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10 元カノと水族館デートをするはずだったのに看病される羽目になった

 昨日から熱が引かない。

 熱というのは二つの意味を持っている。一つは、華奈が言い放った俺のことを好きな理由。一年前告白してきた時とほぼ同じ回答をして、俺はしっかりとやられてしまった。あの後結局10分ほどトイレで唸って唸って、忘れようと思い荷物を取りに戻ってすぐ家に帰った。

 もう一つは……


「あちゃーゴールデンウィークなのに39度の熱とは。悠真ついてないな」

「ぁ"〜……あにきはバイトはよ行けよ……」

「俺の心配はいいから自分の身の心配しろアホ」


 昨日から何やら身体の調子が変だと思ったら、がっつり風邪だった。最近あったかい日と少し寒い日の行ったり来たりの変な気候だったせいで、しっかり体調を崩した。

 幸いウイルス性の感染病でも無かったので、寝ていればすぐ治るはずだ。兄貴をバイトに行かせて、家で1人でぐっすり寝る。そんで、ご飯が食べたくなったらお茶漬けでも作る。それでいい。そうしよう。


「とりま俺はバイト行くけど、もしほんとに無理だと思ったら迷わず店に電話しろよ? いいな?」

「わぁったから……」


 兄貴は俺に鍵を念入りに刺してバイトへ向かっていった。熱は久々に出したが、耐えられない訳では無い。そんな兄貴にもう無理だと言うほど辛くも無いのが幸いだ。

 華奈にも熱を出した旨を伝えたが、何故か分からないが「待ってて」とだけLINEが来た。なにやらとても嫌な予感がするのは俺だけだろうか。


「口がむずむずする……兄貴、爪楊枝置いておけよ」


 俺は口に爪楊枝か飴か、なんでもいいから何か入れておかないと落ち着かない。小学生の頃から(兄貴が言うには幼稚園の頃から)ずっとそうで、爪楊枝が我が家には何千本とストックされている。

 もちろん自分の部屋、つまり俺が今寝ている部屋にもあるのだが、多分今起き上がれば目眩と頭痛ですぐにぶっ倒れて床で入眠する羽目になる。

 考えても仕方ない。取り敢えず寝よう。寝れば解決することもあるはずだと思い、目を閉じたその時家のチャイムがピンポーンと鳴った。


「誰だ……? 出れねえぞ」


 今は朝10時半。宅配は頼んでいないので、おそらくは宗教勧誘か何かだろう。スルーしたい……が、2回3回と続けてチャイムを鳴らされて寝るに寝れない。

 仕方が無いと、誰が来ているのかだけ確認するために部屋を出てモニターを確認する。するとそこにいたのは、今日デートする筈だった人が心配そうな顔をして家の前に立っていた。


「あい……」

『あ、悠真? 大丈夫?』

「……なんで来た……」

『大丈夫じゃなさそうだねぇ……開けれる?色々買ってきたから』


 まさかとは思っていたが、こいつほんとに俺の看病に来たのかと言う気持ちが先行し過ぎて何も考えられず、玄関までノソノソと歩きドアを開けた。


「悠真、結構やばそうだね……」

「ん……」

「部屋まで戻れる? 手繋ごうか?」


 いつもなら普通にしっかり拒絶気味に断るはずだが、頭が回っていないのとこのままの状態でもう一度階段を上がると多分ふらついて足を滑らせて転げ落ちるという確信があるせいで、断るに断りきれず……


「頼む‥‥」

「ん! 甘えられて偉い! こういう時は人を頼るの! 悠楽さんとか頼りなよ?」

「いや兄貴は流石に……甘えすぎだしいつも」


 そう言うと華奈はふぅんといった感じで俺の顔を覗き込んで、意地が悪いことをする時みたいな顔で一言とてつもない発言を放り込んできた。


「じゃ、私には甘えれるよね? 甘えてないし普段」

「や、それ以前の問題……」

「甘えられるよね???」


 そもそも付き合ってないだろと言いかけた瞬間に、いつもの華奈からは想像できない圧力で口を塞がれた。というか、塞がざるを得なかった。

 ベッドに再び横になり、華奈が買ってきた冷却シートを額にはっつけられる。さっきまで熱が籠りっぱなしだった身体にはちょうどいい。


「着替えとかできる? 汗かいてるでしょ?」

「着替え……タンスの中だから取って……」

「え"」


 華奈がものすごい声で反応して固まってしまった。甘えろと言うから少しだけ甘えてみようと思っただけなのだが、何だ?タンスの中くらい開けても何も出ない。着替えが入ってるだけで。


「華奈? 俺、着替えたいんだけど……」

「はっ! ご、ごめん! えーと何段目?」

「4段目。薄いのがいい……」


 意識がぼーっとしてくる。思考もまるで纏まらない。ほんとに着替えが4段目かも曖昧になってくる。華奈がタンスの前でまた固まってる。何に緊張してるのかまるで分からない。

 数秒して、勢いよくタンスの棚を引いて服を出すと、すぐに俺に差し出してきた。


「はい悠真! これでいい?」

「……起こして。フラフラする」

「へ?えと……なんで両手を広げるの?」

「はやく……」


 両手を出した意図は単純に、片腕だと少し不安定かもしれないという配慮だ。だから両方の手を出したのだが、どうやら華奈には全く違う意図として伝わってしまったらしい。


「失礼します!」

「は? うぉ……!?」


 急に抱きついてきて、一気に体全体の力で起こされる。フワフワしていた思考が一気に目覚めた。


「も、もうっ! 甘えてとは言ったけど……!」

「いや華奈? 俺、両手掴まれると思って両手出したんだが……」

「……え? は、ハグ待ちじゃないの!?」


 そーいえばこいつ、両手を『出す』じゃなくて『広げる』と言ってたな。どうやら配慮が良く出るどころか、悪い方向に出てしまった。


「ハグ待ちな訳ないだろバカ」

「言うなぁ! 悠真のバカ!」

「バカはお前だ。着替えるから部屋出て頭冷やせ」


 今日で俺は体の状態を元に戻せるのだろうか。華奈という一人の存在のせいで、非常に不安になった午前11時10分だった。

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