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嘘が色で見える地味司書の私が、唯一嘘をつけない無色透明な声を持つ人気ミステリー作家様と出会って、呪われた人生が彩られ始めました  作者: 久遠翠


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13/21

第13話「仕掛けられた罠」

 蓮の告白を聞いてから数日後、私の胸騒ぎは最悪の形で現実のものとなった。

 影山は、蓮の新作が自分たちの過去をモデルにしていると知り、逆上したのだろう。彼は、蓮を社会的に抹殺するための、卑劣な罠を仕掛けてきた。

 始まりは、一冊の週刊誌だった。

『ベストセラー作家・海道蓮に盗作疑惑! 恩師を自殺に追いやった冷酷な過去!』

 そんな扇情的な見出しが、駅の売店のスタンドで私の目に飛び込んできた。心臓が凍り付くような衝撃だった。震える手でその週刊誌を手に取ると、中には影山の独占インタビューと称する記事が、何ページにもわたって掲載されていた。

 記事の内容は、事実を巧妙にゆがめ、悪意に満ちた嘘で塗り固められたものだった。

 影山は涙ながらに語っていた。「親友だと思っていた彼に、アイデアを盗まれた。それを指摘すると、彼は私を陥れ、結果的に私たちの恩師は絶望して命を絶った。彼はその罪悪感から逃れるように、私たちの過去をモデルにした小説を書き、私を二度も殺そうとしている」と。

 記事には、学生時代の蓮と影山、そして恩師が仲睦まじく写っている写真まで掲載されていた。影山は、悲劇の主人公として、同情を誘うように自らの物語を語っていた。その言葉のすべてが、私の目には泥水のようなおぞましい色に見えたが、文字になったそれは、一般の読者には説得力を持って響くだろう。

 この記事を皮切りに、影山の策略はネットメディアへと一気に拡散した。まとめサイトには「海道蓮、ゲスすぎ」「人の心がないサイコパス」といった誹謗中傷のコメントがあふれ、SNSでは「#海道蓮の盗作を許さない」といったハッシュタグまで作られ、蓮へのバッシングは燃え広がる炎のように拡大していった。

 あっという間に、世論は蓮を断罪する方向へと傾いていった。書店からは彼の本が次々と撤去され、出版社には抗議の電話が殺到した。予定されていたドラマ化の話も、白紙に戻ったと聞いた。

 蓮は、出版社の上層部や、これまで彼を持ち上げていた編集者たちから、連日責め立てられていた。彼は必死に真実を語ろうとした。しかし、嘘のつけない彼の真っ直ぐすぎる言葉は、影山が作り上げた「裏切られた悲劇の親友」というドラマチックな嘘の前では、あまりにも無力だった。彼の淡々とした事実は、言い訳がましく、冷たい人間の弁明のようにしか聞こえなかったのだ。

「事実を捻じ曲げるな」という蓮の言葉は、「罪を認めない傲慢な態度」と報道され、「恩師を死に追いやったのはおまえだ」という影山の嘘は、「勇気ある告発」として世間に受け入れられた。

 嘘は、真実よりもずっと面白く、刺激的で、人の心を掴みやすい。私はその恐ろしさを、まざまざと見せつけられていた。

 図書館で会う蓮は、日に日に憔悴していくのがわかった。彼の目の下の隈は濃くなり、いつもピンと伸びていた背中は、少しだけ丸まっているように見える。それでも、彼が私に向ける声だけは、変わらず無色透明だった。それが、かえって私の胸を締め付けた。

 ある日、彼はいつもの席で、ただ窓の外をぼんやりと眺めていた。彼の前には一冊の本も開かれていない。その孤独な背中を見ているうちに、私の心の中で、怒りと悲しみと、そして一つの決意が燃え上がった。

 このまま、彼を一人で戦わせてはいけない。

 彼の真実が、嘘に飲み込まれていくのを黙って見ていることなんてできない。

 今まで呪いでしかないと思っていた、私のこの能力。人の嘘の色が見える、この力。

 今こそ、この力で、彼を救うんだ。

 私は固く拳を握りしめた。影山の泥色の嘘を暴き、蓮の透明な真実を証明するために。私にできることを、すべてやろう。

 カウンターの中から彼の背中を見つめながら、私は静かに、しかし力強く、そう心に誓った。

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