



「大体、魔王の部下なのに勇者パーティーである私たちをこんな簡単に城に招く方がおかしいです」



「そ、それはそうだけど……」



 エリカの反論も、二人を前にしては意味がない。



 普通に考えれば二人が言っていることは尤もな意見だ。

 敵である魔王のいる城に住まわせてもらおうなんていう自分の意見の方がおかしいことはエリカ自身よく分かっている。

 だからこそ言葉に詰まる。



「……やっぱり厳しいわよね」



「当然です。仮にも私たちは勇者パーティーなんですから」



 これ以上何かを言ったところで、二人の考えが変わるとも思えない。

 既にこの城に住むことで生まれるメリットはほとんど挙げた上で、この結果なのだから仕方ないといえば仕方ないのだろう。



「じゃあ私は、やっぱり説得が無理だったっていうのをデストに伝えてくるから。二人はまだ病み上がりなんだからゆっくり休んでて」



「エリカはどこで寝るんですか? この部屋には二つしかベッドがないですけど」



「病人と一緒の部屋はだめだろってデストが別の部屋を用意してくれてるから大丈夫よ。私もお風呂に入ったら休むから」



 エリカはそう言い残すと、部屋の出口へ向かう。

 そんなエリカの肩が、突然後ろから掴まれた。



 何かと思い振り返ってみると、ベッドから転げ落ちる勢いのシスティとルルの二人が必死の形相で肩を掴んできている。

 そして既に城に住むことは諦めていたエリカに言い放った。



「「その話、もっと詳しく(お願いします)」」




「今回、俺たちの出番なかったですね……」


「そうだねー」


「魔王様は悔しくないんですか! あんなぽっと出の勇者パーティーたちに出番を奪われて!」


「んー、それよりあのおねえちゃんたちって、まえにきたおきゃくさんたちだよねー?」


「そうですね。一度は追い出した人たちです」


「どうしておしろのなかにいるのー?」


「まままっままままま魔王様!! 今からケーキを食べましょうか!」


「えっ、けーき!? やったー! たべるー!」


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