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お呼びじゃない奴 おまけ

 試合の後、篠田と合流して三人で歩いて帰る事になった。

 リサは今日も会社の自室に泊まるつもりのようで、一人だけ俺たちの帰り道とは途中で別れる事になる。だが、さっき起こった事もあり、二人でリサを会社まで送っていく事にした。

 篠田はスーツ姿に、背中に布を巻いた【斬機】を背負い、手にビニール袋をぶら下げているというかなり目立つ格好をしている。実際、球場から帰る小さな子供達からは疑問の声が聞こえてきていた。布を巻いていたから竹刀か何かだと思われてたのかもしれないが、巻いてなかったら警察沙汰になってたよな……。

 試合はタイガースが三対二で勝利したおかげで、リサはかなり上機嫌だ。年相応……いや、もっと下の年齢に見えるくらいのはしゃぎ様だった。

 球場から約二十分歩いて会社のビルに到着した。

「では、斬機を頼む。私の銃はどこだ?」

「あー、はいはい。刀はその辺に置いとけ」

 リサは面倒臭そうに壁に付いたスイッチを押した。すると、スイッチの横の壁が開いて、幾つもの銃が掛けられたラックが出てきた。その中から一番小さなハンドガンを取り出して、それを持って篠田の方へと向かった。

「ほら、これだろ。予備の弾はこれ」

 それを無言で受け取り、状態を確認している。それが終わると、ホルスターに入れて太腿に装着した。

「不良があればどうなるか分かってるだろうな?」

「人に任せといてなんだよそれ〜。罰金なんか払わねぇからなっ!」

「ふんっ……帰るぞ江崎」

 篠田はさっきの様に腕を掴んだ。しかも、さっき以上の力で掴んで、絶対に離れないようにしている。もう、リサは割り込む理由は無いから唯々俺の腕が痛いだけだ……。

「じゃあな、リサ。また行こうな、野球観に……痛ってぇよ篠田!」

「え、う、うん……今度は自分でチケット買えよっ!」

 リサは少し顔を赤くして注意してきた。確かに奢られっぱなしも良くない。次は俺がリサの分も買ってやらないとな。

 その事を言いたかったが、篠田が俺を引きずってエレベーターまで連行した所為でリサに返事することは出来なかった。

 ビルから出た時に時計を確認すると十一時を回っていたが、篠田は早く家に帰ろうというような雰囲気を出してはいない。むしろ、まだ帰りたくないという風感じがする。

 しばらくケータイの画面とにらめっこしていた篠田だったが、ケータイを仕舞うって放していた俺の腕を握り直して歩き出した。

「お、おい、そっちの方向って全然違うだろ。どこ行くつもりなんだよ……?」

「いいから黙って付いて来い」

 そんな事言われてもがっしりと腕が掴まれているからそうするしかない……。

「よし、ここだ」

 そう言って立ち止まった所は、ビルからそれほど遠くない所にある公園だった。この時間だと当然、普段ここで遊んでいるような子供の姿は見られない。

 篠田は公園の中を見渡している。何か探しているのだろうか。探すと言ってもそんなに広い公園では無いからすぐに見つかるだろう。

 案の定すぐに見つけられたようで、また腕を引っ張られた。

 引っ張られて着いたのはベンチの前で、先に篠田が座り、その横の空いたスペースをポンポンと叩いている。

「早く座れ。……お前はいつも私を待たせる……」

 何故かちょっと拗ねているみたいだ。慌てて謝って篠田の横に座る。

「で、何だよ? さっきの話か?」

「いや、それはまた明日でいい。……そんな事より江崎、試合中リサに何をしていた」

 何をしていた……? 何かしたか俺? 普通に応援歌歌って応援してたぐらいしか……。あ、リサのシャツの中を見ようとしていたのがバレたか……? いや、歌詞カード見る時に必要以上に引っ付いた事か……? まさか、勝ち越した時にリサが抱き付いてきた事……いや、アレは俺からじゃないから大丈夫な筈だ……。

「おい、江崎、おい! どこを見てる。思い出せないなら言ってやる。……あーん、してただろ」

「あ……それか。ハハハッ! お前そんな事がどうしたんだよ?」

 あれこれ心配して損したよ。まさか篠田がそんな事を口にするなんて思っても無かった。

「そんな事……っ⁈ 何故私よりアイツがっ……!」

「てか、見てたのかよ、VIPルームって俺達の座ってた所の反対だったよな。双眼鏡でもないと見えないよな、何でそこまでして……」

「それは……! あの不届き者がお前に何かしないかとな……ああ! もう黙れ! とにかくコレだ!」

「うわっ! これって……」

 黙れと言いながら篠田は球場から手に持っていたビニール袋を俺に押し付けた。

 袋を開いて中に入っているものを取り出して見ると、中に入っていたのはさっき見たような容器だった。その中にはやはりさっき見たようなたこ焼きが入っていた。

「ほら……もう、分かるだろ……?」

 俺から目を逸らしながら、言いにくそうに訴える。

「何だ、くれるのか。ちょっと小腹が空いてたから丁度……」

「バカっ! そんな訳無いだろう! 私に……! 食べ、させろ……」

 なるほど、そういう事か。篠田の顔はかなり赤い。確かに普段言わない事だから恥ずかしいのは分かるが……そんな事を言うとは意外だった。

「別にそれならうちに帰ってからでも……」

「たこ焼きが冷めるだろ。不味くなってから食べる気は無い」

 あら、そこは気にするのね。確かに冷めると食えたもんじゃ無いけど。

「じゃあ、いくぞ。……ほら、あーん」

 爪楊枝でたこ焼きを刺して、篠田の口の前に持っていく。

「う、うん、あーん……」

 篠田は大きく口を開けてたこ焼きを一口で頬張った。やはり、リサと同じで口の周りはソースだらけになってしまった。

 篠田は素早く咀嚼して、五秒かからないくらいで一つ目を飲み込んだ。

「どう? 美味いか?」

「ああ……美味しいよ……」

 俺の持っているたこ焼きの容器はもう既に冷たくなっていて、中のたこ焼きもかなり冷めていただろう。けれども、篠田は本当に穏やかな笑顔で美味しいと言った。逆の立場なら俺もそう言っただろう。

「……あー」

 篠田は何も言わず口を開けて次の要求をしてきた。ただでさえ普段からのギャップが凄いのに、口の周りのソースがそれをより引き立てている。

 けれども俺はこんな一面もある篠田だからここまで付き合ってこられたのだろう。俺は、篠田がずっとこんな風にしていられる世界を作りたい。

 そのために出来る事は一つ。もう一度奴らを倒し、必ず生き延びてやる。

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