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「どうして、うちの息子達には悪い事ばかりおきるんだろう?」
集中治療室のソファに座りおフクロがぼそりとつぶやいた。
「せっかく、あの子……正も立ち直って、やりなおそうとしていたところだったのに」
「やめなさい」
オヤジが叱りつける。
「ここで愚痴を言っても仕方がないだろう」
「そうだよ、おフクロ」
俺は壁にもたれて言った。
「今はアイツの生命力の強さを願うしかない」
そして、俺はガラスの向こうに横たわる弟の姿を眺めた。弟は、頭に包帯を巻き、酸素マスクをつけてひたすら眠っている。
弟の向こうには稲本が横たわっていた。こちらは全身包帯巻だ。
しばらくすると、稲本の両親がやって来て、俺らを見ると頭を下げた。
なぜ、自分の息子が辞めたはずの工場に休日にいたのか、どうしてこんな事故が起きたのか、何もかも分からずにパニックに陥っているようだ。
「火事の原因は、粉塵爆発だそうですよ」
と、俺は説明した。
宙を舞うアルミニウムの粉が炉に侵入し爆発したという事だ。しかし、なぜ、アルミニウムの粉が炉に入ったかは不明らしい。
その場にいた人のほとんどが重症で運び込まれているが、奇跡的に軽症だった人の話によれば、爆発直前、2階通路から落ちかけていた稲本を、弟が必死で助けようとしていたという。どうして、そんな事になったのかは、2人にしか分からない。