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「今後一切お前に指図しないと誓おう」

「え、えーと、どういうことでしょうか」俺はそういうのが精一杯だった。教授は一体何を言っているのだろう?


「ああ、言葉足らずだったね。楓、すまないが席を外してくれ、紅葉君と話したいんだ。一応言っておくが逃げないようにな。毛利、楓を頼む」どうやら椿教授の娘さんらしかった。椿教授は二人が部屋から出て行くのを待って私に向き合う。


「急に呼び出してすまなかったね。さぞや戸惑ったことだろう。ちょっと人には言えない事情があって、攫うような形になってしまったこと、すまなく思う」

 先生は優しく私に釈明した。


「いえ、いいんです。それより用件は何でしょうか?」

 何となく勘ではあるが咲き位ほどのお嬢様に関係ある話な気がする。というより、お見合い説を俺はまだ捨てていない。


「ふむ。いつもと比べるとやはり緊張しているようだね。まあ、仕方ない」

 先生はゆっくり息を吸い込むと言った。


「君は才能が欲しいと思ったことはないかね?」


 才能。その言葉を俺がどれだけ憎んでいるか知っているものはそう多くない。だが俺は才能があるものを憎んでいた。俺はどんなに努力しても波のちょっと上にしかなれない。しかし、俺よりできるやつが俺以上に努力しているとはとても思えない。だからこそ俺は才能がある人間を憎んでいた。そして同時に才能がない自分を憎んでいた。


「はい。常に思っています」

 俺は悔しいながらも正直に言った。先生は才能のある人だ。俺以上に努力を積み重ねてきたことは間違いないが、それでも才能がある人だ。だからこそ、先生が妬ましいと思ったことはある。


「やはりそうか。今日は君に才能をあげようと思う」


「は?」

 思わず、は?、とか言ってしまった。才能をあげる? 先生は何を言っているのだろう? 才能とは生まれつき持っているもの、そして変えられないもののはずだ。そのことは俺自身が痛いほど知っている。


「それは貰えるものなら欲しいですが、そんなことは不可能でしょう」

 俺は平静を保とうと努力しながら言った。うっかりすると泣いてしまいそうだった。俺は才能という言葉が嫌いだ。大嫌いだ。しかし、それが貰えるのなら悪魔に魂を売っても良い。そのくらい俺は才能に貪欲だった。


「もしそれが不可能じゃないとしたら? 君は自分の全てを捨ててまで才能が欲しいと思うかね?」


 答えは聞かれなくても決まっていた。


「努力の才以外他の全てを捨ててでも才能が欲しいです。そして、俺は努力できる天才としてこの世を生きていきたいです」

 それが俺の本心だった。努力が実らない俺の才能のなさを俺は心底恨んでいた。しかし、それに目をつぶり、俺は努力を繰り返してきた。


「いいだろう。君に才能を与える。つい最近発明された機械で才能の受け渡しを可能にするものがあるんだ。ただし、君は全てを失う。」


「本当ですか?」

 俺はついがっついてしまった。


「ああ、しかし覚悟はあるかい? 君は君自身を失う。家族も友人も今の生活も。それでも才能が欲しいかい?」

 先生との会話は悪魔の取引に思えた。

「たとえ他の全てを失っても、才能に恵まれるなら」

 俺は悪魔との取引を交わした。


「いいだろう」


 先生はそういうと、電話をかけた。


「毛利、楓はいるか? よし、それなら良い。例の部屋に来てくれ」

 一本目は毛利さんだった。楓さんが逃げていないか確認していたらしい。


「大倉博士、覚悟は決まったようです。施術をお願いできますかな? 今から二人を部屋にお連れします」

 二本目の電話は知らない人だった。しかし、この屋敷内にいるのだろう。


「では、紅葉くん、ついてきてくれ」

 そういった先生についていく。階段を二階分降りて、地下室へと向かった。


 窓のない部屋。そこには、奇妙な機械が置かれていた。大きなコンピュータとつながった二人分の椅子。そして、椅子の頭の部分には大量の電極のついた大きなヘルメットのようなもの。機械の前には、白髪で白衣のおじいさんがいた。この機械が才能を得るためのものなのだろう。俺の胸は高鳴る。


「待っておったよ。志十郎くん。その子が一人目だね」

 そういうとおじいさん、おそらく大倉博士は、俺の方を見た。何を考えているかわからない目だった。一人目……とはどういうことだろうか? 二人で何かするのだろうか?


 しばしの沈黙ののち、毛利さんと楓さんが現れた。

「親父、あの約束は本当だろうな?」楓さんは先生に何事かを問いただした。

「ああ、もちろんだとも。今回の一件が終わればお前がどこで何をしようが私は二度と口を出さない。ここに約束しよう」

 先生、ずいぶん親子仲が険悪ですね、とはさすがに言えなかった。

 どうも二人目は楓さんらしい。


「では始めようかの。わしが大倉じゃ」やはりおじいさんの正体は大倉博士だった。

「この機械のことはすでに聞いておると思うので説明は省略するぞ。いつくか注意点を述べるぞ。わしが作ったものだから万に一つも失敗はないが、失敗しても元には戻らないからそこのところは注意」大倉博士はしれっと怖いことをいった。まあ、才能をどうこうする機械なんてすごいものなんだからしょうがないか。我慢しよう。

「加えて、同じ人間にこの機械を二度使うことはできないからの。結果に不満があってもわしですらどうしようもない」これもしょうがないことだろう。

「最後に、この機械は非合法じゃ絶対に他言しないようにの」

 大丈夫なのかこの機械?

「あの、先生、この機械大丈夫なんでしょうか?」私はつい聞いてしまった。

「まあ不安に思うのも仕方ない。しかし、大倉博士は腕は確かだ。必ずや目的を達成してくれるだろう」

「先生がそう言うなら……」


「では使い方を説明するぞい。頭に装置をつけ、身体を機械に固定したらあとは機械の指示に従うだけじゃ。簡単じゃろ?」


「では、二人とも座ってくれ。わしがセッティングしよう」

 博士はそう言うと、座るように促した。


 俺は渋々と言った感じで、左の椅子に座る。すると博士が頭に装置を取り付け、そして……


 両手、両脚、腰、その他もろもろ十箇所くらいがちがちに固定された


 え、これ大丈夫なんだろうか?

 不安げに先生の方を見ると、頷かれた。まあ、大丈夫なんだろう。


 頭を固定されているので見えないが、楓さんも固定されたようだ。


「では、起動するからの。あとは機械の指示に従ってくれ。わしらは部屋の外に出ておるでな」


 そう言うと、3人は部屋の外に出て行った。部屋の中には機械に拘束されたままの楓さんと俺が残された。


 微妙な沈黙。そして、


「TSO-Ver.1.3起動します」機械的な音声が始まった。

「対象二人を確認。お二人は、この機械の使用に同意する場合、同意すると念じてください」

 念じてください、とはどういうことだろうか。これだけ頭に電極を取り付けているから、念じただけでも同意の意思が伝わるのだろうか。

 俺は戸惑いながらも同意します、同意します、同意します、と心の中で念じた。


「お二人の同意を確認。姿勢を変更します」

 機械音がそういうと機械はゆっくりと倒れ、寝るような形になった。これから何が起こるのだろうとドキドキしていると……


「麻酔を注入します」

 腰骨にちくっとした痛みが走る。しばらく待っているうちに俺は意識を失った。


 ……


 ……

入れ替わり入りまーす

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