010 料理対決
「い、いただきます」
エリカの前には豪勢な料理が並んでいる。
そしてその隣に座る幼女賢者ルルにも同じように豪勢な料理が並んでいる。
その料理の全てを作ったのは清楚ビッチな聖女システィだ。
二人が自分の作った料理を食べる様子を真剣な表情で見つめている。
そして俺は、そんな聖女の揺れる目に釘付けだ。
というのは冗談で、俺と勇者パーティーの全員がキッチンに勢ぞろいしている。
一度エリカと一緒にお粥を作ったキッチンだ。
「……美味しい」
「さすがほとんど毎日、私たちの料理を作ってきただけの腕前です」
エリカがぽつりと呟き、ルルが口元を拭きながら評価する。
いかにも淑女のような仕草なのだが如何せん見た目が幼女なので何一つとして似合っていない、というのは本人には言わないでおこう。
「そうですか。それは良かったです」
当然とばかりに豊満な胸を張る聖女だが、その澄ました表情には隠しきれない喜びが見え隠れしている。
「次はあなたですよ、デストさん。まあ結果はほとんど決まっているようなものですけど」
「言ってろ」
俺はシスティが作った豪勢な料理の隣に、自分で作った料理を置く。
「あれ、野菜とかもちゃんと入ってるんですね。正直意外です」
「そんなの当然だろ」
この料理は魔王様が食べても問題ないような、いわば普段通りの料理だ。
そんな料理に野菜が入っていないなんてことがあるはずがない。
「でもやっぱりうちの聖女様が作った料理の方が豪勢で美味しそうでしたね」
確かに見た目だけで言えばそうかもしれない。
システィは魔王城にある一番高いお肉を見つけ出し、それを大胆に使っている。
それに比べて俺の方が豪勢さに欠けてしまうのは仕方がないというものだ。
「まあ良いから食ってみろって」
なかなか料理に手を付けないルルに食べるよう促す。
因みにだが隣の勇者は既に食べ始めており、気付けば残りがもう半分とちょっとしかない。
料理を黙々と食べる姿はとても平和の象徴である勇者とは思えない。
というか思いたくない。
「そこまで言うなら……いただきます」
俺の料理をルルが一口食べる。
見た目幼女らしからぬ綺麗な食べ方だ。
しかしそんな綺麗な食べ方をずっと続けていたはずのルルが、途端に食べる勢いが増した。
それは隣の勇者にも迫る勢いで、幼女な見た目に似合う食べっぷりだ。
「な、二人とも一体どうしたんですか!?」
そんな二人の様子に焦るのが聖女システィ。
今の二人を見れば、二人がどちらの料理を気に入ったのかなんて明らかだ。
「当たり前だろ。ちゃんと食べる人のことも考えるからこそ、美味しい料理が出来るんだ」
「わ、私だってそれくらい……っ」
しかしシスティの作った料理を見てみれば、二人の好きなものばかりを作ったのだろうことが容易に窺える。
そこに栄養バランスなどは一切なく、とても食べる人のことを考えての料理とは言えない。
「高級食材を使えば料理が美味しくなるなんて、清楚ビッチなお前が考えつきそうなことだ」
「せ、清楚ビッチは関係ないでしょう!?」
「ほら、早く勝敗を聞こうぜ。俺も暇じゃないんでな」
「くっ……!」
まあ結果など既に分かり切っているのだが。
何故なら高級食材がふんだんに使われたシスティの料理は未だに半分以上残っているのに対して、俺のは綺麗に完食されている。
「まずエリカから聞こうか。俺とこいつの料理、どっちが美味しかった?」
「……デストの料理の方が美味しかったわ」
「素直でよろしい」
こういう時に仲間という理由でシスティを選ばない公正な判断が出来る辺り、さすが勇者というべきか。
それともただの馬鹿正直なのか。
「ほら、じゃあ次は幼女賢者……えっと、何だっけ?」
「ルルですよ。人の名前を覚えないとは一体どういう了見ですか」
「それ以上に見た目の印象が強いんだよ。どうしてそれで十六歳なんだ。本当に詐欺じゃないんだよな?」
「失礼ですね。私は正真正銘十六歳ですよ。私自身この見た目に関してはもう半ば諦めていますが、もし次になんちゃって幼女とか言いやがったらぶち殺しますよ」
「こわっ。この幼女賢者、とても勇者パーティーの一人とは思えないくらい口汚いんだけど!?」
「当然です。乙女の心を傷つけた罪は重いんですよ……って茶番はこれくらいにして、勝敗についてですが」
そう言うと、ルルは一度咳払いをしたかと思うと俺の方に手を差し出してくる。
これは俺の勝利ということで良いのだろうか?
「毎朝、私に味噌汁作ってください」
「ふぁっ!?」
ルルの意味不明な発言に他の勇者パーティー二人が慌てる。
「ル、ルルあんた何言ってるのよ!」
「そ、そうですよ。仮にも勇者パーティーの一員であるあなたがそんな不用意な発言をするべきではありません!」
状況がいまいち呑み込めない俺は、とりあえず成り行きを見守る。
「うるさいです。よく考えてみたら普段から栄養バランスの偏った食事ばかりしているから、私の身長も全く伸びないのかもしれません」
「い、いやそれは関係ないと思うけど……」
「とにかく私はデストの作る栄養バランスの整った美味しい料理に惚れました。明日からは私の分も作ってください」
「まあ食べる人数が増えたところで手間はそんなに変わらないから、俺は別に構わないけど」
しかしルルの周りの他二人が未だに納得していないご様子だ。
するとルルは何やら二人の耳元に口を近づける。
「よく考えてみてください。これから先、私たちが毎回の料理にかかる時間が必要なくなるんですよ? そうなれば勝負に勝つための作戦練りとかにも役立てられます」
「な、なるほど。まさかルルがそんなことを考えているなんて思わなかったわ」
「これでも賢者ですから。そういった戦略は任せてください」
「でももし料理に毒なんか入れられたらどうするんですか」
「これまでのことを考えると、そんな卑怯な手を使ってくるとは考えにくいです」
「……ただ単にあの人の料理が美味しかったからまた食べたいとか思ってるだけじゃないんですか?」
「そ、そんなはずあるわけないじゃないですか。これは作戦なんですよ、さ、く、せ、ん」
「まぁ、そこまで言うのなら……」
何やら小声での話が終わったのか、こちらに身体を向けてくる三人。
「お、意見は纏まったか?」
「はい。これからはデストに私たちの食事も作っていただくという方針で固まりました」
「そうか。基本的に魔王様のための料理だから、そっちの希望とかはあまり聞けないと思うがとりあえず美味しくは作るよ」
「ぜひお願いします。……あと出来れば身長が伸びそうな栄養たっぷりのでお願いします」
「…………」
俺にだけ聞こえるような小声で伝えてくるルル。
その幼女な見た目は既に諦めているのではなかったのか。
「まあ魔王様も食べるからな。栄養たっぷりなのは任せてくれ」
「……これで私の身長も大きく、ふっふ」
何やらぼそぼそと呟く様子は気味が悪いが、今はそっとしておいてやろう。
「とりあえず今回の勝負は俺の勝ち、ってことでいいな?」
「悔しいですが認めざるを得ませんね」
一連の会話から察したシスティが自分の敗北を認める。
「じゃあ今日の分はこれで終了な。俺はこれから用事があるからそろそろ行くわ」
俺は掌をひらひらさせながら、キッチンを後にした。
デ「そういえば並々ならない事情で、これから少し俺たちの出番が減るみたいですよ」
魔「なみなみならないじじょー?」
デ「はい。何でも更新頻度が一日三回からとりあえず二回になるとか何とか」
魔「それってただはんとーめーってひとがだらしないだけなんじゃないの?」
デ「きっとそうです。成敗してやりましょうか」
魔「んー、きょーみない!」




