<リバース・ワールド>の特異点
黒髪の少年が出した条件を神はアッサリと、違和感を覚えるほどにアッサリと承諾した。
まるでこうなることを知っていたかのような―――――
「さて!カミサマも快く条件を呑んでくれたことだし、行きますか!!」
そう言って、くるりと『神宿りの樹』に背を向ける金髪不良少年こと比嘉鏡弥。
『神宿りの樹』は慌てて、鏡弥にテレパシーを送った。
「貴方は馬鹿ですか!?地図もなしに行ったら迷子になりますよ!?」
「地図なんてなくとも何とかなるだろ。ガンガン進もうぜ!」
「なんとかなるわけないでしょう!!」
ああ、わかった。こいつはアレだ。あの駄神と同じような問題児だ。
問題児キャラは神だけで充分…いや神だけで苦労しているというのに、これ以上増やしてどうするのだ。
「あんな馬鹿は放っておいて、話を進めてくれ。俺達は俺達の世界―――<トゥルー・ワールド>が終わった原因をこの世界で突き止め、<トゥルー・ワールド>の終焉を食い止めればいいんだよな?」
「はい」
「具体的にはこれからどうすればいい?さすがにあっちより広大な土地を持つこっちの世界をノーヒントで探せとはいわないだろ?」
眼鏡の少年―――名は霧ヶ谷桔梗と言うらしい―――の問いには答えず、『神宿りの樹』は少年達の脳にあるデータを送った。
この世界―――<リバース・ワールド>の地図データだ。
「この森はこの世界の最北に位置しています。私の周辺はそれほどでもないですが、この森を抜ければ相当寒くなりますよ。貴方達にはこの森を抜けてほどないところにある、<アイシイクル>という小さな村に向かってもらいます。そこにいる『ユーリス』という女性に会ってください。その後のことは全て彼女が指示します」
質問はありますか、と少年達を見回すとさっきまで車椅子に座っていた少年―――坪崎彩斗がスッと手を挙げた。
彼は神の力によって彼の身の内に巣食う病から解放された。
初めは戸惑っていた彼も、走ったり跳んだり、自由に動かせる身体に感動して涙を流した。
『神宿りの樹』も何だか晴れやかな気持ちになった。
今は他の誰よりも真剣な表情。いささか緊張感に欠けている少年ばかりだと思ったが、彩斗は比較的マシなようだ。
「えっと…そのユーリスさんていう人…ぼくたちの事情知ってるんですか…?」
「はい。もちろんです。彼女は生まれた時から、神の声を聞くことができる人間――この世界では『聖人』と呼ばれています――なので、事前に神から話を聞いているはずです」
『聖人』。
<リバース・ワールド>にしか存在しない特別な人間。
神の声を聞けるだけでなく、高い身体能力を備えている。
現在は四人いる。
奇しくも、<トゥルー・ワールド>を救うためにやってきた少年達も四人である。
「…とりあえず<アイシクル>とかいう村に向かえばいいんだね?」
眠そうに瞼を擦りながら確認してくる黒髪の少年。
暗野夜宵というその雰囲気にぴったりな名前で、鏡弥は『お前のくっら~いオーラにぴったりだな』などと言い、鳩尾に膝蹴りをもらった。まあ、全然ダメージを受けていなかったが。
「そうです。森を抜けて本当にすぐ近くなので、まあ、大丈夫だと思います」
「…何か引っかかる言い方だな。遠かったら何か不都合なことでも?」
「不都合といいますか…危険、なんですよね」
「危険?何で?」
『神宿りの樹』は言うか言わずにいるか一瞬逡巡した。
…どうせ知ることになるし、知らずに行かせた方が逆に不安だ。
それに、今更これぐらいのことで怖気ずく少年達ではない。
「この世界には、魔物がいるんです」
「「「「……は?」」」」
四人、完全一致である。
「この世界と<トゥルー・ワールド>の一番の違いは魔物がいるかいないかなんです。この辺の魔物は大した強さではありませんから、大丈夫だとは思いますけど、気を付けて行ってください」
霧ヶ谷桔梗、眼鏡を押し上げたところでフリーズ。
坪崎彩斗、笑顔のままフリーズ。
暗野夜宵、あくびをしようと口を半開き状態でフリーズ。
比嘉鏡弥、ムカつくぐらいのニヤニヤ笑い中。
一人反応がおかしい奴がいるが、問題児(確定)なので仕方がない。
「…すまない。よく聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
「この世界には魔物が住んでいます」
再び沈黙。
「…俺の聴覚に問題があるらしい」
「脳に直接語りかけているんですから、聴覚は関係ないですよ」
「はぁ…いよいよ漫画じみてきたね…」
「どどど、どうしよう…ぼく、魔物となんか戦ったことないよ!?」
「誰でもそうだと思うよ」
「普通に殴ったり、蹴ったりしたらいいんじゃね?そんなの気にしてないでガンガン進もうぜ!!」
「お前はもう黙ってろ。頭が痛い」
「えっと…一応魔物の撃退法について説明しておきましょう」
好き勝手言い出す少年達を制すつもりで、少しテレパシーの音量を上げる。
鏡弥以外の全員の視線が『神宿りの樹』に集まる。
鏡弥といえば、勝手に進もうとしているところを、桔梗に襟首を掴まれて止められている。
「基本は魔法ですね。殴ったり蹴ったりというのもありにはありですが、リスクが高いですから、控えた方がよろしいかと。でも魔法もスペルを詠唱している間、無防備になりますから、他の仲間が魔物の注意を引かなければなりませんね。スペル詠唱破棄の魔法は威力が弱いですし」
「ちょ、ちょっと待て。魔法だと!?そんなもの俺は使えないぞ!?」
「僕も無理だし」
「魔法なんて使えたら、苦労しないよ…」
「そっち方面には興味がなくてだな…うん。使えねえ」
そんな少年達に『神宿りの樹』は一言。
「この世界来たなら、普通に使えるようになりますよ」
「「「「………」」」」
今度こそ、四人全員がフリーズした。
続きです。
書く気力がシャットダウンしていいため、間が空いてしまいました。
次はできるだけ早く…!がんばります。
読んでいただいて、ありがとうございました。