「私の子どもにならないかい?」「え?お見合い?」
ジャンルがよくわからなかったけど多分SFです。うん。
俺の名前は柏木紅葉。
努力家であることだけは自信があるが、いまいち才能がないのか、平凡な大学生だ。
どのくらい努力家か解説しよう。俺は大学の授業はいつも最前列。教授の言った話は与太話まで全てノートに取る。そして家に帰ればその復習。また、俺は、陸上部に所属しているのだが、毎日体をこわすギリギリまで走っている。もちろん身体を痛めては元も子もないから、医者には毎週かかりながら一緒にトレーニングメニューを考えてもらった。
毎日毎日同じことをコツコツと、それが俺の特技だ。
だがしかし、俺の才能がないのか、結果はいつも平凡。成績は並よりちょっと上くらい。陸上の方は、地方大会は部内でギリギリ真ん中より上程度。これだけ努力して、それしか成果が出せないんじゃあ、あまりに悲しすぎるぜ。
俺は、自分の人生これで良いのかと、考えながら、真面目な生活を続けていた。俺はもしかしたら頭が悪いのかもしれない、運動が苦手なのかもしれない。そういう恐怖に苛まれながら、努力だけは人一倍続けてきた。
そんな俺の転機は突然だった。大学裏の通りを歩いていると突然黒塗りのリムジンが止まり「私は執事です」と激しく主張するような見た目のおじいちゃんが降りてきた。なんだろうと思っている間に、一緒に降りてきた謎の黒服に周りを囲まれた。逃げたいと思ったがもう遅かった。
「柏木紅葉様でいらっしゃいますね」
そう聞かれた。俺は逃げるわけには行かず、しかも嘘もつけそうにない。
「はい、俺が柏木紅葉です」と答えるしかなかった。
「私、椿家で執事をしております、毛利晴夫と申します。申し訳ないのですが、ご同行願えますかな?」
知らない人の車に乗ってはいけません、という子ども向けのセリフを思い出していた。しかし、黒服に周りを囲まれた現状、俺は逃げることはできなさそうだ。かといって、「取り囲んでおいてついて来いなんてよくそんなことが言えますね」などと挑発的なことを言う度胸も俺にはない。
「はい、わかりました」
そう答えるしかなかった。
黒塗りのリムジンの中で執事の毛利さんと話した。「俺に一体何の用でしょうか? 俺、椿という苗字の人物は俺の研究室の教授しか知らないのですが……」これは事実だ。俺は椿という苗字の人を本当に教授しか知らなかった。他には一切心当たりがない。
「はい。その椿志十郎様が私がお仕えする方にございます」本当に先生だった。
椿先生は俺のことを非常に評価してくれていた。酒の席では是非自分の子どもにしたいくらいだ、とすらおっしゃってもらえた。とはいえ、俺の成績は並の上。そのことには先生も頭を悩ませているようだった。よく先生がおっしゃることには、「君の努力は認めている。努力の方法も間違っていない。それなのになぜここまで結果に結びつかないのか……。私は不思議でならないよ。君のことをもっとしっかりと指導してあげられたら良いのだが……」と。
俺は少し安心した。椿先生の家ならへんなことにはならないだろう。
「それで、椿先生が俺に何のようですか。何か用件があるなら俺の方から先生の部屋に伺いましたのに」これは俺の気持ちだ。いつも俺を気にかけてくれる先生には感謝している。「しかも、先生の家に執事さんがいて、こんなリムジンを持っているとは知りませんでした」俺は素直に疑問を口にする。
「志十郎様は、学問という道を選ばれましたが、椿家は代々政治家の家系なのです。総理大臣を輩出したことこそありませんが、日本の政界で知らぬものはおりません」
俺は知らなかった。驚きだった。俺の驚いた顔を察知したのだろう。
「知らなかったことに罪悪感を抱く必要はないのです。政界に属さないものが知らないのは当たり前ですから」そう言ってくれた。
「それで、用件についてですが、志十郎様ご自身から紅葉様にお話ししたいとのことですので、具体的な話は屋敷に着くまで控えさせていただきます。もう間も無く到着いたしますので」
毛利さんはそれきり黙ってしまった。
俺は所在なくもじもじしながらリムジンの一席で到着を待った。
程なくしてリムジンは屋敷の中に入った。それはそれは大きなお屋敷で、これひとつで一体何億くらいするんだろうと俺は疑問に思った。
屋敷にはロータリーが完備されていた。ドアを開けてもらい降りると、椿をあしらった大きな門があった。屋敷自体はコンクリート造りだった。屋敷というからもっと古風なのを想像していたけれど意外とモダンなんだな。
「ではお入りください」そう言うと、毛利さんは門を開けた。
中は洋風だった。まるで大学の中にいるかのような広大な吹き抜けの玄関だった。目の前には階段があり、二階へと続いている。
「靴は脱がなくて平気ですか」と聞いたら苦笑されてしまった。
毛利さんが二階へと上がるように促した。二階への階段を登っていくと、やはり広い廊下に出た。赤絨毯のしかれた廊下は20メートルくらい続いている。「こちらでございます」右手にある一室の扉を毛利さんが開いた。
その中にいたのは、先生と名門高校の制服を身につけた女の子だけだった。
「椿先生。ただいま参りました」
俺がかしこまってお辞儀をすると先生は言った。
「紅葉君、私の子どもになる気はないかね?」
……
……
え? お見合い?
入れ替わりシーンは次話!