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相変わらず、だらだらと仁と学校で過ごしたり合コンに行ったりしながら、週末を迎えた。姉ちゃんとは基本的にすれ違いの生活であるが、育ててくれた愛情はきちんと感じているので俺がグレることもない。ん?いや、グレてるのか?まあクスリだのなんだのに手を出す気もないし、グレてもいないだろう多分。

目覚めたのは玄関のチャイムの音だった。昨日はいいものが食べたかったのでお金持ちの奥様を呼び出してサービスしてきたのだ。もう少し寝ていたかった。時計を見ると午前11時である。こんな健全な時間の来訪者がうちにやってくるとは珍しい。何かの勧誘だろうか。無視してもかまわないだろうが、チャイムが連打される。こんな非常識なことをするのはあいつしかいない。スウェットのまま、頭を掻く。髪が伸びてきた。仁にはそのまま女になれと好評であるがあいつは馬鹿か。女の子には色気が増してるだのなんだの言われているが。ちょっと邪魔と言えば邪魔なんだよなあ。

チャイムはまだ連打されている。

のそのそと玄関まで向かい、扉を開ける。

「遅い!!」

来客が予想通り小さいので見下ろす。腕を組んでぷんすかといった感じで怒っている。

「うるせえ、香織」

俺の幼馴染みで隣に住んでいる世話好きな女である。

「上がるよ!」

返事も聞かずに部屋に上がるとキッチンに向かう。手にはスーパーの袋である。たまに勝手にご飯を作り、勝手に部屋を掃除して帰っていく。

俺も着替えもせずに後を着いていく。

「お前さ、休みの日にもその髪型なの?来年大学生だろ?」

きょとんとした顔をしている香織はお下げの髪を自分でつまむ。

「変?」

「や、まあ、ある意味似合ってる」

眼鏡にお下げの学級委員長だった香織は街の外の進学校に通っている。勉強が忙しいのか昔ほどうちに来ることもない。正義感が滅法強いため周囲との摩擦を生むので昔から俺がなんやかんやとフォローしてきたわけである。それに恩義を感じているのか、こうして家政婦の真似事をしてくれる。そこにあるそれ以上の感情はどうしたもんかねえ。

「どうせろくなもの食べてないんでしょ!!」

キッチンから良い匂いがする。

「お前は単身赴任の旦那を持つ嫁か」

「よ、よよよよ、よめ!?」

分かりやすく挙動不審になり、お玉を落とす。頬が赤い。さすがに幼馴染みでこんなんからお金をむしりとれるほど俺も人間辞めてないからなあ。

「そ、そういえば!」

「声でかい。なに?」

「隣に新しい入居者が来たの知ってた?」

「うちの隣?」

「そう」

「お前の家と反対側ねー」

そういえば前の入居者が部屋で首をくくって以来、ずっと空いていた。

「なんで知ってんの?」

「昨日の昼にご挨拶に来てくれたんだって。お母さんが出たんだけど」

「平日の昼間とは非常識な挨拶だな」

「侑都には非常識とか言われたくないだろうねえ」

「否定はしないな」

「それでね!すっごくカッコいい人だったんだってお母さんが騒いでたの!!」

「俺より?」

「侑都より!!」

なぜそこでお前が勝ち誇ったような顔をする。

「まあ、彼氏になってくれるといいな。挨拶に行くようなまともな男だしな」

一気にしゅんとした顔になる。本当に分かりやすいというかなんというか。こいつ勉強できるけどアホなんじゃないかと思う。

「できたよ」

飼い主に怒られた犬のような顔でご飯を運んでくる。

「ありがと」

大根の煮物を一口食べてから言う。

「お前、また腕を上げたな。おいしいよ」

パーっと香織の顔が輝く。本当に馬鹿で可愛くて。突き放せない俺が悪いんだろうがな。こいつに関してはクズと言われようと否定できないなあ。炊きたてのご飯を食べる。おいしいなあ。俺みたいなクズじゃなくていい男探せよ。

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