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神様の不良品  作者: 橘 明
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「今まで全然気にしたことなかったけどさ、車椅子なんかを押していると、障害者用の設備がどれだけありがたいかがよく分かるよ。例えば駅のエレベーターなんかがそうだ。足の悪い人間が2階改札から1階のホームに降りるのに階段では間に合わない」


 大地を乗せた車椅子を押しながら、弟がとめどなく話す。


「気のきいた地下鉄なんかだと、各駅の同じような位置にエレベーターが設置されていたりして、これは本当に助かる。トイレにしてもそうだ。障害者用のトイレは広いし、必ず洋式になっている。特に女性は和式じゃどうしようもないだろう。だから、ああいう施設は絶対に健常者は使っちゃいけないね。ホントそう思うよ」


 ここはショッピングモール。土曜とあってけっこう混んで居る。俺の横には車椅子を引いた弟が、前にはみーさんとかなえが歩いている。お洒落をした若いやつが行き交う中、車椅子を引いている俺らの姿はさぞかし目立っている事だろう。


 しばらく歩いていくと、目の前におおきなトイザラスの看板が見えてきた。

「着いた、着いた」

 と、みーさんが振り返った。

「ほら、大地君トイザラスに着いたよ。さ、プレゼント選ぼっか」

「うん」

 大地がうなずく。そして、俺らは店に入っていった。


 ショッピングモールの東奥のスペース全てを占めているだけあって、店内はとてつもなく広い。オモチャの種類も多く、どこに何が置いてあるのやらさっぱりだ。しかし、大人の俺らにはさっぱり不案内でも、子供はよく知っている。大地が「あっち」という方に向かうと、なる程、小学生の男の子が好みそうなオモチャが一杯見つかる。


「翼君は何が好きかな?」

 かなえがアニメのカードやなんかを手にして首をかしげた。

「サッカーボールとさ、それと、プラモデル」

「え? 翼君ってプラモデル作れるの?」

 俺は大地に尋ねた。彼は、確か、全身麻痺で言葉も話せなかったはず。

「作るのは無理だけど、見るのは好きみたいだから、僕と友達で作ってあげるんだ。そして、ベッドの近くに置いてあげようと思って」

「ああ。そういう事ね」

「私はさ、このお人形を上げようと思うんだけど」

 と、みーさんが馬のぬいぐるみを持って来る。

「人形なんて女の子みたいじゃないか?」

 と、弟が首をかしげると、

「翼君は、馬も好きなんだよ」

 と、大地が言う。

「随分たくさん買うんだな」

 俺が言うと

「園のみんなからのプレゼントなんです」

 とかなえが答えた。

 なるほど。しかし、量が多い。しかもけっこうかさばる物が多い。それで、会計を済ませた後はカートに乗せて移動する事にした。もちろん押すのは俺の役目だ。そのまま食料品売り場に移動し、まず、ケーキの材料を探す事にする。

「ケーキなんか、どこかで買えばいいのに」

 と、うっかり口にすると、

「手作りの方が、おいしいんだよ」

 とのみーさんの言葉。

「うん。みーさんの作るケーキは最高なんだよ」

 と、大地も加勢する。


 こうして全ての買い物を済ませると、

「まだ、ちょっと時間あるし、ジュースでも飲もうか」

 と、みーさんが提案した。

「飲む飲む!」

 大地が嬉しそうにうなずく。

 それで、フードコートでジュースを買って、モール中央にある噴水のほとりのベンチに移動し、少し休憩する事になった。

「きっと翼、驚くね」

 積み上げられたプレゼントや、料理の材料を見てウキウキと大地が言う。

「そうだね。すっごく驚くよ」

 みーさんがが答える。

「あー。驚いてひっくり返るかも」

 弟が答える。

「そしたら、みんなで助けてやらないと」

 その言葉に大地が笑った。

「そろそろ、みんなも飾りつけが終わった頃かな?」

 かなえが時計を見る。

「うん。終わってお昼ごはん食べてる頃だよ。きっと」

 大地が答える。

「じゃあ、後は歌の練習をすれば、ばっちりだね」

 と、再びかなえ。

「ハッピーバースデイ歌うんだよね」

 と、大地。

「お前、音外すなよ」

 と、弟。

「大丈夫だよ」

 頬を膨らませる大地。

 そんなやりとりを俺は黙って聞いていた。何となく、見えない連帯感を感じて何となく入りずらかったからだ。

 でも、俺は弟のために喜んでいた。こんな風に、自然に、肩の力を抜いていられる場所がようやくこいつにもできたのかなって。いよいよ、俺のここでの役目も終わるのかなって。


 その時、妙な視線に気がつき、俺はふと目を上げた。そして、ぎょっとした。


 なぜなら、そこに、稲本がいたからだ。

 稲本は、俺らからわずか10メートル先のベンチに腰かけ、食い入るようにこちらを見つめていた。

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