18 元カノとギャルがバチバチし出してる気がする
五月が過ぎ去って、六月に入った。
所謂梅雨と言われる時期でもあり、六月になってからは『雨雨晴れ雨晴れ雨雨』と言った様子で湿気で頭がおかしくなりそうだ。
そもそも地球温暖化という名の邪悪のせいでただでさえ暑いのに、湿度が高過ぎるせいで更に蒸し暑い。体感で言うと三十度近くはある。
「あっつ……」
そうなってくると流石に制服も着崩すし、髪も後ろだけ括ったりしてなんとかして涼しい格好になる努力をする。まだクーラーが使えないので、なんとかしてこの灼熱を凌ぐしか無いのだ。
しかし体育祭終わりからクラスの奴らの様子がおかしいのは明白だったが、かなり露骨になってきている。男子にヤンキーみたいな絡まれ方をされたり、女子には少しすり寄られたりと大変だ。
「悠真さーん頸えっちだと思いまーす」
「黙れ蓮……」
「もー切れ味が無いなぁ。つまんないよ〜」
湿度と低気圧でただでさえ乱調気味なのに、蓮のウザ絡みが酷すぎて更に右肩下がりだ。
しかも乱調気味な要因はその他にもある。
「やほー天っち! 勉強教えて!」
「……葛葉と華奈に聞けよ」
「天っちがいいの!」
早乙女が何故かよく絡むようになった。しかもなんか、普通じゃ無い距離感で。それこそ華奈みたいな近さ。華奈ほどぶっ飛んで近くはないのだが、流石に少し緊張する。早乙女とはまだ距離感を測っていた途中なのもあって、順応するのに時間がかかるかもしれない。
「悠真」
「なんだよ……って華奈か」
「鼻の下伸ばしてる。あと、私との約束忘れてないよね?」
「伸ばしてねえよふざけるな」
華奈も最近かなり不機嫌だ。なんというか、俺と早乙女の関係というかそう言うところに不満を抱いている感じで、ものすごくムスっとした様子で俺に喋りかけてくる。葛葉と蓮は何か知っているというか確実に理由を理解している様子で、お互い腹を抱えているのが非常に腹立たしい。
別にただの友達だ。そもそも華奈も元カノではあるが今はただの友達な訳で、不機嫌になられる筋合いは無い。
「ねー天っち〜? ここ分かんない〜」
「お前全部分かってねえな……って俺もこれは分からん」
「じゃあ私が教えるよ? 星ちゃんここはねぇ……」
「ふんふん……」
まぁ特段仲が悪くなっているわけでは無さそうなので、そこは安心している。ちゃんと会話もしているし、こうやって華奈が早乙女に勉強を教えていることも多々ある。なにせ俺は別に特段勉強ができるわけでも無いからだ。テストの順位が毎回368人中125位辺りをウロウロしている男に勉強を教えてもらうこと自体ナンセンスだ。早乙女の隣には学年2位の葛葉と4位の華奈がいるのに。
余談だが1位は蓮だ。乱数調整とか言ってたまに11位とかを取るが、基本1位が蓮の指定席。
「ふあ……ぁあ……ねむ」
「寝れば? 星ちゃんには私が教えとくから」
「えー……華奈確かに教えるの上手いけど天っち起きてないとテンション上がんない」
どういうことだ。なんで俺が起きてないとテンションが上がらないんだ。
必死に考えても答えが全く見つからない。途中で俺は考えても無駄だと思い、途中で思考を放棄した。
「そ、そもそも! なんで急に悠真にすり寄ってるの星ちゃんは! 前はチャラチャラな男の子達の連れ添いだったのに!」
「いやそんなんあたしの勝手じゃん!? あとあいつらと別に連れ添って無い! ただ理由もなく着いてきてるだけ!」
「あ……それめんどくさいやつだ」
「ほんっと……ダル杉浦って感じ」
「どんな感じだよ」
あまりにも単語のギャル感と意味不明感が共存していて、思わずツッコんでしまった。
というかこの二人、急に言い争いを始めるかと思いきや急に鎮火するからいつも身構えてから脱力するを繰り返している。
華奈がこんなに他人に対して捲し立てることも珍しいので、俺は割と新鮮だなという感じで見ていて面白いからこれもいいなと思っている。早乙女はまだ交友が浅めなので、こんな一面もあるのかという感じだが。
「星ちゃんって……面食い?」
「世界の女子はみんな面食いっしょ? 華奈は違うん?」
「んー……私は……」
何故俺をチラチラ見る。見るなよとアイコンタクトを取るも無視。腕を組んでうーんうーんと唸りながら考える華奈を見ていると、少し答えが気になってくる。
「……分かんない! 好きなタイプも私無いし面食いとか自己評価できない!」
「ええええ!? タイプ無いん!? マジに?」
「うん。好きになるのに理由いらないと思ってるし……好きになった人が私は好きだし」
「……華奈っぽ」
その答えがなんとも華奈らしく、何故かとても安心した。
好きになった人が好き。
華奈が好きになったのは一年前の俺。つまり華奈が好きなのは……ということだ。今の俺は恋愛対象外なのが容易に分かる答えで俺も心底安心した。
爪楊枝を噛む力が少しばかり強まったのは、完全に無意識だった。