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13 ギャル尋問、開廷

 さてどうするか。俺の机に鎮座する華奈が、こんなクラスのど真ん中の席でとんでもない爆弾発言をしたせいでクラスの全てが凍りついた。約二名凍りつくどころか爆笑してるが。

 

「華奈?ここクラスのど真ん中なんだが」

「……知らない!」


 知らないじゃない本当にどうしてくれるんだ。クラスの男子は全員俺を睨み、クラスの女子はもはや固まってる。

 目の前にいた早乙女は隣の大爆笑中の葛葉を見る事なく俺に普段キラキラしているのに、更にキラキラした目を向けて来た。


「な、なに!? 二人ってもしかして……え!?」

「違う」

「違くない」

「いや違うだろ」


 華奈が頬を膨らませて拗ねてしまう。そのせいで余計に状況がややこしくなっている。華奈が素直に「違う」と言えば終わるはずなのに。

 早乙女は詮索する気満々な様子で、俺と華奈を交互に見ながら詰めて来た。


「さぁてどんな関係なの〜? 『悠真の近くがいいんだもん』なんてセリフは普通の関係じゃありえない言葉だよね〜?」


 そうなんだよ。本当にやってくれたな華奈。

 俺が頑張って意識しないようにしてかつ元クラスメイト以外には知られないようにしてたのに、華奈が爆発してしまっては元も子もない。

 早乙女に真実を話すのも一つの手ではある。しかし早乙女に対してまだそこまで信頼感は無い。ただこの最悪過ぎる状況を切り抜けるには、早乙女一人だけで被害を収めるしか方法がないのも事実。

口の爪楊枝を少し遊ばせた後、覚悟を決めて席を立つ。


「はぁ……早乙女、ちょっと来い」

「はいはーいっ!」


 早乙女を連れて教室から出る。あの場と華奈の対応は全て蓮と葛葉に丸投げする。あの二人なら、迅速かつ丁寧にあの場を収めてくれるはずだ。

 空き教室に入って早乙女を座らせる。鍵もかけて、この場を誰にも見られないようにする。早乙女と二人で空き教室に入ってるところを目撃されたら、まためんどくさいことになるのは目に見えている。


「さてと、今から説明する。ただし蓮と葛葉以外に公言したら分かるな」

「うん! あたしそういうのしない!」

「よし」


 そして早乙女に俺と華奈が付き合ってたことを説明した。今は付き合ってないこともしっかり説明した。したのだが……


「わぁぁぁ……! 華奈っち諦めてないんだ! だからあんなこと言ったの!? ほんとに可愛いなあの女はぁ!」

「あの……」

「ねぇ復縁は!? しないの!?」

「するかアホ。俺から別れ切り出したんだぞ」


 そう言うと早乙女は一瞬ポカンとした表情をした後、絶叫と共に机をバンと叩いて顔を近づけて来た。


「はぁ!? え!? 華奈をフったの!?」

「仕方なかったんだよ……俺よりいい人なんてごまんといるし」

「はぁー天っち分かってない! 分かってないよ天っちは!」


 腰に手を当てて憤慨の様子な華奈が女の子というのはなんたるかを語り始めた。

 それを聞き流しながら、少し考える。華奈が最近何故あんなにも露骨になってきているのか。確かに看病に来た時は俺もかなりしんどかったし、多少素直になっていた。

 それが変な薬になっているのかもしれない。また少し距離を測らないといけないなと再度思った。そうしていないと、現実から目を背けるなと誰かに首を捻じ曲げられてしまいそうだ。


「天っち聞いてる!?」

「聞いてる聞いてる。なんだっけ」

「聞いてないじゃん!」


 なんでこんなにブチギレてるのか分からないが、取り敢えずどうやって宥めるか。取り敢えず適当に交わそう。


「まぁそういうことだ。んじゃ俺は先に戻る」

「待ち。本当にもう好きじゃないの?」


 いきなり核心を突くことを言ってきた。ドアにかけていた手を離して、もう一度早乙女の方に向き直す。さっきとは打って変わってかなり真剣な表情だ。


「さっき天っちはもっといい人がいるって言ったじゃん?」

「ああ。それがどうした」

「そんなん分かんないっしょ。誰にとっても好きな人よりもいい人なんて存在しないよ?」


 その言葉が全身に深く突き刺さった。

 俺にしかダメージが入らないような言葉は、鋭く全身を裂くような痛みを生み出す。鼓動が早くなり、少しだけ息も切れる。運動ですらほぼ息切れしないのに、こういうことになるとどうしてもダメだ。


「華奈は絶対まだ天っち好きだよ。いつも透くんとあたしにたくさん天っちのこと話してくれるんだよ?」

「んなの知らねえし‥‥そもそも好き嫌いじゃ無い。俺が劣りすぎてるんだ。だから並べないんだよ」

「並ぶ意味なんか無いじゃんか! 並ぼうとか並べないとかじゃ無いでしょ恋愛って!」

「……」


 俺は長い前髪で少し見えづらさのある視界で、早乙女の目をしっかりと見る。早乙女が言うことは理解できるし、正論だ。


「早乙女」

「な、なに?」

「それでも……だ。華奈が俺のことを好きでも、俺はもう付き合う気はない」


 そうだ。その方がいいんだ。

 華奈を独り占めするには俺では役不足だ。だから手放すべきだと自分自身で悟った。完治している古傷の膝が軋んでくる。「役不足」ではなく「力不足」ではないでしょうか?役不足だと「俺」にはもっと「華奈」より美人や良い人を捕まえる権利があるように捉えられてしまいます。

 またドアに向き直り扉を開けて、教室から出る。


「んじゃ先戻る」

「まっ……」


 俺がガタンと扉を閉めてこの議論は幕を閉じた。無意味な議論だったと、改めて俺は心の底から思った。

 華奈が俺を好き。俺はもう好きじゃないと表面上はそうしてる以上、今の『友人』がちょうどいい塩梅の距離感だ。

 そう必死に思い込んでいるだけかもしれないが。

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