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「楓は賢くて可愛い自慢の娘だよ」

 私が博士に取り入った手段を簡単に説明すると、まず素直に頼み込む。それがダメだとわかったら色仕掛け。それでも博士は首を縦に振らなかったので、強化された筋力で無理やり例の機械に座らせた。

 そこまで行ったところで博士は泣いて謝り、私を弟子として研究室へ出入りさせてくれることになった。

(もしかしてこの機械、同意を得なくても使える?)


 一通り話がついたところで博士は帰してあげた。



「パパ」

 私はパパと二人きりになる。

「どうした楓」パパは私に優しい声をかけた。パパには是非とも聞いておきたいことがある。

「ねえ、パパ、どうして私を娘にしようと思ったの?」

 それはどうしても聞いておきたかった。たとえ、大倉博士からのそそのかしがあったにせよ、入れ替わりの相手を私に選んだ理由はなんだったのだろうか。


「それはね、お前が誰よりも努力家だったからだよ。自分の娘がこれだけ努力してくれたら、私はいつもそう思って生きてきた……。だから娘とお前を入れ替えることにしたんだ」そこには、実の娘を失った苦しみなどはなかった。


「そう。パパ、ありがとう」

 そう言うと私はパパの腕にぎゅっと抱きついた。パパは笑顔で私の頭を撫でてくれた。

「私の娘は素直で努力家なんだ」そう言うパパの心は少し凍りついていたようだが私には大した問題ではない。



 その晩は眠るまで長くかかった。膨れ上がった性欲を静めるのに時間がかかってしまったのだ。



 翌日は日曜日だった。私はじっくり勉強することにした。


 この一日楓として生活してわかったことが幾つかある。


 まず、習慣には体の習慣と心の習慣があるということだ。

 例えば、私はもともとの性格からして毎日何時間でも机に向かうことができたが、この体では座っているうちに辛くなってしまう。そこは気力でカバーするのだが、どうも長時間勉強することに慣れていないらしい。後述するが、頭自体はいいので、単純に慣れの問題だろう。

 また、意識しなくても立ち居振る舞いは女性的にできた。おそらく、体が覚えているというやつなのだろう。トイレに入って立ち小便をしようとはしないし、がに股で歩こうともしない。ごく自然に私は女だった。


 第二に、私は紛れもなく天才だった。高校生のテキストをやっても面白くないので、昨日紅葉さんが置いていった、大学のテキストを勉強していた。入れ替わりのゴタゴタでカバンを忘れて行ったのだ。入れ替わり前の私なら三時間必死にといてやっと1ページ理解できていたほど難解なテキストが、読むだけで理解できた。あまりにすらすら頭に入ってくるので、テキストが一冊一日で終わってしまった。普通の大学生が三ヶ月かけて学ぶテキストだ。これを天才と言わずしてなんと言おう。


 第三に、代謝と体力が上がっていた。昨日大倉博士に言われたことを受けて、私自身の体力を試してみたのだ。結果、同年代の男子の平均をはるかに上回っているらしいということがわかった。これはおそらく脳のリミッターを外しているということなので、明日筋肉痛にならないか心配だ。


 最後に、欲望に弱くなっていた。大倉博士は知識欲が増すから良いことだと考えていたようだが、ましたのはそれだけではない。食欲、性欲、さらには金銭欲、購買欲、自己承認欲求など色々なものが抑えきれなくなっていた。

 食事は、代謝が上がっている分とちょうど総裁するくらいのカロリー量なので良しとしよう。

 問題は自己承認欲求や自己顕示欲で、今日一日で10回くらいパパに「楓は賢くて可愛くて自慢の娘だよ」と言わせた。この欲求は異常に強くなっており、気をつけなければ対人トラブルにつながりそうだ。


 多少の問題はあるものの総じて自分は素晴らしい。こんな身体に生まれ変われるなんて私はなんて幸運なんだろう。


 明日は高校に行って、博士の研究室に行く。今から楽しみだ。

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