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9 デートの日の2日前に元カノが告白されている現場に居合わせた

 かなり強引にデートの約束を取り付けられた日から数日経ち金曜日。デートの日は日曜日なので、もうそろそろどうするかを考えないといけない。

 勿論考えるのはデートプランなどではなく、どうやってあの距離感の華奈を意識せずデートを敢行するかどうか。

 華奈は正直に言えばとても可愛い。それが制服ではなく私服になればさらにその破壊力は倍増するだろう。

 だからどうにかして意識を何かにズラせるようにならないと、思わず思ってもない言葉が口から出る事になる。


「そうならねえようにしねえと、何のために別れたのか分からなくなる」


 別れた理由なんて単純明快。唯一の取り柄と言えるサッカーを膝の怪我と、怪我をさせられたトラウマで思うようにできなくなったから。

 取り柄のない平凡な男の横に、マドンナは座るべきではない。だから自分から席を降りた。その席に相応しい人はもっと他にいるはずだから。

 それを蓮に伝えたときは、とても呆れた顔をされたのをよく覚えている。


「あんな顔されても……仕方ねえだろ」


 仕方ない。本当に仕方が無かった。

 俺は華奈みたいに容姿が優れているわけじゃないし、運動神経は高いけどそれを活かせる場が無くなってしまったし、クラスカーストが高い訳でもない。むしろ最下層、華奈がいる最上階とは比べたのにならない差がある。

 華奈は多分そんなの気にしないだろう。でも俺が気にしてしまう。周りからの目線、圧力、そして言葉の刃。刺さって切られて、あまつさえ膝まで一度壊された。


「はぁ……」


 あまり華奈のことを考えたくないのは、気分が重くなるのも一つの理由だ。自分が情けなくなってきてろ嫌になる。

 もし俺が蓮のようなビッグマウスの自信家ならどれほど良かっただろうと、思わない日は無い。

 少なくともこんなに暗くて人に馴染む気配もない奴は、自分から身を引くべきだ。たとえあんなにも露骨に華奈が攻めてきているとしてもだ。


「ん? 教室、まだ人いんのか」


 トイレから戻って、さっきまで少し人がいたクラスにはまだ2人ほど人が残っていた。邪魔しないように荷物だけ取って帰るかと思い、忍足で入ろうとしたら、中に居たのは……


「し、白石さん‥! 付き合ってください!」

「……」


 華奈と知らん男子だった。しかも告白現場に立ち会ってしまった。

 咄嗟に扉に張り付いて身を隠す。気配を殺して、極限まで息を潜めて状況を整理する。

 俺はさっきトイレに行った。そのとき華奈は葛葉と話していたはずだ。蓮は用事とかいってそそくさと帰ってしまったからいなかった。そして少し長めにトイレに篭って、戻ってきて荷物取って帰ろうとしたら元カノとクラスの男子の告白現場に立ち会った。

 整理して余計に頭が痛くなってきて、額を抑える。しかし、華奈がどういう反応をするのかは気になってしまう。すまないと思いつつ聞き耳を立てる。


「えーと……何で私なの?」

「可愛いし人気者だし気づいたら目で追ってて、好きなのかなって思って」

(なんだそれ……)


 今、謎に腹が立った。

 何でだろうか。薄っぺらい理由だから?否、俺が華奈に告白された時の華奈の告白文は「理由? 無いよ? 好きだから」だし、それでイラつくことは無い。

 なら何でこんなに胸が圧迫されて苦しい気持ちになるんだ?


「んー……ごめんね。私好きな人いるんだ」

「そ、それってさ! 天崎だよね?」

「そだよ」


 ストンと心の底にその言葉が落ちる。

 備品倉庫に閉じ込められた時は、その場の空気感と勢いで口にしたセリフだろうと真剣には取り合わなかった。心の中ではかなり乱されていたが、底の方では華奈は友達にも好き好き言うし、蓮にも同じような感じだからと理由付けをして逃げていた。

 でも今は違う。告白されていると言うシチュエーションで、一点の曇りも無く俺を指名して好きだと公言した。


「理由聞きたいんだよね。天崎って暗いし、顔前髪で見えないしよくわからないからさ? 何がそんなに好きなの?」


 聞きたい。だけど聞きたく無い。

 そんな矛盾した感情が渦巻き始める。華奈の気持ちを聞きたいという自分もいれば、こんなコソ泥みたいな感じで華奈の気持ちを聞くなと言う自分もいる。

 ただ逃げようにも、脚が動かない。荷物があるという理由付けで拘束されているようで、本当はその理由を聞きたいんだろと、身体が訴えているようにも思える。


「理由って、そんなに必要かな?」

「え?」

「好きだからじゃ、ダメ? 君も私のこと好きだから告白したでしょ? それと一緒だよ」


 俺はその言葉を聞いた瞬間、どうにもいても立ってもいられなくなってしまった。その場をそそくさと逃げるように立ち去って、さっきまで籠っていたトイレまで蜻蛉返りで戻ってきて、個室に入りドサっと便器に座り込む。

 一年前の今頃に全く同じ事を、全く同じ人から聞いた。


『理由は無い』『好きだから』


「そんなん……ふざけんな馬鹿野郎」


 誰に向けて、誰に届いて欲しいのか分からない言葉だけが口から出た。

 まともに2日後デートできる精神状態に回復できるかどうかなんて、考える余裕は無かった。

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