幕間 成宮蓮は親友が注目されてるのが嬉しいようです
あーあーあー。
ついに悠真の魅力に華奈と僕以外が気づいちゃったなぁ。だって今の悠真、すっごいカッコいいもん。
1500m走は、陸上部の四人がハイペースを刻んでデットヒートを繰り広げていた。でも、悠真が900mを過ぎた辺りで飽きちゃったらしく、僕の最後方一気の追い込みの指示を無視して一気に捲って最後は最下位の人を周回遅れにする無情さを見せて大楽勝した。
そして今の悠真は、髪の毛を括っていて滴る汗を拭いながら軽くストレッチをしている。遠目でも分かるくらいイケオーラが出てる。いつも僕に対して「クソイケメンが」とか言ってる人が出すオーラじゃ無いね。
そしてそのオーラを、常に出会いを求めているウチの高校の女子たちが見逃す訳もなく……
「ね、ねぇ?あの人って天崎くんだよね‥?」
「うん……いつも暗くて爪楊枝咥えてる謎の男だよ」
「でもさなんか‥‥全然違うね」
「顔見えてるから……なのかな」
なんという綺麗な掌返しだろうか。昨日まで華奈や透、星來が近づくだけで陰口を言ってた女の子達が、今はその陰口の対象にかなりドキドキしてしまっているでは無いか。
そう。悠真はイケメンだ。
本人が認めないのと、普段前髪が長過ぎて顔がよく見えなくて顔の評価ができないせいで、イケメンじゃ無いだろうという先入観が自然と入ってしまう。なんなら華奈への対応が照れ隠し込みで少々雑なので、性格も悪いやつみたいな偏見まで持たれている。
しかし悠真は元々性格はとても良い方。実際透の急なお願いにも、華奈のデートにも無理と言えないしね。
そんな性格いい人がイケメンで、更に運動もできてしまう万能男なのだとしたら、女子たちの評価なんて上がるに決まってる。僕とほぼ同じようなものだ。
「成宮くん」
「なに?透」
「天崎くんの良さ、バレたね」
「嬉しいなぁ……ほんと」
いつもは割とふざけて悠真に接しているけれど、今の嬉しいなぁという言葉は心からそう思ってる。
みんなが悠真を偏見で全く違う姿で見ていることがとても悲しかった。僕がいくら「いい奴なんだよ」と言っても誰も信じないし、悠真自身も何も言わないからずっと偏見が一人歩きしていた。
それが悔しかった。僕の唯一の親友はそんな人じゃ無いって。華奈の好きな人はそんな人じゃ無いって証明したかった。
だから無理矢理でも1500m走を走らせるよう説得してと透にお願いした。お願いを断れないのは分かっていたし、負けず嫌いなのも知ってるか無理と言わないという確信があったから。
「でも……」
正直に言おう。
この周りのみんなの反応は想定外だった。
「なんか……カッコよく見える」
「わかる! なんか……ね!」
「いつもあんなどんより雰囲気なのになにぃ……!? 腹立つ!」
「ケッ……うぜー」
凄い事になってる気がする。体育祭、それも終盤も終盤でポイントも高い1500m走という全校生徒が注目する種目で、いつも暗い印象な男が陸上部四人を子供扱いしたとなっちゃ、さすがにそうなるよね。
女の子はキラキラした眼差し、男は嫉妬心を剥き出しにしてる。男も惨めだし、女の子達は掌返しが綺麗過ぎるのが面白過ぎてお腹痛くなってくる。
隣にいる透も同じ気持ちらしい。すんごい震えてる。
「まぁ……ねぇ?」
「あっはははっ……!! 愉快!」
ほんとに愉快だなと思っていると、今おそらくこの学校で一番注目の的になっている男が、髪を解かずに怠そうに歩いてきた。
そして周りの視線が全く気になってない様子で僕を見てからの開口一番の言葉は……
「すまん。蓮の注文聞かなかったわ。飽きたから」
「いやそれはもういいよ。周りの視線気にならないの?」
「別に……興味無い」
「天崎くんてほんと人に興味無いんね」
「だって他人だし」
ものすごい胆力だなと改めて思う。こんなに図太くて精神力も普段は凄まじいくらい強いのに、なんで華奈のことになるとあんなになっちゃうんだろう。
「髪の毛、解かないの?」
「ん? あー……忘れてた」
そう言って悠真はヘアゴムを取って雑に髪を戻した。前髪が一気に目元を隠して、イケオーラに蓋がされた。
「で、次はリレーのアンカーでしょ?」
「まぁ適当に走るわ」
あくびを交えて伸びをしながら、あくまで自然体な感じで悠真は入場門は再び歩いて行った。
そんな背中を眺めてると、横の透といつの間にかいた星來が二人して同じ台詞を口にした。
「いや……」
「なんか雰囲気違う! 誰あれ!?」
「分かる〜」
ほんとにスイッチ入れて運動した後の悠真は、いつもと全く違うなと思った。のと同時に、クラスのみんな含めた学年の全員が、天崎悠真への見方を180度切り替えさせられた瞬間でもあったと思う。