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嘘が色で見える地味司書の私が、唯一嘘をつけない無色透明な声を持つ人気ミステリー作家様と出会って、呪われた人生が彩られ始めました  作者: 久遠翠


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第15話「初めての『好き』と能力の告白」

 私の告白は、閉館後の静まり返った図書館に、確かに響き渡った。蓮は、驚きと、そして何かを理解したような複雑な表情で私を見つめている。彼の瞳から零れ落ちた涙が、彼の心をどれだけ揺さぶったのかを物語っていた。


「今、なんて……」


 彼の声は微かに震えていた。

 私はもう一度、彼の目を真っ直ぐに見つめて、繰り返した。


「好きです、蓮さん。あなたのことが、好きです」


 自分の声に、一点の曇りもない真実の色が宿っているのを、私ははっきりと感じていた。それは、私が今まで誰にも向けることのできなかった、純粋で、混じり気のない感情の色だった。

 蓮は、私の言葉を噛みしめるように、しばらく黙り込んでいた。そして、ゆっくりと私に向かって一歩、足を踏み出した。


「俺も……」


 彼の声は、やはり無色透明だった。けれど、その響きには、今まで感じたことのない熱が込められていた。


「俺も、君が好きだ。初めて会った時から、ずっと。君の静かな優しさに、何度も救われた」


 彼の告白は、何の飾り気もない、ストレートな真実だった。その言葉が、私の心に温かい光のように降り注ぐ。私たちは、ようやくお互いの気持ちを確かめ合うことができた。嘘と偽りに満ちた世界の中で、たった二人だけの、純粋な真実が生まれた瞬間だった。

 蓮は、私の頬にそっと手を伸ばし、親指で涙の跡を拭ってくれた。その優しい仕草に、私はまた涙があふれそうになるのを必死で堪えた。


「でも、さっき言っていたことはどういう意味なんだ? 俺の声に、色がない、というのは……」


 彼の問いに、私は覚悟を決めた。彼にすべてを話す時が来たのだ。私の秘密も、私の苦しみも、すべて。

 私たちは閲覧用の椅子に並んで腰掛けた。私は、自分の人生を支配してきた、この特殊な能力について、一からすべてを蓮に打ち明けた。


「私には、物心ついた時から、人の嘘が『声の色』として見えるんです」


 蓮は驚いたように目を見開いたが、黙って私の話の続きを促した。


「悪意のある嘘は、泥みたいに濁った色。見栄や体裁のための嘘は、薄っぺらい色。だから、私はずっと人が信じられなかった。友達も、家族でさえも。世界中が、汚い色であふれているように見えて……息が詰まりそうでした」


 私は、自分の過去の痛みを、一つ一つ言葉にしていく。


「だから、人と深く関わるのを避けて生きてきました。この静かな図書館が、唯一の逃げ場所だったんです。でも、そんな時に、あなたと出会った」


 私は蓮の顔を見上げた。


「あなたの声は、私が今まで聞いたどんな声とも違いました。色が、全くなかったんです。透明で、純粋で……。初めて聞いた時は、自分の能力がおかしくなったのかと思いました。でも、違った。あなただけが、特別だったんです」


 私の告白を、蓮は真剣な眼差しで聞いていた。彼の瞳には、驚きと共に、深い理解の色が浮かんでいた。


「あなたの色のない声は、私にとって唯一の救いでした。唯一、信じられる音でした。だから、あなたが世間から嘘つきだと罵られても、私にはわかるんです。あなたが嘘をついていないことくらい。影山という男の声は、私が今まで見たこともないくらい、おぞましい泥の色をしていましたから」


 そこまで話すと、蓮は私の手を強く握りしめた。その手は温かく、力強かった。


「そうか……」


 彼は、深く、長い息を吐いた。


「ずっと……独りで、辛かったな」


 その言葉は、私の心の奥底に、深く、深く染み込んだ。私の長年の孤独と苦しみを、彼はたった一言で包み込み、理解してくれた。その瞬間、私はもう一人ではないのだと、心から感じることができた。

 蓮は、私の体を優しく引き寄せ、その腕の中に抱きしめた。彼の胸に顔を埋めると、彼の心臓の確かな鼓動が聞こえてくる。それは、どんな言葉よりも雄弁に、彼の存在と、彼の真実を私に伝えてくれた。

 私たちは、お互いの秘密と痛みを分かち合い、完全に一つになった。彼の呪いである「嘘がつけない」という枷と、私の呪いであった「嘘が見える」という力。二つの孤独な能力が、今、お互いを救うための力として、固く結びついたのだ。

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