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だらしのない復讐者と共犯者になった男 〜INDE ”VENGEANCE“ DAY〜   作者: 岩波備前
『出火』

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18/23

17話

とある日の事務所。


事務所には眞しかいない。


詩音は朝から独自に調査に向かっていた。

その間、眞は事務所で電話番。

もしも依頼が来た場合は、依頼内容を控え、その依頼を受けるかどうかの判断を詩音に委ねる流れだ。

眞はこのやり方について、事務所への電話を詩音の電話に転送する方法はどうかと相談したが、詩音に却下された。曰く。


「邪魔されたくない」


とのことであった。

何を邪魔されたくないのかと、尋ねることはしなかったが。


「‥‥‥」


依頼を待ちながら2人分の洗濯物を畳む。

元々家事はしていたのでそこまで苦ではない。

眞も詩音もファッションには興味が無く、ただ人様に見られても恥ずかしくない程度のフォーマル〜カジュアルな衣服を持っている程度だ。


特に詩音については、シャツとパンツ以外の服は見たことがない。

一応はあるらしいが、眞が在職してからも確認は出来ていない。


「‥‥‥想像できないな」


シャツにアイロンを掛けながら呟く。

詩音の姿を思い浮かべると、まずベージュのコートに白のシャツ、黒のパンツにブーツ。

‥‥‥これしか思い浮かばない。


そんなことを考えていた所、事務所のデスクの方から電話が鳴った。


「依頼、来るんだな‥‥‥」


電話番の眞は、電話が来たことに驚く。

とりあえず3コール以内には取るようにした。


「はい、黒羽便利屋です」


「‥‥‥依頼を頼みたい。••••••薬についてだ」


名乗らず、用件だけを伝えてくる。

このような依頼の仕方の場合、大抵は表に出すことの出来ない内容が多いらしい。

事前に詩音から説明を受けていいた。


「申し訳ありません。代表の意向で薬物についての依頼はお受けできないことになっておりまして」


殺人と薬物に関する依頼は受けないと説明を受けていた為、断ろうとした。


「薬物そのものではない‥‥‥その現場を押さえて欲しい。写真でも動画でも構わない。依頼を受けて貰えるようなら、明日の昼までに連絡が欲しい」


相手から連絡先を聞く。


「‥‥‥分かりました。代表に確認した後、折返しのご連絡をさせていただきます」


薬物そのものではないが、薬物関係の仕事には変わりない。

独断で受注せず、詩音に確認を取ることにした。


「‥‥‥分かった」


電話が切れる。


「‥‥‥詩音さんが帰って来たら話してみよう」


依頼の内容と連絡先をメモに残し、再びアイロンがけに精を出すことにした。







「あらら、いらっしゃい」


「こんばんわ」


その日の夜。

眞と詩音はバリオスを訪れていた。


詩音に依頼の話をした所、バリオスで飲みながら話をすることになった。


「この間は、大変失礼したしました‥‥‥」


眞は深々と頭を下げながら、菓子折りを四条へ手渡す。


「いいのよ、そんなにかしこまらないで頂戴。••••••赤城さんはお得意様なんだから、これからもこのお店に通ってくれるだけで良いのよ?」


「ありがとうございます。そうさせて頂きます」


「ふふっ、ならこの話はおしまい。では、最初は何をお出ししましょうか?」


「眞、先に依頼の確認だ」


「え‥‥‥あ、はい」


酒の前に依頼の話を促す。

詩音にしては珍しいことであった為、眞は少し戸惑う。


「あれ‥‥‥今、名前で?」


「••••••ああ、そうだが?」


詩音の言葉に違和感を覚えた様だ。

3秒ほど考えたあと、1つの答えに行き着く。


「‥‥‥詩音ちゃん。まさか、赤城さんと‥‥‥」


両手で口元を覆う。女性よりも女性らしい仕草だ。


「バーテンダーさんが考えているようなことはありませんよ‥‥‥」


とんでもないことを言い出しそうであったため、先に誤解を解く。

眞に次いで、詩音が援護射撃を行う。


「ああ、眞に協力してもらうことになった」


「協力‥‥‥ああ、なるほど。ご両親の••••••」


ようやく合点がいった様だ。


「詩音さん••••••四条さんもご存知で?」


「ああ、そうだ。手掛かりを掴むためにマスターにも協力して貰っているんだが••••••」


「中々尻尾が掴めなくてねぇ‥‥‥ごめんなさいね?‥‥‥それにしても、ねぇ‥‥‥」


「なんでしょうか?」


四条が眞をじっ、と見つめる。

何かしてしまったのであろうか、と考えていた所、四条がぱっと表情を変える。


「なんでもないわよ。赤城さん、良い男だわぁ‥‥‥って思った、だ、け」


眞に向かって片目をぱちり、と閉じる。


「‥‥‥あ、ありがとう、ございます‥‥‥?」


「‥‥‥何をやっているんだ?」


若干引き気味の眞を怪訝な目で見る詩音。

2人がいつもの定位置に座った所で話を始めた。


「その依頼人からは、薬物の取引現場を押さえて欲しい、と言われたんだな?」


「はい、写真でも動画でも良いので、取引現場を押さえてもらいたいと言われました」


「ねぇ、薬物の取引なんでしょう?••••••なら、思い当たる節はあるんじゃない?」


「えっ?」


「‥‥‥気が付いていないのか?」


「気が付いていないって‥‥‥••••••あ」


眞はそこで思い出す。自分が前職を辞める事になった理由を。


「‥‥‥よりにもよってお前が忘れてどうするんだ‥‥‥」


「‥‥‥面目次第もございません」


情けなさを感じている眞に対し、四条がすかさずフォローを入れる。


「ま、それだけ今の職場が居心地良いんじゃない?‥‥‥詩音ちゃんみたいな美人さんと1つ屋根の下で生活しているんだから」


「‥‥‥そうかもしれません」


人から指摘されて気が付く。

働き始めてまだ日は浅いが、前の職場よりも束縛されている感じが少ない。それに目の保養になることも多い。

しかし、それが良いことばかりではないことも確かだ。


そんな考えを読み取ったのか、詩音が小さく溜息を付きながら話を進める。


「はぁ‥‥‥話を戻すぞ。眞の前の会社が関わっているかは知らんが、今の所その情報しかない訳だ。‥‥‥で、どうするんだ?」


「‥‥‥へ?••••••私、ですか?」


「聞いたら悪いのか?」


「い、いえ、受けるか受けないかは詩音さん次第ですし、それに薬物関係の依頼でしたので‥‥‥」


「だからといって直接薬物の取引を行う訳でもない‥‥‥お前が良ければ受けるが‥‥‥」


決定権は詩音にあるはずだが、今回に限り、眞に判断を委ねている。


(気を遣ってくれているのか‥‥‥?)


そう思った眞は、戸惑いながらも判断を下した。


「そうですか‥‥‥では、受けましょう」


「分かった」


すんなり依頼を受けることを決定した。

四条も今の遣り取りに思うことがあったのか、小声で眞に同意を求める。


「‥‥‥珍しいものを見ちゃったわね」


「そうですね‥‥‥」


「‥‥‥人をなんだと思っているんだ?」


少し呆れた様子で2人を見る。


依頼を受けると決めたが、その内容についてはまだ分からない。

眞は詩音のいる時間帯‥‥‥翌日の朝に依頼人へ連絡することに決めた。







翌朝。


事務所から依頼人に連絡をした所、依頼人からは事務所で直接話がしたいと希望があった。


連絡をしてから2時間後、依頼人が事務所を訪れる。

肌寒い季節になりつつある昨今。

依頼人は季節に合わせた装いをしていた。

しかし、帽子とサングラス。それに口元まで隠れるマフラーはやりすぎな感じがする。

‥‥‥よほど顔が割れたくないのであろう。


「黒羽便利屋で間違いないか?‥‥‥薬のことで依頼に来た」


「‥‥‥どうぞ、こちらへ」


ソファへ案内する。

依頼人と眞達が座った所で、依頼人が口を開く。


「明日の晩、とある貿易会社と海外組織が麻薬の取引をすると情報を掴んだ。だが、取引場所の候補が複数あり、我々だけでは押さえきれない。••••••そこで、貴女方の協力を得るために、依頼をさせて貰った」


「指定された場所で監視を行う、と?」


「そうだ。可能性の高い場所は我々で押さえるが、他に可能性のある1箇所を貴女方に頼みたい。••••••繰り返すが、取引現場を押さえるだけでいい。後は我々に連絡さえしてくれれば依頼は完了だ••••••証拠となる写真や動画は、後日受け取る」


「分かりました。では、場所と連絡先を••••••」


「聞きたい事がある。お前達は何者だ?••••••素性が分からない相手に手は貸したくない」


「詩音さん!?」


それまで沈黙を貫いていた詩音が口を出す。

監視対象だけでなく、依頼人が薬物のブローカーである可能性を考えての事だろう。依頼にかこつけて利用される事態は避けたい。


「••••••••••••今は明かせない。だが、貴女が思っているような立場の人間ではない。••••••気になる様であれば、証拠を受け取る時に明かそう」


「••••••••••••」


「信用するかどうかはその時に判断してくれ」


「詩音さん。薬物自体をどうこうする事も無いみたいですし、ここは••••••」


「••••••••••••分かった」


疑いは晴れないものの、眞の言葉でとりあえず矛を納める。


「良いかな?••••••場所と連絡先はこれだ。••••••では、私はこれで失礼する」


依頼人が事務所から去る。

最初から最後まで正体は現さないが、依頼人は裏社会の人間ではないと感じていた。


「••••••詩音さん、どうですか?」


「••••••••••••まあ、いいだろう」


詩音も同じ考えのようであった。

2人は明日の依頼に向けて準備を始める事にした。


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