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だらしのない復讐者と共犯者になった男 〜INDE ”VENGEANCE“ DAY〜   作者: 岩波備前
『出火』

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16話

詩音の共犯者になる事を決めて数日。

眞は彼女の事について色々と知ることが出来ていた。


「あまり言いたくは無いのですが‥‥‥」


「なんだ、はっきり言え」


「なんで脱いだものをそこかしこに投げておくんですか?」


ソファの上に投げられていたシャツとパンツ

、靴下などを指で示す。


「‥‥‥悪いか?」


「人として駄目かと‥‥‥」


眞が知ったことの1つ目。

詩音があまりにもだらしが無いこと。


これについては雇われた初日から知ってはいたが、これほどのものとは思わなかった。


髪はそのまま。化粧はしない。服もしわしわ。酒瓶は放置する。吸殻もそのまま。衣服は適当に脱ぎ捨てる。その中でもひどいのが‥‥‥


「かご、用意しましたよね‥‥‥」


「ああ、あるな」


「あそこに洗濯物を入れて欲しいのですが‥‥‥何故、酒瓶が入っているんでしょうか?」


「‥‥‥なんでだろうな?」


「詩音さんが、入れたんですよ?」


「そうか」


「いやいや、酒瓶を入れるのはまだ良いです。••••••お願いですから、下着だけでもご自分で処理するか、纏めて置いてほしいんです」


床に散らばっている下着を指差す。

••••••上下セットだ。


「‥‥‥別に気にならないが?」


「私が気になるんです!」


「‥‥‥面倒な奴だな」


「羞恥心は無いんですか?」


「‥‥‥‥‥‥••••••無いな」


十分な時間を掛けて考えた結果、無いらしい。


「はぁぁぁ‥‥‥」


「文句ばかり言うな‥‥‥••••••何なら使ってもいいぞ?」


「使いませんよ?!」


詩音は自分自身や衣服に頓着がない。

だが、自分の容姿についてはある程度の自覚があることがなんとも悩ましい。

自身の身体が男性を引きつける事すら利用している節がある。


「この格好も結構役に立つ。‥‥‥男はここに惹きつけられるみたいだしな」


そう言いながら、さり気なくシャツのボタンを外す詩音。

元々広い隙間に、更にボタン1つ分の隙間出来る。


視線誘導というらしいが、そんな技術を使ってほしくはないと眞は思った。


(••••••まあ、これはこれで)


‥‥‥今日も黒だ。


「ほらな?」


「‥‥‥」


してやられてしまう。


詩音自体は特に恥ずかしがる様子や嫌味ったらしい笑みを浮かべることもなく、気怠げな表情を変えずに接している。


「まあ、こんな事でへそを曲げられてもかなわん。‥‥‥かごには入れて置いてやる」


「‥‥‥洗濯もお願いしますよ‥‥‥」


詩音の方から譲歩?を引き出せたのは良いが、まだまだ改善には程遠いことを感じていた。







2つ目。

詩音の髪の毛について。

詩音の髪は、黒に細かな白のメッシュが数本入っている。特に前髪には一房垂れるように、はっきりとしたものがあった。


••••••違う。

白のメッシュと思っていたのはただの白髪だった。


偶然なのか体質なのか。

白髪、といっても近くで見ると僅かにきらきらと反射している。老いを感じさせる様子はない。

いつからあるのか尋ねてみたがその返答はこうだ。


「ああ、これか?‥‥‥子どもの頃からだが。丁度祖父に引き取られた頃からか‥‥‥」


意外と重い理由の様だ。

聞かなければ良かったと考えてしまう。


「白髪、といってもそこまで年寄りではない。覚えていないが25、6くらいだったような気がするが‥‥‥」


自分よりも3〜4歳程年下。

その事実に、眞は何か感慨深いものを感じてしまう。







3つ目。

飲食物にこだわりがある。


「‥‥‥」


眞が作った料理の皿から緑色のものを選んで別皿に移している。


「••••••詩音さん。ピーマン、食べないんですか?」


「ああ、これは毒だ」


最近のピーマンは毒物になってしまったらしい。眞はその事実に驚いた。


「‥‥‥ご希望の回鍋肉ホイコーローなんですが」


「ああ、そうだな」


「••••••野菜、大事ですよ?」


「なら、お前が食べればいい」


そう言いながら、ピーマンの移住先を眞の皿に変更する。


「‥‥‥」


仕方なくそれを食べる。


子ども舌、という訳でも無いが、ピーマンだけは駄目らしい。



他にも、こだわりを感じさせる場面はある。



「同じ酒ばかりなんですね」


「ああ。それが一番馴染む」


事務所には詩音が購入してきた酒瓶が何本も転がっている。毎日掃除をしているのだが、一向に綺麗にならない。


その中の1瓶を手に取る。

「BLACK&WHITE」の文字に、2匹の犬がラベルに並んでいる。


「本当はクライヌリッシュが一番すきなんだが‥‥‥あれは高い」


デスクの上に何本か鎮座しているボトル。

山猫の絵が書かれたラベルの酒瓶。それが詩音の一番好きな酒らしい。


「‥‥‥お金は入りましたよね?」


「ああ、だから買ったんだが?」


「では何故、この酒を?」


「安かろうが高かろうが、どちらにしても直ぐに無くなる。‥‥‥なら、安い方が経済的だ」


「‥‥‥そうですか」


釈然としないものを抱えつつ、瓶をひとまとめにする。


「‥‥‥煙草も同じものばかりですね」


「ああ、それが一番美味い」


瓶の傍に落ちていた、柔らかな紙箱を拾う。

くしゃくしゃになっているがラベルは確認出来た。

「GAULOISES BRUNES」羽のついた鉄兜が特徴的だ。


「カポラルが良いんだが、今はないからな‥‥‥そもそも取り扱いが少ないんだよ」


それもマスターに頼んで輸入して貰っている、と呟く詩音。


わざわざ個人輸入で仕入れるほど、こだわりがあるらしい。

‥‥‥ちなみにこの煙草は臭い。まあ、そこが良いのだが。







4つ目。

慣れると意外と話をしてくれる。

衣類の話や髪の話などでもそうだが、聞けばきちんと返事をしてくれる。

本人から話題を出すとか世間話をするとかは無いが。


「‥‥‥話すこと自体億劫だ。それに元々男とはあまり話はしたくない。女も面倒だが‥‥‥」


「四条さんや私も、ですか?」


「眞は別に構わん‥‥‥慣れた。それとマスターとはそこそこ付き合いがある。それに‥‥‥あれ、だしな」


「そうですか‥‥‥」


自分に慣れてくれたことは嬉しいが、四条のことについては複雑な返答が帰ってきた。

詩音といい、四条といい。特殊な人材が多いような気がする。







5つ目。

詩音の手腕について。

便利屋としての技能や身を守る術は祖父から教わったそうだ。

それどころか、この事務所自体が祖父のものだったらしい。


つまり、詩音は黒羽便利屋の2代目。


「無愛想な男だったな。まあ、育ててくれたことには感謝しているが‥‥‥」


ぶっきらぼうに話す詩音。

孫にも受け継がれているらしい。

しかし、面倒見は良かったのだろう。

その点も孫にしっかりと受け継がれていた。


何故なら時間がある時は、護身術としてナイフの扱い方を教えてくれるからだ。


「使えなくとも刃物に慣れておいて損はない。‥‥‥中途半端が一番危険だがな」


ナイフの手入れの仕方や、抜き方。不意をついた切り方や刺し方等。

他には近距離・中距離での扱い方などなど。

眞には高度な技術過ぎて理解は出来ていなかったが。


「詩音さん、前の依頼の時に“殺人はしない”と言っていましたが。それなら何故ナイフ術を?」


「私の体格に一番合っているからだ。自慢では無いが銃も撃てないし、体術もからっきしだ。••••••押さえられたら手も足も出ない」


ほら、と眞の両手を誘導し、自身の腕に掴ませる。


(ちっこい、そして細い‥‥‥)


「んーっ‥‥‥」


あまり本気かどうかは定かでは無いが、予想以上に力が無いことは分かった。


(‥‥‥)


なんだか良くない事をしている気分になる。その事に気が付いた眞は慌てて手を離す。


「ぐっ‥‥‥」


「あ」


勢いよく開放された手が、眞の顎に当たる。


「‥‥‥ちゃんと押さえていろ」


「すみません‥‥‥」


そこまで痛くはなかった。

確かに詩音の言う通り、力はあまり無いのであろう。


「‥‥‥でも力が無いとはいえ、良くナイフやバイクを扱えますね」


詩音が扱っているナイフはフルタングのものでありそれなりに重量はある。

それに冷泉家から提供されたバイクは米国産。長距離用の大きいものだ。


「‥‥‥何を言っている。ナイフもバイクも力はいらないだろう?」


「‥‥‥」


力以外の何かを使っているようだ。

それはそれで恐ろしい。


「それに、殺人については祖父の教えだ。なんでも、人を殺すとキリが無いらしい••••••まあ、良くは分からないが‥‥‥」


少しだけぼやかして話しているように感じたが、敢えて深入りはしなかった。


「殺さずとも、殺してほしいと思わせるほどのことは出来るしな‥‥‥そっちの方が‥‥‥良い。ふふっ‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥」


単に彼女の嗜好によるものかもしれない。

眞はそう思った。

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