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次の日、10時過ぎに目が覚める。
「あー…だるっ」
昨日は散々シャワーを浴びてから寝た。制服にはファブリーズをかけようかと思ったが更に匂いが混ざるだろうと思い、止めておいた。
自室を出て、リビングに向かうと、姉ちゃんがソファーで寝ていた。メイクだけはきちんと落としているが、髪はセットしたまま、ドレスのままである。
「おーい、姉ちゃん。髪も痛むし禿げるぞー」
声をかけても熟睡しているのか反応はない。俺には父と母はいない。いや、生物学上はいるのだろうが会ったこともない。姉の管理する通帳に定期的に多額の送金はあるが、果たしてどこで何をしているのやら。子どもの頃はお手伝いさんなるものがいたが、今では契約もしていない。俺にとっては唯一の家族であり、姉であり、母親でもある。
この国の人間にしては彫りの深い顔に色白の肌。色素の薄い髪。光の加減によっては緑にも茶色にも見える不思議な色の瞳。時々、俺は何者なのだろうとは思う。それでも、姉がいてくれた。下手をするといじめの対象になりかねない容姿であるが、うまいこと世渡りをする術は姉が教えてくれた。
「しゃーねーなー」
寝ている姉を抱えて、彼女の部屋のベッドに放り込む。送金されたお金を使いたくないと16歳の頃からずっと水商売をしている。今ではこの街であやめと言えば有名である。サラリーマンでは手の届かない高級娼婦。俺も中学を卒業すると同時にその世界に入るつもりであったが高校だけは出ておきなさいと姉に命令されたら逆らえるわけがない。そうは言っても、残念な頭をしているため底辺校と揶揄される高校にしか入学できなかったが。そのうえ、遅刻常習犯であるが。
「さてと、行きますか」
半年前にクリーニングに出して放置していた学ランのズボンを引っ張り出して身に付け、上はまたもや黒いTシャツである。姉こだわりのブランドものであり、俺にはいまいち価値が分からないがストックは何枚もある。あの学校で校則を守った制服を着ているやつなんて少数派である。教師も注意を諦めている。
扉を開けて外に出ると光が眩しい。
「ねむっ…」
俺はふらふらと徒歩10分の学校へと歩きだした。