条件
「はっきり言わせてもらおう。面倒極まりない。嫌だ」
「右に同じく」
「世界が終わろうとどうなろうと僕の知ったことじゃないし」
「えっと…他の三人みたいな言い方しないけど…ぼくもやりたくないな。面倒っていうのもあるけど…ぼくじゃ役に立たないし」
以上、『神宿りの樹』が直接脳内に語りかけるという超高等技術、所謂テレパシーを使って、事態を説明、協力してほしいと懇願した直後の、四人の少年の言葉だ。
最初の台詞を言ったのが、ピアスに指輪とジャラジャラと金属を付けている金髪の少年だ。
身につけている服にまで金属をぶら下げている。特にジーンズ。ポケットあたりから垂れるチェーンは地面にもう少しで地面に届こうかという長さだ。
ふざけた格好に、へらへらしたふざけた笑顔。だが、身体能力は高そうだ。
続いて、簡潔に自分の意見を述べたのが眼鏡をかけた茶髪の少年。しかし、眼鏡には度が入っていない。
こちらは普通の学生服をだらしなく見える一歩手前くらいの絶妙な着こなしをしている。
人の目を引く整った顔立ちは眼鏡をかけてしまうのがもったいないくらい。だからと言って眼鏡が似合わないといったわけでもないが。
眼鏡の効果も多少はあるだろうが、その瞳からは高い知性を感じさせる。
その後の投げやりな台詞を吐き捨てるように言ったのは目元に色濃い隈を刻む黒髪の少年。
覇気がまるで感じられないその瞳は、深い闇を内包しているようで、じっと見つめているとそこに吸い込まれてしまいそうだ。
寝る前か寝起きだったのだろうか、着ているのは薄手のシャツとズボン。そのどちらも髪と同色の漆黒で、まるで鴉のようだ。
四人の中で一番やる気が見られない且つ冷静だ。
そして、最後に控えめに呟くようにいったのは車椅子に座った白髪の少年。
気の弱そうなたれ目が特徴的で、実際そうだろう。発言しようとする度に「あの…」やら「えっと…」と一言付け加える。
ライトグリーンの患者服を身に纏っていることから入院中だったのだろう。神よ、ランダムとはいえ、何故病人を連れてくるんだ。
頼りないが、飲み込みは早かったように思う。
「…と言われても、やってもらわなければ困るんです。どうか、お願いします」
再び、テレパシーで必死に懇願する。
だが、少年たちは答えを変えるつもりはないのか黙ったままだ。
だから、ランダムは嫌なのだ。
こんな世界の命運がかかっている大役など普通の人間は嫌無理だと言って逃げ出すことなど解り切っている(ここにいる少年たちは違う理由のようだが)。
それ相応の覚悟と実力を兼ね備えた人間でないとダメなのだ。
それなのにあの神は……。
「…ねえ、君。さっき自分は神の意識が宿った樹で、だからこうして僕たちとテレパシーで会話できるんだって、そう言ったよね?」
「はい、そうですが…それが何か?」
自分より数千歳は年下の少年に『君』呼ばわりされてほんの少し不快感を覚えた『神宿りの樹』だが、その程度で怒るほど『神宿りの樹』は短気ではない。
それよりも、黒髪の少年の話の意図の方が余程気になった。
「神の意識が宿ってるなら、神本体と話すことも可能だよね?」
「ええ。その程度のことなら」
「じゃあその神様に言ってくほしい。…交渉だ。僕は<トゥルー・ワールド>を救うために<リバース・ワールド>で働いてやる。その代わりに僕の願いを一つ叶えろ。この条件が呑めないようなら交渉は決裂とみなし、この件には一切協力しない…ってね」
少年の言葉を聞いた『神宿りの樹』は愕然とした。
この少年は自分たちの世界が終わってしまってもいいと考えているのか!?
確かに先程もそんなことを口にしていた。が、本気ではないとそう判断した。
違う。この人間は本気だ。本気でそう思っている。
神が条件を呑まなければ、この少年は間違いなく協力してくれない。
だが―――。
『神宿りの樹』はある疑問を覚えた。
世界すらどうなってもいいと思える少年が、神に交渉してまで叶えてほしい願いとは何だ?
「おっ、それいいな!オレもその条件なら協力してやんよ」
「…俺も」
金髪不良少年と眼鏡の少年も黒髪の少年に便乗する。
車椅子の少年は少し悩んでから、『神宿りの樹』を真っ直ぐに見、言った。
「ぼくも…と言いたいところだけど、あいにく体も満足に動かせないしね」
少し寂しそうに笑う。
『神宿りの樹』はそれを見て――――――。
「それくらいのこと神の御力をもってすればどうとでもなります」
気が付いたら、テレパシーでそう告げていた。
少年はぽかんと鳩が豆鉄砲が食らったような顔で『神宿りの樹』を見上げた。
「全員、黒髪の少年と同じ意志ということでいいですね?では神と話してきますので少々お待ちを」
捲し立てるようにテレパシーを送ってから、『神宿りの樹』は神と対話するため意識を切り替えた。
続きをお届けします。
ゴールデンウィークももう終わりですね。
悲しいです。後、眠いです。
読んでいただいて、ありがとうございました。