第18話「泥色の嘘と、透明な真実」
「今夜、我々はこのスタジオで、日本中が注目する真実の行方を見届けます!」
司会者の扇情的な声が、スタジオに響き渡る。カメラが、悲劇の主人公といった面持ちの影山をアップで映し出した。
番組は、まず影山の主張から始まった。彼は、ハンカチを握りしめ、時折声を詰まらせながら、蓮にいかに裏切られたかを切々と語り始めた。
「私は、彼を親友だと信じていました。才能を尊敬し、彼の成功を心から願っていました。しかし彼は……私の魂とも言えるアイデアを盗み、私を……そして、私たちの恩師をも裏切ったのです」
彼の声は、スタジオのマイクを通して、視聴者の胸に響くように計算され尽くしていた。だが、私の耳には、その言葉の一つ一つがおぞましい泥色にしか聞こえない。悲しみを装ったその声は、自己顕示欲と悪意の黒、そして人々を欺くことへの愉悦が混じった、ヘドロのような色をしていた。
司会者も、コメンテーターとして並ぶ文化人たちも、完全に影山のペースに引き込まれている。彼らは同情的な眼差しでうなずき、彼の言葉を補強するような発言を繰り返した。スタジオの空気は、完全に「影山=被害者、蓮=加害者」という構図で塗り固められていった。
次に、反論の機会を与えられた蓮が、静かに口を開いた。
「彼が言っていることは、事実ではありません」
彼の声は、いつも通り無色透明だった。感情の起伏がなく、あまりに淡々としている。
「アイデアを盗んだのは、彼の方です。そして、恩師を絶望させたのも、彼の重ねた嘘が原因です」
蓮は、恩師との思い出、影山と友情を育んだ日々、そして悲劇が起こってしまった真実を、飾り気のない言葉で語り始めた。しかし、彼のあまりにストレートで客観的な語り口は、影山の涙ながらの劇的な告白に比べると、あまりにもインパクトに欠けていた。
視聴者には、彼の言葉はただの冷たい言い訳にしか聞こえないだろう。事実を述べれば述べるほど、彼は「反省の色がない冷酷な人間」というレッテルを、自ら貼っているようなものだった。
「証拠でもあるんですか?」
司会者が、挑発するように尋ねる。
「恩師の日記に、彼の嘘を示唆する記述があります。当時の友人たちの証言もあります」
蓮はそう反論するが、影山は待っていましたとばかりに言葉をかぶせた。
「悲しいですね。亡くなった恩師の日記まで持ち出して、自分の罪をごまかそうとするなんて。友人たちも、あなたが脅して偽りの証言をさせているのかもしれない!」
影山の声は、怒りと悲しみを巧みに演じ分け、ますます同情を集めていく。彼の泥色の声が、蓮の透明な真実を、まるで濁流のように飲み込もうとしていた。
観覧者席で、私は唇を噛み締めていた。このままでは、蓮が負ける。彼の真実は、誰にも届かないまま、嘘の洪水に押し流されてしまう。
蓮は、追い詰められていた。弁明しようとすればするほど、泥沼に足を取られていく。彼は、絶望的な状況の中で、一度だけ、私の方をちらりと見た。その瞳が、助けを求めるように私を捉えた。
もう、迷っている時間はない。
私が、やるしかない。
私は覚悟を決めた。自分の呪われた能力を、今こそ、すべての人の前で使う時だ。それがどんな結果を招こうとも、もう構わない。
私は、観覧者からの質問コーナーが始まるのを、息を殺して待ち続けた。震える手で、マイクを握りしめる準備は、もうできていた。




