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だらしのない復讐者と共犯者になった男 〜INDE ”VENGEANCE“ DAY〜   作者: 岩波備前
『出火』

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18話

街の外れにある港。


辺りは暗く、人の気配は既にない。

波と風の音がだけが響く埠頭ふとうに、眞と詩音は潜伏していた。


「詩音さん、ここで取引が行われるんでしょうか?」


「さあな、取引があろうがなかろうが、やることは同じだ」


「そう‥‥‥ですね」


2人が身を潜めているコンテナの先に、依頼人から指定されたポイントがあった。

海に近く、コンテナが多い為、取引の邪魔が入ったとしても海路と陸路の両方から十分に逃走は可能であろう。

2人が監視を始めてから2時間。ここでは取引が行われないかと考えがよぎる。

眞がそう考えた時、視線の先で動きが見られた。


「‥‥‥来たぞ」


詩音が示す方向に目を向ける。そこに1台の車が止まる。

ライトを消し、そのまま待機すること30分。新たに1台の車が近づいてきた。


「どうやら‥‥‥”当たり“みたいだな」


「‥‥‥」


眞の身体に緊張が走る。詩音は慣れているかもしれないが、眞にとっては2度目の大仕事。

自ずと身体に力が入ってしまう。


「‥‥‥落ち着け」


詩音が眞の肩を叩く。


(‥‥‥‥‥‥そうだ、俺1人じゃない)


肩から伝わる軽い刺激と柔らかさに平静さを取り戻す。‥‥‥小さいが、頼りになる手であった。


車から誰かが降りる。人影は4人。

目の焦点が合うにつれ、顔や体つきが分かるようになった。


「‥‥‥‥‥‥あれは」


「‥‥‥知り合い、か」


眞の見覚えのある人物‥‥‥元上司がそこにいた。


「詩音さん‥‥‥最初に来た車から降りた男‥‥‥俺の上司だった人です‥‥‥」


「‥‥‥そうか」


全く予想をしていなかった訳では無いが、実際に目の当たりにしてしまうと複雑な心境だ。

怒りの感情よりも、困惑が頭を占める。


「‥‥‥どうして?」


麻薬の取引に関与していたことは確かだが、まさか取引の場所に出てくるとは思わなかった。

しかし、今は関係の無い人間だ。眞は自分の仕事を遂行するために、カメラを構える。

写真は眞が、映像は詩音が押さえる。証拠となるものが多ければ多いほど有用だろう。


元上司と男達が互いにアタッシュケースを持ち、それらを手渡し合う。


(‥‥‥‥‥‥)


カメラのシャッターを切る。隣では既に録画ボタンも押されているようだ。

‥‥‥全てを押さえることが出来た。


視線の先の男達もそれぞれの車に戻る。


「詩音さん、連絡します」


「ああ」


眞は依頼人から貰った番号へ連絡する。コールを入れるだけで先方はここに向かう手筈になっている。後は、ここから離れるだけ‥‥‥


「?!」


破裂音とともに火花が散る。


音の元には3人の男達が。

そして、元上司の身体が地面に崩れ落ちていた。


「ぐっ‥‥‥」


歯噛みする。

瞬時に撃たれたと分かったが、ここで飛び出ることは出来ない。そうなると依頼の遂行に支障が出てしまう。


‥‥‥それが分かっていても飛び出そうとする身体を、詩音が押さえていた。


「動くな、馬鹿」


「詩音さん‥‥‥」


「こうなることは覚悟の上だろう」


「‥‥‥‥‥‥」


薬物の取引にはこういった危険が伴う。

眞自身、実際に体験したことがあるので何も言えない。


男達の1人が元上司のアタッシュケースを奪い取り、車でその場を離れていく。

ライトが完全に見えなくなった所で、元上司に駆け寄った。


「先輩っ‥‥‥大丈夫ですか?!」


「‥‥‥あぁ‥‥‥?‥‥‥あかぎ、か?」


身体を起こし顔色を伺うが、目の焦点が合っていない。

意識も朦朧もうろうとしているようで言葉には力がなかった。


「‥‥‥眞、そいつは‥‥‥もう」


「‥‥‥っ」


助からないことは眞も分かっていた。

それでも言葉を掛けるしかない。


「‥‥‥すまな、かっ‥‥たな‥‥‥家族を‥‥‥脅され、て」


「救急車を‥‥‥」


「いい‥‥‥あか、ぎ、これを‥‥‥退職‥‥‥祝だ‥‥‥」


ポケットから小さなものを取り出し、眞の手に握らせる。‥‥‥血で濡れており、ほのかに生温い。


「‥‥家族、には‥‥‥すま、ない‥‥‥と」


そこまで呟いた後、眞の腕を1度だけ握り‥‥‥力を失った。


「‥‥‥」


地面に寝せ、瞼を下げる。


「‥‥‥‥‥‥」


「‥‥‥行くぞ」


詩音が促す。眞は素直に従い、その場を後にした。







翌日。


事務所には眞達と依頼人の3人がいた。

テーブルには取引現場を押さえたデータが置かれている。


「昨晩はご苦労だった」


依頼人が頭を下げる。そしてテーブルの上のデータをコートの中に仕舞う。


「後処理はこちらで行ったから心配はいらない。‥‥‥依頼料は本日中に振り込む」


「分かりました‥‥‥それと」


「‥‥‥何か?」


「撃たれた男は‥‥‥どうなりましたか」


「‥‥‥搬送先の病院で亡くなった」


「そう、ですか」


「遺族には事故死と伝えてある。‥‥‥それに保険金も降りる筈だ。数年間は生活に困ることはないだろう」


「‥‥‥」


最期まで家族の身を案じていた。

依頼人の話す通りであれば、彼の名誉が傷つくことは無いだろう。

それに金銭的な面でもとりあえずは保証される筈だ。

その事実に安堵していた眞に、依頼人が言葉を続ける。


「それと、こちらから1つだけ質問がしたい」


「‥‥‥何でしょうか?」


安堵から一転。緊張が走る。

思い当たる節があるからだ。


「‥‥‥いや、その前に正体を明かそうか、約束を交わしたしな」


依頼人がサングラスとマフラーを外す。

そして手帳のようなものをコートの内ポケットから取り出し、眞に見せる。


‥‥‥公的な機関に属する証明書を。


「‥‥‥まさか」


「‥‥‥だから言っただろう?‥‥‥話を戻す」


手帳のようなものを戻し、質問する。


「死んだ男から何かを受け取ったか?」


「いえ、何も」


はっきりと言う。


動揺は見せてはならない。

あれは、彼が最期の力を振り絞って眞に託したものであったから。


「‥‥‥‥‥‥そうか」


依頼人は引く。

その思惑は分からないが、それ以上詮索してくる気配はなかった。


「では、失礼する」


依頼人が事務所をあとにする。

事務所の通りを走り去る車を見送ったあと、詩音の声が聞こえた。


「あの男、お前とはどんな関係だったんだ?」


「‥‥‥元上司です。‥‥‥‥‥‥会社に勤め始めた頃は‥‥‥先輩でしたが」


俯きながら静かに答える。


「‥‥‥そうか」


「‥‥‥‥‥‥詩音さん。今回の依頼料。早めに頂くことは出来ますか?」


「‥‥‥ああ、今日中に振り込まれるはずだからな。‥‥‥何故だ?」


雇われてからは金には困っていない筈。その事実を知る詩音が訝しがる。


「‥‥‥私の取り分を、ご遺族へお渡ししたいのです」


「‥‥‥‥‥‥難儀な奴だ」


眞の意図を解した詩音は、一言だけ呟き、そのまま沈黙を貫く。


「ありがとうございます‥‥‥」


ソファに座り、天井を仰ぐ。

涙は出ないが、今は何もしたくはない気分であった。


「‥‥‥」


所々、赤黒いものが付着している小さなものをポケットから取り出し、じっと見つめる。


‥‥‥手の中に納まる程度の、記憶媒体。


それが眞と詩音の運命を動かすものであることを、この時は知らなかった。

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