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だらしのない復讐者と共犯者になった男 〜INDE ”VENGEANCE“ DAY〜   作者: 岩波備前
『烈火』

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24/33

23話

情報に記載されていた場所。

そこには何の変哲もないビルがあった。


建物内に人気が無くなってから少なくとも10年以上以上は経っているだろう。

外観には風雨に晒された痕が色濃く残っていた。


「ここで間違いは無いはずですが‥‥‥」


「なら、行くぞ」


「はい‥‥‥」


建物の正面ではなく、その裏手に回る。

月明かりで照らされているだけで照明というものは無い。

気にせず、暗がりの通路を通る。


「‥‥‥?!」


通路の突き当りに、汚れたジャケットを着たホームレスが地面に座っていた。

眞はその男に驚くが、詩音は気にせず近づく。


「‥‥‥」


近づく際に眞のポケットから会員証を抜き取る。そしてホームレスの男に見せた。


「‥‥‥‥‥‥」


ホームレスの男はその場から立ち上がり、少し離れた所に座る。


「あ‥‥‥」


ホームレスの座っていた奥には錆びついた扉があった。

詩音はその扉に向かって歩きながら会員証を眞に投げ返した。


「し、詩音さん‥‥‥待って下さい」


片手が塞がれていた為、慌ててしまったがカードを何とか掴む。そして扉を開けて奥に進む背中を追う。


‥‥‥大きく開かれた首元から背中の肌色が扉で隠される。


(‥‥‥何度見ても凄い格好だ‥‥‥)


眞も扉を開けて先に進む。

先ゆく詩音を追いかけながら考えていた。


‥‥‥詩音の知り合いは中々の好き者だと。



‥‥‥‥‥‥

‥‥‥

‥‥


「詩音さん。外に小包が置いてありました」


「奴からだな」


詩音の知り合いへ連絡した次の日。

事務所の外に小包が置かれていた。

眞には、それが依頼の品である事は分かっていた。


事務所で開封する。

中には黒い名刺の様なカード1枚と、赤と黒の衣服が入っていた。


「黒い方はスーツ••••••ですね。それにホワイトタイが••••••」


眞は黒に限りなく近い紺色のフォーマルなスーツと、それに合わせた白のネクタイを手に取る。

ビジネス用とは違い、どことなくカジュアルな雰囲気がある。


「そちらは詩音さんの••••••わぁ••••••」


赤い方の衣服を詩音が広げていた。

その様子を見て眞は言葉を失う。


「••••••奴の趣味だな」


気怠げな表情のまま呟く。

詩音の手には、どことなく暗く深い紅色のドレスが握られていた。

一目で質の良さが分かる生地だが、それ以上に目を引く部分がある。


「背中と脚の部分、••••••見えませんか?」


「見えるだろうな」


なんてことのないように呟く。

だが、眞は慌てて詩音へ言葉を掛ける。


「良いんですか?••••••正直凄い格好になりますよ!?」


「別に構わん。今更変える事も出来ない••••••それに奴からの希望だしな」


詩音は同封されたカメラとメモを眞に差し出す。


「••••••••••••写真を送れ、と?」


「ああ••••••どうやら今回は、これを着た私の写真をご所望らしい」


「えぇ••••••」


詩音の知り合いの趣味に付き合う•••••

それが依頼の対価に含まれているらしい。


「••••••面倒だからさっさと済ませるぞ」


そう言いながらパンツに手を掛ける。


「‥‥‥」


眞は『面倒』と言葉を聞いた瞬間から、事務所の扉を目指すために背を向けていた。


••••••眞にとってはもはや慣れた行動である。







「もういい、早く入れ」


「あ、はい」


事務所から詩音の声がした。着替えは終わったらしい。詩音に促されるまま事務所内へ入る。

そこには紅いドレスを着た詩音がソファに腰掛けていた。


「‥‥‥‥‥‥‥」


「おい、さっさと撮るぞ」


「‥‥‥‥‥‥‥」


詩音は深みのある紅いドレスを着ている。

全体的に少しゆとりがあり、ぴったりとした服装では無いが、詩音の身体に沿って所々生地が張っている。

特徴的なのはそのデザイン。首元から背中まで大きく開いている。

更に、前で生地が交差するようにデザインされ、それぞれが詩音の胸を支えている。生地が谷間を隠さない構造だ。おかげで普段の服装より輪郭と大きさが強調されていた。

そこから下に視線を移すと、一転して、無駄の無い華奢な腰が続く。

抱きしめると折れそうだ、と眞は思っていた。


(そんな機会、あるとは思えないが‥‥‥)


そこまで見て気が付く。

脚の方にスリットが入っている。

詩音が脚を組む際、その下の太腿が隙間から覗いている。

体格と相応に脚の細さも際立つ。だが適度に張りと艶があり、健康的な色香を感じる。


(詩音さん、脚長いなぁ‥‥‥)


普段はコートやユニセックスな服装で気づきにくいが、こういった服装をするとスタイルの良さが分かる。


「‥‥‥どうした?」


「‥‥‥はっ?!‥‥‥す、すみません!あまりにも似合っているので‥‥‥」


「そうか?私の体型ではあまり似合わないと思うが‥‥‥まあ、いいから撮影しろ。••••••適当に何枚か撮れ」


詩音がテーブルの上にあったカメラを放り投げてくる。

被写体が“いいから撮れ”とば言わんかりに腕と脚を組んでいる。


(難しいことを‥‥‥)


「‥‥‥はぁ、仕方が無いやつだ」


カメラを持ちながらどうしようかと考えてしまう。

しびれを切らせた詩音が、眞の方へ向くようにソファの上で四つん這いになる。


「いいから、撮れ」


扉の近くで立つ眞の位置からは、詩音の全身がよく見える。

••••••特に肩や尻、そして胸が。


「この角度なら良く見えるだろ‥‥‥それに眞も、この服装は嫌いではないんじゃないか?‥‥‥ん?」


「‥‥‥‥‥‥」


眞を挑発するかのように囁いてくる。

眞を含む男達が、自分の何処を好んで見ているかが良く分かっているからこそ出来る仕草だ。


(まあ、好きだが‥‥‥)


眞は少し複雑な表情でシャッターを切り始めた。


‥‥

‥‥‥

‥‥‥‥‥‥



(凄い体験だったな‥‥‥)


数日前の撮影会を思い出していた。

知り合いとやらの写真フォルダとともに、眞の心のフォルダにも新たな記録が保存された。


その時の被写体は、カジノに向かう前に化粧をしっかりとしており、今はドレス姿で階段を降りている。


‥‥‥詩音が化粧をする。

その事に驚きを隠せない眞は、詩音に尋ねていた。


『化粧••••••するんですか?』


『ああ••••••こんなのは面倒なだけなんだが••••••••••••必要ならするぞ?』


との返答があった。

そう言いながらベッドのある部屋に向かい、慣れた手付きで化粧を始めた詩音の姿は忘れられない。


(••••••化けるものだなあ)


元が良いからか、きちんとした洗顔と保水•保湿をするだけで見違えるほど綺麗な顔になっていた。そこにナチュラルメイクを施す。目つきの悪さや不摂生による目の隈を隠す程度だが。


詩音に対して失礼な考えを抱いてしまうが『化ける』••••••そうとしか思えないほどの変貌であった。


「眞、ここだ」


詩音は、黒い扉の前に立ち止まる。外で見たものと比べものにならないほど重厚で艶めいているため、見る人にラグジュアリーな印象を与える。

••••••扉を開く。


「当カジノへようこそ。お客様、こちらへ‥‥‥」


扉を開けた先。

燕尾服を着た男が恭しく礼をしながら迎えいれる。詩音はその男のエスコートをさり気なく手で制止し、先に進む。男はそれ以上は干渉してこない。


薄暗い空間には同じように着飾った男女が数多く存在している。

喧騒とは程遠いが、確かな熱気と悲喜こもごもの活気が見られていた。

スポットライトが所々で光を落とし、ゲーム台とその周囲の陰影を作る。

そこに座る男女の1人1人が、ゲームの主役であると思わせるほどの雰囲気があった。


「••••••ここに、安西が‥‥‥?」


カジノという独特な雰囲気に飲まれそうになる。


「‥‥‥‥‥‥眞、こっちだ」


詩音が眞だけに伝わる声で先を促す。

人が集まる場所をいくつか通り過ぎた所にある一際明るく照らされているゲーム台。


そこに安西譲二が座っていた。


安西は他の客と一緒にカードゲームに興じている。

ディーラーの前に数名の男女が座り、それぞれの手元には2枚のカードが配られている。ディーラーの目の前には3枚のカード。

客からの声に伴い、チップが動く。


「確かあれは‥‥‥ポーカーですか?」


「テキサスホールデムとも言うらしいな」


テキサスホールデム‥‥‥所謂ポーカーと呼ばれているトランプを使った遊戯。


ジョーカーを除く52枚のカードのうち、2枚の手札とディーラー側の3〜5枚のカードを組み合わせて役を作り、その強さで勝敗を決め、チップの遣り取りを行う。

手札や場の札、相手の仕草などから流れを読み取り、勝負するか降りるか決める。

そのため、手札と残されたカードから予測できる無数の組み合わせを計算しながらゲームを進行させることが肝になる。

そこにチップや表情・態度などのブラフの要素が入るため、心理戦をより複雑にしている。


‥‥‥これこそが、このゲームの魅力。

世界で愛されている理由も分かる。


眞と詩音は小声で会話しながら安西の動向をしばらく見守る。

ゲームが進む度にチップがディーラーから客へ動く。

チップが行ったり来たりしていたが、どうやら安西は他の客よりも、その分配数が多いらしい。

‥‥‥つまり勝負慣れしている。


「‥‥‥どうしますか?」


「‥‥‥‥‥‥」


安西がゲームに興じている間、するべき行動を詩音に尋ねる。

詩音はその言葉を聞きながらも、ゲームの進行を観察していた。


「‥‥‥‥‥‥よし」


「えっ‥‥‥」


その言葉と同時に、詩音が動く。

丁度客もはけた様だ。おそらく殆どのチップが安西の手に渡ってしまったのだろう。

安西は煙草で一服しながらゲーム台で次の挑戦者を待っていた。


「次のゲーム、参加させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「‥‥‥ええ、どうぞ」


詩音が安西に声を掛け、少し離れた場所で座る。


「‥‥‥ここの台ではポーカーに興じていますが、ルールはご存知で?」


「ええ、あまり得意ではありませんが‥‥‥何より楽しむ事が大切ですから」


「‥‥‥おっしゃるとおりだ」


眞は付添人を装い、詩音の傍に近寄る。

‥‥‥自然に演じていたつもりだ。

ディーラーや周囲の客にも不審に思われてはいない筈。

しかし、内心では詩音の行動が信じられず、かなり動揺していた。


(安西が‥‥‥両親の仇が目の前にいるのに‥‥‥)


安西の顔を初めて見た時は何かをしかねない程の怪しい雰囲気を出していた。

しかし、今は違う。極めて冷静。

そして、普段の詩音からは想像も出来ないほどこの場に溶け込んでいた。


(‥‥‥‥‥‥これが‥‥‥)


何かを達成するための意識の高さに感心する他ない。

そんな眞の考えに呼応するかのように、詩音も行動を起こす。


「‥‥‥先程、ゲームを見せて頂きましたが‥‥‥貴方、強いですね」


「‥‥‥趣味がこれしかないものでね」


「一手、ご教授願いたいものです。貴方と2人きりで‥‥‥」


「‥‥‥ええ、構いませんよ」


眞の方へ振り向き、ディーラーに手荷物の中身を渡すように目配せする。

眞は詩音の指示に従い、手に持っていた鞄を差し出す。

ディーラーに呼ばれた男が中身を検める。

そして金額に応じたチップを詩音の前に置いた。同時に他の客が1人、卓に着く。それ以上の参加者はいない。




‥‥‥安西譲二との因縁の一騎打ち。

その火蓋が切って落とされた。

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