17 新たなフラグは夕刻に
リレーの内容が面白くなかったので、今回は全カットとした。
理由は結局桐崎との勝負は成立する事はなったからだ。俺が拒否していたからなのもあるが、それ以上に……
「ねぇ悠真。千切りすぎだよ面白く無い」
「うっせ。煽られたんだからやり返したんだよ」
「負けず嫌い〜」
三位以下を離していた二位の桐崎を更にぶっちぎって勝ったから。勝負にすらならなかったので、桐崎との勝負は自動的に没収試合となった。
葛葉が少し遠くから感嘆したような感じで歩いてきた。
「勝ち方が派手だなぁ。アンカーの前の人がすっ転んでめちゃくちゃ差ができたのに全員ぶっちぎるんだもの」
「手加減できねえんだよ」
「悠真〜! かっこよかったよ!」
華奈が葛葉の後ろからひょこっと顔を出していつものように言葉をかけてくる。かくいう華奈も、100m走にリレーに1000m走と出た種目全てで誰一人相手になってなかったレベルだったから、かっこよかったという言葉に説得力が無い。
「悠真のかっこよさ、バレちゃったよねぇ」
「え!? やなんだけど!?」
「いやいや華奈。あんなに1500mとリレーのアンカーで目立ちまくって、挙句1500mでは普段見せない顔晒してたんだから」
「確かに……! イケメンバレたじゃん!!」
何を言ってるんだこの三人。俺のかっこよさなんてバレたところでたかが知れている。
「だってさー悠真? 視線ずーっと感じるでしょ?」
「いつもだよそんなの」
視線を感じるのはいつものことなのは本当だ。なにせ周りに華奈と蓮がいつもいるし、華奈に関しては他の男子と明らかに距離感が違う。他の男子より割と距離が近い蓮よりもさらに近いのだから、視線は集まるしヒソヒソと小声で色々言われている。
「いやいやいつもの視線とは違くない?」
「そうそう〜。なんだか熱が篭ってない?」
「熱も毎回死ぬほど籠ってるっつの」
殺意と嫉妬心という熱が毎回嫌と言うほど篭っている視線はいつも浴びている。そもそも視線に熱とか意味がわからない。こいつらの言いたいことはなんなのか全く理解が及ばない。
「はー……これだから」
「ほんと天崎くんはこういうとこ」
「悠真! 気づかなくていいから!」
「おう」
華奈がいいと言うのなら、知れていることなのだろう。そもそも蓮と葛葉が主導してきてる時点で、あまりいい事ではなさそうなので、色々と無視する事にした。
余談だが、体育祭の結果は我が青組は無事優勝だった。華奈と一緒に何故かMVPまで貰った。義務感で種目に出てたので活躍はした覚えは無いのだが、まぁ貰えるものは貰っておくのがいいだろう。
そして教室に華奈と蓮と戻ると、クラスの全員から見られた。まぁいつも通りと言えばいつも通りなのだが、なんか視線の比率がいつも華奈に八割俺に二割なのに対して今日は華奈と俺に半々の割合な気がする。
「なんか……いつもより見られてる気がする」
「ほら言ったじゃん。バレたって」
「ねぇ蓮、悠真の良さをみんなにバラさないでよ!?」
「まぁまぁ〜。悠真がこれ以上誤解されたままなのも嫌じゃ無い?」
「それは……そうだけどさ!」
何の議論だよと心の中でツッコミながら、居心地が悪い感覚に襲われながら自分の席に座る。こんな時、端の席ならどれほど良かっただろうかと真ん中にある自分の席を恨んだ。
帰りたい気持ちを抱えつつ、先生がさっさとホームルームを終わらせて下校してよしとなった。
さっさと帰ろうと鞄を持ってそそくさと教室を出る。華奈は男子達に捕まっており、蓮は寝ていたので放っておいた。
靴箱まで来てすぐに靴を履き替えて駅まで向かおうとした瞬間、目の前に立ち塞がったのはふわっとした金髪を靡かせたギャル感溢れるいつもの早乙女だった。
「天っち〜! 今日一人? 一緒にどう?」
「……早く帰りたいんだが」
「いいじゃーん電車も一緒かもだしさぁ!」
流石になんの恨みどころか、そもそもまだ仲良くなっているかすら怪しめな早乙女を無碍に扱う事はできず、結局一緒に帰る事に。一人で帰りたいのに、今日は本当に災難な日だ。
「天っち今日すーごかったねぇ」
「別に普通だろ」
「天っちの普通があたし達からすれば凄いって事だよね! それかっこよくない!?」
突き抜けてポジティブな思考で、にっこりと明るい笑顔を突き出してくる早乙女。
本当に俺は凄いとは思っていない。やれることをやって、本気も出してないしのらりくらりとこなしただけだ。それが偶々みんなの全力と競り合ってただけで。
「いやぁ天っち、イケメンなの知らなかったよ〜。性格とかは割といいなと思ってたけど、こんな運動できてあんなに顔もいいとかさぁ〜? 狡いよ!」
「イケメンじゃねえ」
「いやいや! こんなかっこいい顔前髪で隠しておいて何を……なに…………」
俺の前髪を無理やり左手で上げて顔を覗き込んできた早乙女の顔がグングン赤くなる。余裕そうな笑みが消えて、少し面白い。
前髪が上げられている感覚が少しむずむずして、くすぐったいので早乙女の左手を優しく掴んでやめさせる。
「やめろ……くすぐってえから」
「……あ、あはは〜! かっこいいお顔を拝見したくてついつい!」
「ついついじゃねえ……揶揄うな」
「はーいっ」
そう言って俺は再び駅に向かって歩き出した。追いかけるように早乙女も隣に立ってくる。
その早乙女の視線が、いつもより何故か熱を帯びていたのは気のせいだろう。