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第四話 委員長はサイボーグ

 最初は場を仕切るなんて事をした事が無くぎこちなかったが、だんだん慣れて来てスムーズに準備を進める事ができている。それも上手くフォローしてくれている東雲と睦心のお陰だ。

 このまま何事も無ければ良いが、さっきから見かけない奴がいる……。

「え? 絵の具が無い?」

 背景担当の女子生徒がボトルの中を見せながら東雲に文句を言っている。

「おかしいな……さっき男子が買い出しに行ってたはずだけど……江崎!」

 教室の窓側にいた東雲から廊下側にいた俺までそう遠くは無かったが盛り上がっている生徒が多く、東雲の声は掻き消された。

 結局、呼んでも聞こえないと察した東雲は、俺の横にやって来て俺の肩をポンポンと叩いた。

 肩を叩かれて振り向くと東雲は直ぐに話し始めた。

「さっき誰かに買い出し行かせてたよな?」

「あ、海斗に行かせたけど……アイツまだ帰って来てないな……」

 作業は教室の中と前の廊下、危険な作業は別室で行われている。

 教室の中には当然いない。しばらく廊下でしている作業は見ていなかったが、すぐ横だから帰って来ていれば声が聞こえて来るはずだ。

 というか、あいつの性格だと帰って来きたら大声で教室に飛び込んで来るだろうから帰って来ていないのは確かな事だろう。

「どこで道草食ってんだよ~、アイツは……」

 海斗は何もする事が無く、他の生徒と駄弁っているだけだった。それに、サイボーグだから重い物でも軽く運べる。買い出しや荷物運びには適している。

 しかし、まさかサボるとは思っても無かった。軽薄な奴だけどそんなことする奴じゃ無かったのに……。

 このままではせっかく順調だった作業がストップしてしまう。また誰かが買い出しに行くしか無い。

 しかし、今手が空いている生徒はいない。仕方無い。俺が行こう。

「しゃあない。俺が買い出し行って来るよ」

「え? そっか、悪いな。ありがとな」

「帰って来るまではコッチ手伝っといてくれ」

 廊下側では小道具なんかを作っているが、何故か男子ばっかりで中々上手く作る事ができない。手先が不器用な奴が多すぎる!

 そこへ、実行委員の集まりに行っていた斎藤と睦心が教室に帰って来た。俺は二人に海斗が買い出しに行って戻って来ていないという事を説明した。

 海斗の事を聞いた睦心は眉間を抑えて申し訳なさそうな顔をした。隣の斎藤はアハハと苦笑いをしている。

 しかし、睦心は眉間に力を入れて、自分が兄を探しに行くと言い出した。

「睦心がそこまでする必要無いだろ。どうせいつかは戻って来るんだし」

「兄にはしっかりとお灸を据えないといけません! でなければ調子に乗って勝手な事ばかりしますから!」

 グイッと顔を近づけて来て、何故か俺が怒られそうになっている。

 双子の妹の睦心はいつも兄の海斗に振り回されて尻拭いをする羽目になっている。

 海斗は何も知らない人から見れば、無邪気で好奇心が旺盛な子供がそのまま大きくなったように見える。確かに、何か問題を起こす時の海斗は本当に無邪気で好奇心が旺盛なだけなのだろう。

 しかし、海斗の別の顔を知っていると、いつもの海斗の行動に疑問を持ってしまう。

 でも、今はそんな事よりもさっさと必要なものを買いに行かないと。

「わかった、わかった。じゃあ、一緒に行こう」

 ダメと言っても食い下がられて結局「はい」と言う事になるだろうからさっさと許可する。

「有り難うございます……でも、何故一緒に……?」

「一緒は……嫌?」

「えっ⁈ そ、そう言うわけじゃないですけど……。江崎さんと私の目的は違うじゃないですか……」

「そうだけど、アイツの寄り道してそうな場所の当てはあるの?」

 海斗の行動に理由があることの方が珍しいから当てなんて有る筈が無い。それは誰よりも海斗と長く過ごしている睦心が一番よく知っている。

 睦心は少し考えて、渋々といった様子で一緒に行く事を了解してくれた。そんなに嫌なのか……。

 現在の時刻は午後二時過ぎだ。真夏かつ一番気温が高い時間という事もあり、外は焼けつくような暑さでウンザリする。それを紛らわす為にも何か話でもしようと思いつく。

 睦心と二人きりになる事はあまり無い。海斗と睦心の兄妹はいつも一緒にいるからだ。それは海斗の尻拭いをしているからというのもあるが、海斗が何も問題を起こしていない時でも常に二人一緒だ。普段、海斗に手を焼かされて怒っているが、それも兄弟愛故の事なのだろう。

 そんなベッタリな兄妹が一人になる事は滅多に無いから睦心と二人で話すことも無かった。やっぱり、兄の海斗がいる時には聞きにくいこともあるし、海斗が何に反応するかもわからない。それに、話が遮られる事も多いからマトモに会話ができない事もある。俺は一定の距離を保って後ろを歩いている睦心に尋ねた。

「そういえば、睦心は何の役やりたいとかある?」

 自分でも何でこんな普通の事を聞かないといけないんだ!と思うが、大事な事だ。

「私ですか? ……うーん、特に希望する事は無いですね。兄さんは何か言っていましたか?」

「アイツが……?何も言ってなかったと思うけど」

「そうですか。でしたら、私はどの役でも構いません」

「そっか。じゃあ悪いけど、どの役でも出来る様に台詞全部覚えといてくれないか? 無理かな?」

「フフッ、サイボーグを馬鹿にしないでくださいね。そんな事は簡単にできますよ」

 確かにサイボーグなら簡単になんでも記憶する事ができるか、と一人で納得して頷いた。

「一応確認しますけど、篠田さん達は役の事で何か言っていますか?」

「えーと……東雲はヒロイン役がいいって言ってたな。斎藤さんは何も聞いてない。篠田はヒロインの台詞しか覚えてないみたいだからヒロインやる気だな」

「えっ⁈」

 理由は分からないが何故か驚いた声を出した睦心。

「どうした?おかしな事言ったか?」

「いえ……何でも無いですよ。急いだ方が良いのでは?」

 睦心は何でも無いと言っているが絶対何かあるはずだ。それが何なのか聞き出したい。しかし、その事よりも早く必要な物を買って教室に戻る事の方が大事だ。今は諦めよう。

「そうだな。早く行かないとな」



 結局、海斗が帰り道に通るであろう道を使って絵の具を買いにホームセンターへ向かったが、海斗に会う事は無かった。ホームセンターへ向かう道は俺と睦心が通った道が一番近道で、それ以外の道はかなり遠回りになる。

 今まで海斗が約束を破るような事は無かったし、やるべき事はしっかりとする奴だった。それに、買い出しを頼んだ時にはサイボーグの能力を活かして普通の人間には到底無理な速さで買い出しに行ってくれた。睦心はサボっていると言っているが、俺は何かあったのでは無いかと心配になる。しかし、今回に限って本当にサボっている可能性もあるが。

 ホームセンターはかなりの広さでそれが3フロアもある。何か気になるものでも見つけて油を売っているのかもしれない。

「では私は兄を探して来ますね」

「うん。絵の具を買ったら俺も手伝うよ」

「そんな!大丈夫ですから江崎さんは早く教室に戻って下さい!」

 そんな事を言われても俺だって海斗の事は心配だし、海斗を買い出しに行かせていたのは俺だ。俺にも責任はある。睦心はそれでもと言って俺に帰るよう言ったが、俺が譲らないと分かると折れてくれた。

 睦心は三階から調べると階段を駆け上って行った。俺もそれと同時に歩き出し、一階で売っている絵の具を確保して一階を調べた。

 ————

 一階に海斗はおらず、二階を探す事にした。二階には日曜大工に必要な物が売っている。劇で使う物の幾つかもここで材料を買っているが、今回海斗に頼んだ物はここに売っているようなものでは無い。

 階段を上りきると丁度睦心が三階から階段で下りて来て鉢合わせた。

「どうだった……って、聞かなくてもいいか……」

「はい……。……では、この階も探しましょう」

 俺が先に歩き出し、その後ろを睦心が一定の距離をとって歩いて来ている。

  ————

「……半分くらい回ったけど……いると思う?」

 睦心は半ば諦めた様な顔で首を振る。

 しかし、ここまで探したのだから最後まで探しましょう、と言うからそのまま残りの場所を探した。ここまで歩いて来たエリアでは様々な木材が売られていたが、ここからのエリアは木を切ったり、繋げたり、色を塗ったりと加工する為の道具が売られている。

 さっきまでは木材ばかりで退屈だったが、見慣れない工具が並んでいると何となくテンションが上がる。レンチやノコギリ、ハンマー等色々とそそられる物があるが、やはり一番はドリルだ。ロボットが巨大なドリルで敵を貫き勝利する、というシーンを小さな頃に子供向けの番組でよく見ていたからだろう。とは言ってもここにあるドリルは小さい頃に見ていた物とは大きく異なる。

 そういえばいつも妹達と三人で観ていたっけ。あの頃はテレビの中のヒーローは本当に存在しているのだと思って三人で無邪気に応援していたものだ。しかし、そんな妹ももう中三になり、あの頃みたいに無邪気にはしゃぐ事はできなくなった。上の妹——上の妹と言っても双子だから年は二人とも同じだ——は、元気で活発な良い娘に育ったが、昔の事を話すと恥ずかしがってしまう。下の妹なんて素直じゃないから、こんな事があったと話すと否定するか無視されてしまう。高校に入ってからは一人暮らしで一年半くらい二人に会えていない。この夏休みの間に一度帰ろうかな……。

 そんな事を考えている内にこのフロアを一周していた。やはり、予想通り海斗を見つける事はできなかった。睦心には悪い事をしてしまった。最初からここには来ないで近所を回っていた方が良かったかもしれない。

 後は睦心に任せて俺は教室に戻ろう……。

「ごめん睦心。後は任せたよ……って、いない⁈」

 振り返ると、さっきまでピッタリと一定の距離を保って後ろを付いて来ていた睦心がいなくなっていた。兄妹揃って消えないでくれよ……。と言っても睦心は兄の様に訳の分からない事はしない。多分、目に付いた商品が気になってそれを見ているのだろう。

 来た道を少し戻るとやはり睦心は商品棚を見ていた。そして、手に取って形を見たり、動かしたりしていた。

「おーい、睦心~」

 睦心は声をかけるとすぐに振り向いた。

「あっ、すいません!少し気になったので見てしまいました……」

「……それって、ドリル……?」

「はいっ!」

 穴を開けたり、ネジを締めたり緩めたりする時に使う工具。何でそれを睦心は気になったのか。嫌な考えが頭に浮かぶ。

「それって何の為に使うつもりなんだ?」

「兄さんの為に……」

  ああっ!やっぱりそうか!ドリルを使って海斗がこれ以上好き勝手しないように躾けるつもりなのだろう。そんな事は友達として見逃す事はできないし、人として認められる事ではない!兄の体に妹が穴を開けて中身を弄る……恐ろしい……。

「駄目だ!そんな事してもアイツの為になんかならない!」

「えっ……?どういう……」

「どうしたも何もないだろ!とにかく止めるんだ」

「は、はい……」

 睦心は何故そこまで言うのだろう? という顔をしているが、恐ろしい凶行を止めるのは当然の事だ。サイボーグだから普通の人と感覚がズレているのかもしれない。しかし、妹に体を弄られるのは……悪くないかもしれない。もちろん穴を開けたり、体の中を弄くり回すとかいうのはごめんだ。今度会った時にでも頼んでみようか。

 これでもうここに用は無くなった。睦心の手を引いて出口へ向かい外へ出る。外はもう日が少し傾き始めており、焼けつくような暑さも幾分かマシになっていた。

「暑さマシになったな。睦心はこの後どうするの?」

「兄さんが戻っているかもしれないので私も教室に戻ります」

「そっか。じゃあ早く帰ろう」

 早く帰ろうと言っても二人とも——睦心はサイボーグだから違うかもしれないが——疲れて走る気にも、早く歩く気にもならない。睦心はさっきまでと変わらず俺の後ろを一定の距離を取って付いて来る。これはサイボーグとしてインプットされたからなのか睦心の性格がそうさせているのか……。

「江崎さん。疲れてるのですか? 荷物持ちますよ」

 振り返ると、睦心は心配した表情で荷物を受け取ろうと手を出していた。何で急に……? ……そうか、歩くペースが落ちていたのか。睦心はずっと一定の距離を保っていたからそれにすぐ気がついたのか。

「じゃあ頼むよ……ありがとう」

 礼を言って絵の具の入ったビニール袋を睦心に手渡そうとした時、聞き覚えのある声がどこから聞こえてきた。

「この声って……」

「江崎さん!」

 俺は誰の声かすぐに気が付く事も出来なかったし、どこから聞こえてきたのかも分からなかった。しかし、睦心はすぐにどちらも分かったようだが、なぜか俺の名前を呼んだ。

「え、うわっ⁈」

 俺は何も理解出来ないまま睦心に脇で抱えられた。そして、俺を抱えた睦心は大きく後方へ何かを避ける為のように飛んだ。次の瞬間、俺の立っていた場所に大砲で撃ち込まれたのではないかと思うくらいのスピードで何かが飛び込んで来た。閑静な住宅街に轟音が響く。

「な、何だぁ⁈」

 突然の事で驚き間抜けな声を出してしまう。睦心の脇に抱えられているという状態だけでも十分間抜けだが……。

 道路のコンクリは砕けて煙が上がっている。その中からさっき聞こえてきた声と同じ聞き慣れた声が聞こえてきた。

「おぉーい!!何してんだよ二人とも!」

「何してるって……!兄さんこそ何してたんですかっ!」

 兄さん?そうだ、あの声は海斗の声だ!無茶苦茶な奴だけど今回の登場の仕方は酷過ぎる気がする……。

「絵の具買いに行ってたんだよー!」

 絵の具の入ったビニール袋を顔の前に出してプラプラさせている。何故か袋はボロボロになっている。

「その後何してたんですかっ!」

「多分アレだよ!見つけたんだよ!」

「アレ……?」

 睦心は海斗が何を見つけたのか言い終わるまで待っていたが、俺は気になって声に出してしまった。

「おっ!気になるか江崎!フッフッフッ……俺は!ツチノコを見つけたんだ!」

 まさかそんなモノを追いかけていたとは……。

「マジかよ!」

「マジだぜ!」

「で、捕まえたのか?」

「それがな……逃げられちまった……」

「そうか……」

 盛り上がる俺達二人。しかし、一人は、睦心は違った。

「そんなどうしようもない事で皆さんに迷惑かけて……」

 俺を抱える力が強くなり、ワナワナと震えているのが伝わってくる。流石に海斗も身の危険を感じたのか、笑顔が消えて逃げようと民家の屋根に飛び上がった。

「兄さん!逃がしません!」

「おい!俺下ろしてよ!」

 睦心は俺を抱えたまま民家の屋根に飛び上がり、海斗を追いかけて屋根から屋根へ飛び移る。

「いや!下ろして!」

「舌噛みますよ!黙って下さい!」

「ちょっと⁈ 助けてー!!」

 このまま俺は一時間以上飛び回った。当分ジェットコースターとかには乗りたくなくない……。

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