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神様の不良品  作者: 橘 明
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79




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青春☆ひきこもらー スピンオフ

『リアルばばぬき』  作:土中喪黒う




(登場人物)

◆主人公:稲本 誠二(本編では因幡となっていた親友を裏切った男)

◆主人公の友人:河井正(本編では山田となっていた、親友に裏切られていた男)

◆主人公の幼馴染み:松浦(本編では名前は出ていないが、二人をいじめた男




プロローグ


 人生はババ抜きだ。

 生まれた時に、カードが配られるしい。

 ババをひく確率は40人に1人。

 ひいたが最後、そいつは残り39人のおもちゃにされる。

 学校というステージで、いじられ、いびられ、人格破壊され、存在そのものを否定される。


 そして、どうやら僕は、その40分の1にあたったらしい。


 でも、深刻に悩む事はない。

 いざとなったら、誰かにババを回してしまえばいい。

 よく探せば、受け取ってくれそうな奴はすぐに見つかるはずだ。


 さあ、よく目を開け。











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 久しぶりに出勤した弟に、周囲の目は冷たかった。

 当然だ。ただでさえ仕事ができない上に、何日も休み、迷惑をかけまくったのだから。中には、あからさまに聞こえるように言う奴らもいた。


「あいつ。まだ居座るつもりかよ」

「もう。いいだろう。いなくても」


 けど、弟は黙って耐えている。周りの視線の厳しさは覚悟の上の出勤だったのだろう。



「大丈夫か?」

 復帰一日目の帰り道。俺は弟に尋ねた。

「大丈夫さ。思ったより」

 弟がうなずく。しかし、その顔は疲れきっていた。

「無理しなくてもいいんだぞ」

 俺は弟を思いやった。

「別の場所で1からやり直すのも一つの道だと思うし」

「大丈夫だって」

 弟が答える。

「ここで逃げても、どのみち同じ事繰り返すだけだけと思うし」

「そうかな?」

「なんとなく、そんな気がする。それにさ。俺、色々考えたんだ……稲本の事について」

「稲本の? なんで、あんな奴の事なんか?」

「そりゃ、一応昔はトモダチだったし」

「一応だろう?」

「一応でもさ……俺、一時期は本当にあいつの事親友と思ってたし、尊敬すらしていた事もあった。あいつだって、俺の事信頼してくれてたと思うよ。何でも話してくれてたしさ」

「でも、裏切った」

「そうだけど」

「それで、十分だよ」

「でも、何で裏切ったんだろう?」

「いじめっ子が怖かったからだろう」

「いや。あいつの言動からして、イジメを怖がるような奴じゃなかったんだよ」

「あのなあ」

 ため息をつく。

「どんな理由があろうと、裏切った奴は裏切った奴なの。必要以上にこちらから歩みよる事ないの。それより、俺としてはこれ以上おまえが理不尽ないびられ方をして、本当に人を信じられなくなる事の方が心配だね」

「会社の事なら大丈夫さ。田辺センセイも言ってたじゃないか。分ってもらえないなら、分ってもらうように努力すればいいって」

「あの人のいう事はもっともだよ。でも、しょせんは理想さ。世の中はもっと厳しいんだ」

「そうだろうか?」

「そうさ。……そりゃ、俺だって、あの人の言うような世の中であればいいと思うけど……」

「……」

 弟はしばらく考え込んだ。そして、やがて決意したかのように口を開いた。

「兄貴の気持ちは分ったよ。けど、もう少しだけ頑張らせてくれ。俺、この先に何があるのかを見極めたいんだ。見極めた上で、どうしても無理と思うのなら辞める」

「そうかよ。そこまで言うなら好きにしろよ」

「ああ。好きにするさ」

「けど、道は一つじゃないからな。それだけは忘れないようにな」

「ああ……」



 弟の決意は見上げたものだと思う。ついこの間までふてくされて引きこもっていた事を考えればなおさらだ。しかし、どれほど弟の決意が崇高なものであろうと、世の中理想通りにはいかない。次の朝出社すると、弟の作業スペースが消えていた。正確に言えば弟の作業スペースの上に物が置かれ、作業ができないようにされていたのである。


「あの……これ何ですか?」


 問いかける弟に対して、誰も返事を与えなかった。それでいて、ニヤニヤと笑っている。その態度からして、明らかに嫌がらせであることに間違いない。


 誰も答えてくれるものが無いと分かると、弟はスペースの上の箱やら金具やらを別の場所に移しはじめた。すると、誰かが怒鳴る声がした。


「おい、河井。勝手にどけるなよ」


 声の主は、和田という30代前半をおぼしき男だ。あまり付き合いは無いが、普段はめったに怒る事などないのに……。


「え?」


 弟はおどろいて和田さんを見た。


「そこが、置き場所になってるんだよ」


「でも、これじゃ仕事ができない……」


「じゃあ、他の場所でやってくれよ」


 なんて奴だ。あきらかに嫌がらせじゃないか? にも関わらず、誰一人止める人間がいない。それどころか、みんな笑っている。あまりに腹がたち、ひとこと言ってやろうかと進み出た時、弟が稲本に向かい、はっきりと言った。


「稲本。これって、お前が考えた嫌がらせだろう?」









 

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