7話
「••••••••••••うっ••••••んんっ••••••」
意識が浮上する。
瞼の中が明るくなると同時に目を開けた。
見知らぬ天井。
節々が痛みながらも身体を起こした。
窓があった場所から漏れる光を頼りに、辺りを見渡す。
そこで自分のアパートではない事に気が付いた。
「••••••••••••ああ、そうか」
思い出した。
昨日はバリオスで飲んだ後、黒羽に雇われる事になり、黒羽の事務所に転がりこんだ事を。
気が付く。
反対側のソファに黒羽がいない。
何処に行ったのかと考える前に室内の奥から扉を開ける音がした。
「起きたか?」
黒羽がタオルを首元に掛けたまま、こちらに近づく。
「黒羽さ••••••ぬわぁっ!?っ、なんで服着ていないんですか!?」
「••••••?••••••ああ。そうだな」
赤城に言われてやっと気が付いた様だ。
黒羽はタオルと下着1枚姿。
赤城がこの場にいないとしても、あまりにもラフ過ぎる格好であった。
流石に申し訳なさが勝ってしまう赤城は、その姿から目を逸らす。
一瞬見えた身体のラインは暫く忘れられそうに無かった。
「ほら、着たぞ」
黒羽から声が掛かる。
恐る恐る顔を向けると、いつものシャツとパンツ姿が見えた。
「••••••今度からはしっかりと着てから、出てきて下さい」
「••••••••••••面倒だな」
必死に訴える赤城の様子に黒羽も少しだけ気を遣う事にしたのだろう。
乾き切っていない髪の毛をいじりながら、心底面倒臭そうに呟く。
ソファに座り、テーブルの上から煙草を取り1本吸い始める。
2、3回、白煙を吐いた後、赤城に話し掛けた。
「知っての通り、私は便利屋を生業にしている。••••••で、赤城。お前はここの雑用係として雇う。••••••ここまではいいな?」
面倒臭そうにしているが、きちんと説明してくれる黒羽に内心、少しだけ驚く。
「はい、雇って頂けるのであれば、雑用係でも構いません」
「••••••元よりそれくらいしか期待していない」
辛辣な物言いだが事実なので反論はしない。
自分の立場くらいは理解していた。
「仕事内容は殺人、薬物の輸送•売買以外は基本的になんでも請け負う。客は色々だ。お前の様な飛び入りや、金持ち、探偵、警察に、禄でもない奴ら••••••様々だ」
「赤城、お前にはこの事務所の管理を始め、依頼の窓口や経理に携わってもらう。••••••依頼を受けるかどうかは私が決める」
「報酬はその時々で決める。文句はないだろ?」
労働基準法を完全に無視しているが、文句は言えない。
アパートを維持する事も難しい中、寝泊まりする場所を提供してくれるのは助かる、と赤城は思っていた。
「はい、結構です。••••••ところで契約書は••••••」
「無い。辞めたければいつでも好きにすると良い」
契約書は無いらしい。薄々気が付いていたが、中々ブラックな職場だ。
「以上だ」
質問すらさせない。黒羽は気怠げに話を切る。
短くなった煙草を灰皿にねじ込む。
灰や吸殻がぼろぼろとテーブルに散らばった。
「黒羽さん、ちなみに直近の仕事は••••••」
「無い。お前の依頼が1ヶ月ぶりだ」
繁盛はしていないようだ。
これまでの様子から、どうやら貯蓄も無い様に思える。
赤城は小さく息を吐き、黒羽に提案をする。
「黒羽さん。依頼が入るように宣伝しましょう」
「••••••?••••••しているだろ?」
「まさか、あの張り紙の事を言ってますか?」
「ああ••••••不満か?」
赤城は額を手で押さえた。
黒羽は本気でそう思っている。
それがありありと伺えてしまった。
「••••••••••••いえ、それは、まあ、良いでしょう。••••••後回しにします」
決して後回しにして良い事ではないが、それよりも着手する事があった。
こちらの方が重要。
「••••••••••••掃除をしましょうよ!この事務所の!」
昨日から言いたかった事をはっきりと伝える。
衣食住を支える礎。
住環境の整備に着手する事を決めた。
「••••••••••••必要か?」
「••••••最重要事項かと」
「••••••勝手にしろ」
黒羽は許可だけ出した後、これ以上は面倒だ、と態度で示しながらソファに寝そべる。
赤城は掃除道具を揃える為、近所のホームセンターに出掛ける事にした。




