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神様の不良品  作者: 橘 明
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 スーツを着て、髪を切りそろえ、稲本はやけにぱりっとした格好をしている。……仕事の途中なんだろうか? ……というか、こういう場合、声をかけるべきなのかどうなのか? 迷っていると弟が立ち上がった。どうやら、奴も稲本に気がついたらしい。そして、なんの躊躇もなく稲本に向かって「よお」と言う。

 ……よせばいいのに……それがどうやら俺の本音だった。あいつの事はもう決着がついたんだ。向こうだって、今さら関わりあいになりたくないだろう。

 ところが、弟が呼びかけると稲本もこちらに近付いて来た。

 妙な緊張感が漂ったような気がする。

 弟は親しげに語りかけた。

「どうしたんだよ? 背広なんか来て。もしかして、仕事中?」

 それには答えず、稲本が言った。

「そこの3人、お前のお友達か?」

 どうやら、みーさんと、かなえと、大地の事を言っているらしい。


「ああ。そうだよ」


 弟がうなずくと、稲本はくすっと笑った。


「何がおかしいんだよ?」


 訝しげに弟が尋ねる。すると、稲本は言った。


「いやさ。お前にはピッタリのお友達だな、と思って」

「それ、どういう意味だよ?」

「別に……。言葉通りの意味だよ」

「分からないな。はっきり言えよ」

「元引きこもり君に障害者の仲間達なんてさ。……やっぱり、類は友を呼ぶのかなって」

 稲本が言い終わるのを待たずに、弟は殴りかかっていた。8年も引きこもっていた弟のどこにそんな力があったのか……稲本の体が吹っ飛んで、噴水の中に落ちる。

「何、するんだよ?」

 叫ぶ稲本に、弟が飛びかかって行った。恐ろしい程の弟の激しいキレ方に、俺も、みーさんも、かなえも、大地も呆然とする。が、すぐに我に返った俺は、弟を制止しに入った。

「おい! よせよ!」

 しかし、弟はものすごい力で俺を振り払い、稲本の顔を殴り続けた。

「謝れ! 謝れ! みーさんに謝れ! 大地にも謝れ!」


 結局、警備員に取り押さえられる事で、騒ぎは一件落着した。そして、稲本と、弟と、2人を止めようとした俺は、警備員室に閉じ込められ事情聴取のような物を受けるはめになった。


「で、何がケンカの原因ですか?」

 初老の警備員が言う。

「別に……ただの個人的いざこざです」

 髪から水を滴らせて、弟が答える。弟と稲本は、噴水にはまったせいで全身びしょぬれになっているのだ。

「なんで、こんな風に呼び出されなきゃならないんですか? たかが、個人的なケンカじゃないですか」

 俺は文句を言った。すると、警備員が答えた。

「いや。最近、わざと人目につくところでいざこざを起しておいて、店員の注意を引いた隙に商品を盗んで逃げるっていう犯罪があっちこっちで起きているらしくてね」

「俺達もそうだって言うんですか? 少なくとも俺も弟は、そんな犯罪するような奴とは関わりありません。おそらく、そっちの奴も関わってないと思います」

「そりゃあ、自分で自分が犯罪者と言う人間はいないだろう」

「そこまで疑うんなら、広場近辺の店から何か無くなってるかどうか調べてください。そうすれば、俺や弟の潔白が分かると思います」

「だから、今、それを調べてるところなんだよ」

 ああ、なる程ね。と納得して待たされる事30分。その間に、住所、氏名、勤め先、何しにここに来たかまで尋ねられる。その結果、驚いた事に、稲本は今日は面接があり、そのついでに昼飯を食いに来ていたのだという事が分った。


 それからさらに拘束される事30分。こってりしぼられた後、ようやく俺らは解放された。

 関係者入り口から外に出ると、みーさん達が心配そうな顔で立っている。

「大丈夫でしたか?」

 と、かなえが駆け寄ってくる。

「ごめん。心配かけちゃって」

 俺と弟はひたすら頭を下げた。時計を見れば、もう12時半だ。早く帰らないと、パーティーの準備に間に合わない。のんびりと昼飯を食ってるヒマもなさそうだ。俺らは急いで駐車場に向かった。稲本は既にその場から消えていた。1時から面接があるとか言っていたが、あんなにずぶぬれになっちゃってて、しかもこの時間から会場に向かっているようで間に合うんだろうか?


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