6 テンプレみたいな絡まれ方をした後の悪い予感は大抵当たるのは世界の摂理
4月も終わりに差し掛かってきた頃、体育祭の種目決めを六限のHRで行うことになった。
ウチの学校は天候が安定するからと言う理由で、5月の中盤に体育祭が行われる。種目に特に変わったものは無い。アグレッシブな男達が早速選抜リレーの枠を埋める。
「成宮! 出てくれ!」
「んー? 僕は遠慮したいなぁ」
「頼む! このクラス、あんま足速いやついないんだよ!」
横を見ると、蓮がリレーのメンバーに入れられそうになっていた。
蓮は基本的にどんな運動でも出来て、足もかなり速い方。リレーに出させられそうになるのも、納得だ。
「んー……僕より悠真のが速いよ?」
「は? なんで俺?」
頭のてっぺん辺りから間抜けな声が出るほど、唐突な蓮からの指名だった。
蓮の周りを囲っていたアグレッシブな男子達も、「は?」みたいな感じで俺を見てくる。俺が一番その顔をしたいんだが。
「いやいや……天崎とか」
「運動してるイメージ無さ過ぎ」
「本当に僕より速いよ? ね、悠真」
懐疑の目と蓮の全てを見透かすような目を同時に向けられる。
蓮の言っている事は事実ではある。サッカー部時代に壊された俺の膝ももう完治しているし、足が蓮より速いのも蓮と少し前に勝負して証明済みだ。
ただそんなことをクラスの奴らが知るわけも無い。そもそも、俺がサッカー部だったことすら知らない奴らが殆どだ。
「じゃあ、今から俺らと勝負な天崎」
「はぁ……?俺、やるとか言ってないけど……」
「拒否権なんか無いから。こいつが俺らに負けたら、成宮に出てもらうからな!」
「は〜いっ」
ノリがダルさが天元突破してしまっている。
どうやらこいつらに対して、俺の人権は適応されないらしい。まぁ拒否権を主張してもどうせバッサリ切り捨てられて終わりなのは目に見えているので、今更足掻いても仕方がない。
とんでもなくデカいため息を吐いた後、アグレッシブな男子達に首根っこ引っ張られてグラウンドまで連れてこられた。
いくらほぼ放課後の六限のHRとはいえ、こんな蛮行許されていいのだろうか。俺は訝しんだ。
「いいか? この100m走で俺ら四人全員に勝ったら、お前がアンカーだ」
「……」
「返事!」
「ん」
話が通じない運動バカの相手が一番の苦痛ということを、俺は再度認識した。
あまりにも気分が乗らないし足も重い。しかしバカにされたままというのも少し癪なので、この四人を軽く捻ることにした。
「それじゃ〜五人とも位置について〜、よ〜い……ドン〜」
スタートダッシュで少し滑ったが、すぐに立て直す。やはり四人とも速いは速いが、加速力と瞬発力では断然俺の方が上だった。50m付近から一気に全員抜き去って、あとはセーフティリードを保って余裕の勝利。
「おー、11秒9」
「まぁまぁか……ちょっと鈍ったな」
自分の運動してなさを嘆きつつ、後ろを向くとアグレッシブな筈の男子達が全員呆然としていた。
まぁ気持ちは分かる。いつも口に爪楊枝咥えていて、逆に目立ちそうなくらい暗い雰囲気のやつに負けたら、誰だってそうなる。
「………んじゃ俺は教室戻るわ」
「僕も戻る〜」
呆然と俺を眺めている四人を放っておいて、俺はそそくさと教室に戻った。
しかし同時にこの体育祭は絶対に俺にとって碌でも無いことになると、直感で思った。
そしてその予感は直ぐ当たることなる。教室に戻り、まだ残っていた借り物競走に適当に名前を入れた。借り物競走なら運動でどーのこーの言われることもないだろう。
「おっ! 悠真借り物競走なの? いいねぇ」
「そうか」
華奈が、横からヒョイっと出てきた。華奈は確か、リレーとか100m走とかに出る筈だ。大変な体育祭になりそうだなと華奈に心の中で敬礼しつつも、俺は先ほどクラスカースト上位みたいな風貌の女子に、備品倉庫から持ってこいと言われた『クラス旗の素材』を取りに行くことにした。
「………」
「ねぇね悠真っ。クラス旗って今年はどんなデザインになるのかな?」
(何で付いてくるんだよ)
華奈は、俺と一緒にいる事を本当になんとも思わない。俺といれば、自分のブランドが傷つく可能性もある筈なのに。
ただ俺も『付いてくるな』と言えない時点でダメだなと思いながら歩いていると、備品倉庫が見えてきた。
「備品倉庫、ここか」
「ここだね。ドアすっごい硬いから気をつけてねっ」
その華奈の言葉通り、ドアはかなり古いのか、ものすごく硬くだいぶ力まないと開かないレベルだった。
俺が通れるくらいまで開いて、真っ暗な部屋の中に入る。
「……どれだ」
「えーとね、確かここら辺にあった筈!」
華奈も続けて入ってきてどれがその素材だろうかと探す。
数分してようやく華奈が見つけた。これを持って行けば、今日のところは帰れる。
そう思った瞬間だった。
「あれ? 備品倉庫ってさっき閉めなかったか?」
「「え?」」
そんな声が聞こえてすぐ硬い筈のドアが一気に閉められた。そしてカチャンという音が備品倉庫内に響いた。
(いや、待て。内から鍵は開く筈だ。そうに決まっている。そうじゃないと不味い)
一抹の不安を覚えながら内側の鍵をガチャガチャする。しかし完全に錆びているのか動きもしない。
内から鍵を開けられず、外から鍵を閉められた。少し狭い備品倉庫に華奈と二人。一気に背中にかいたこともない冷や汗が出てくる。
「…………」
「これってさ、もしかしてやばい?」
「ああ……」
俺と華奈は全く予想だにしていなかったコテコテなハプニングに唐突に見舞われた。
なんでこんなに早く悪い予感が的中するんだと頭を抱えたい思いで一杯だった。