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第2話 江戸の町

 輝斗の目の前が一変していた。


 小さい社があるのは同じだ。しかし、周囲が変わってしまっている。コンクリートの建物とアスファルト舗装の道に囲まれた町ではなく、木造の家と未舗装の道の町だ。木と土の匂いが鼻に入ってくる。気温もかなり低くなったように感じた。


(……秋葉原の駅前で、こんな景色はあり得ないはずなんだけど? 誰かいないかな?)


 周りを見回しても、誰も見当たらない。仕方がないので、彼は人を探して歩き始めた。


(長屋かな?)


 狭い道の両側に建っている木造建築。時代劇に出てきそうな造りだ。


 やはり、秋葉原の町にふさわしくない。


「すいかんやー、すいかん」


 前方から男性の声が聞こえてきたので、輝斗は足を速める。


 長屋が両側に並ぶ狭い通りを抜けると、大通りに出た。


「何だよこれ? オレは夢を見ているのか……?」


 先ほどとは広さが違うが、未舗装の道がはるか先まで続いていて、両側には木造の店舗が軒を並べている。道を歩いているのは和服を着た人々で、男女ともに髷を結っている。


 時代劇の撮影所のように思えるが、ここまで大規模なセットがあるなんて聞いたことがない。


「もし、そこの方。どいて下さいまし」


 背中から声がかけられたので、輝斗はゆっくりと振り返った。


 そこにいたのは、薄手の小袖を身につけた女性だった。背丈は一五○センチメートルに届いていないくらいに小柄だが、顔立ちは輝斗と同年代くらいに見える。くっきりとした目鼻立ちで、切れ長でつり目がちな瞳が印象的だ。なかでも最も目を引くのが両の目尻の下、ほぼ左右対称の位置に付いている泣きほくろである。


 思わず見とれてしまった輝斗に、女性は苛立ちまじりの声を出す。


「どいて欲しいのですが?」


 細い道の出入り口を彼の体が塞いでしまっているのだ。


 我に返った輝斗は、謝りながら横によけた。

 

すると、彼女は一礼して早足で大通りに出て行った。


(あの女の子、様子が少し変だったな)


 顔色が青白く、結っていた島田髷も少し崩れていた。何か慌てていたかのような印象を受ける。


 女性の後ろ姿をボーッと眺めていると、今度は道ばたでスイカを切っている男が声をかけてきた。


「そこの変わった着物の兄ぃ、スイカでも食わねえか? 冷えていて美味えぜ」


 先ほどの「すいかんやー」の声と似ている。このスイカ売りのものだったのだろう。


「えと、その、オレ無一文なんで。失礼しました!」


 輝斗は回れ右をして、横道に入った。


(待て待て待て。今の商人さんもそうだったけど、通りを歩いていた人のほとんどがオレよりも背が低かったぞ)


 輝斗の身長は一六五センチメートル。決して高い方ではない。仮に時代劇の撮影所だとしても、役者やエキストラの背丈まで時代に合わせるのは難しいだろう。だとしたら、考えられるのは一つだ。


(俺がタイムスリップしちゃったのか?)


 信じられないことだが、こう考えると全ての辻褄が合う。


 どうしてこんなことが起こったのか全く分からない。とにかく何が何でも現代へ帰る必要がある。


 手がかりがあるとすれば、あの稲荷神社だ。彼は今来た道を急いで戻っていく。


(――えっと、お稲荷さんはどこだっけ?)


 路地は似たような景色が続くので、目的地への道が分からなくなってしまったのだ。一回どこかの角を曲がった記憶はあるのだが。


 少し考えて、右手の道に入ることにした。そんなに長い距離を移動したわけではないのだから、デタラメに歩いてもすぐに稲荷神社にたどり着けるだろうと考えたのだ。


 かろうじて人間一人が歩けるくらいの狭い道である。少し進むと、小さな広場に出た。


(おいおい、こんな時になんて事態に巻き込まれるんだよ)


 そこにはなんと、一人の男性がうつ伏せ状態で倒れていたのだ。


「だ、大丈夫ですか!」


 輝斗は慌てて近付き、男性を抱き起こそうとした。だが、それは叶わなかった。


 突如として、後頭部に強い痛みが襲ってきた。衝撃で輝斗は前のめりに倒れていく。彼の意識は闇に沈んでいってしまった。

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