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嘘が色で見える地味司書の私が、唯一嘘をつけない無色透明な声を持つ人気ミステリー作家様と出会って、呪われた人生が彩られ始めました  作者: 久遠翠


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第16話「反撃の狼煙」

 蓮と私が心を通わせた翌日、状況はさらに悪化していた。影山が、今度はテレビの情報番組に出演し、涙ながらに被害者として振る舞っていたのだ。彼の巧みな嘘は、お茶の間の同情を完全に引きつけていた。

「私は、ただ真実を明らかにしてほしかっただけなんです。彼に、犯した罪を認めて、恩師のお墓の前で謝ってほしかった……」

 テレビ画面の中で、影山はハンカチで目頭を押さえている。その声は、悲しみと誠実さを装った、厚顔無恥な泥色の嘘で塗り固められていた。


「もう、終わりかもしれないな」


 私の隣で、蓮がぽつりとつぶやいた。彼の声には色はなかったが、その響きには深い疲労と諦観が滲んでいた。出版社からは契約の打ち切りを宣告され、今住んでいるマンションの前にはマスコミが張り付き、外に出ることすらままならない状況だという。


「終わりじゃない」


 私は、彼の顔を真っ直ぐに見つめて言った。


「終わらせない。絶対に」


 私の声には、自分でも驚くほどの強い意志が宿っていた。


「私に、考えがあるの」


 私は、彼の手を取り、私がこれまで集めてきた調査の記録を見せた。当時のサークル仲間からの証言、恩師の日記の写し、そして週刊誌の記事やテレビでの影山の発言を時系列に並べ、その矛盾点を洗い出したリスト。


「見て。影山の嘘には、たくさんの綻びがある。彼は嘘を重ねるうちに、自分でも気づかない矛盾をいくつも作っているわ」


 例えば、影山は「新人賞の締め切り直前に、蓮にアイデアを盗まれた」と主張している。しかし、恩師の日記には、その締め切りの二ヶ月も前に「影山くんが持ってきたプロットが、海道くんのものと似ている」という記述があった。時間軸が、明らかにおかしい。


「彼は、テレビで『恩師とは親子のような関係だった』と涙ながらに語っていた。でも、恩師の奥様は『主人は影山くんの焦りを心配していた』と証言している。本当に親しいなら、恩師が最後まで推敲していた未発表の遺稿があることを、知らないはずがない」


 その遺稿の存在は、奥様からこっそり教えてもらった。それが影山を追い詰めるための、最後の切り札になるかもしれない。

 蓮は、私が作った資料を食い入るように見つめていた。彼の諦めに満ちた瞳に、少しずつ光が戻ってくるのがわかった。


「すごい……。どうして、ここまで……」

「言ったでしょう? あなたを信じているから。そして、嘘つきが許せないのは、私も同じだから」


 私は不敵に笑ってみせた。もう、うつむいてばかりの私ではない。愛する人を守るためなら、私はどこまでも強くなれる。


「蓮さん。この証拠を持って、もう一度、出版社と話してみて。ダメなら、弁護士を立てて、公の場で反論しましょう」


 私の言葉に、蓮はしばらく何かを考えていたが、やがて固く、決意に満ちた表情でうなずいた。


「……わかった。君がそこまでしてくれるのに、俺が諦めるわけにはいかないな」


 彼は私の手を取り、その甲にそっと口づけをした。


「君は、俺の女神だ」


 その言葉も、もちろん無色透明だった。純粋な感謝と愛情が、私の心を満たしていく。

 その日の午後、蓮は私たちがまとめた資料を手に、一人で出版社へと向かった。結果がどうなるかはわからない。しかし、これは、長い闇の中に差し込んだ、反撃の狼煙だった。

 私は、蓮の背中を見送りながら、固く誓った。もし、これでも世間が信じてくれないのなら、私が直接、影山と対決する。私のこの能力を使って、白日の下に彼の嘘を暴き出してみせる。

 もう、何も怖くはなかった。私の隣には、真実の音色を持つ彼がいる。そして、私の呪いだった力は、今や彼を守るための最強の剣となったのだから。

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