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第七十五話 謎解きは死闘の後で

「フッ、また会ったね。『白き死を運ぶ爪』事件以来か」


 エドガーは中折れ帽のつばに手をやり、不敵な笑みを浮かべる。

 君もまた「謎」に好かれるタイプの人間か。彼の表情は、そう語るようだった。

 まるで自分が解決したかのような迷探偵の態度に、レオも呆れた様子だ。


「何が『白き死』ですか。まぁ、たしかに強かったですけど……」


「おかげさまで、あのネコは今でもウチで世話してるよ」


「フッ。獣と成り果てた彼に必要なのは、敵ではなく真実の愛だったわけだ」


「獣と成り果てたっていうか、ネコは最初から獣では?」


 レオのツッコミに、エドガーは顔の前で指を振ってみせた。


「チッチッチ、言葉は真実の一端しか示さない。重要なのは、君たちの真実の愛が、彼に〝人を信じる心〟を取り戻させたことさ」


「感動的です~!」


 何となくそれっぽい事をのたまうエドガーの影から、パチパチと拍手しながら、キチっとした身なりの少女が現れた。


 どことなく軍服を思わせる固いシルエットの緑色のワンピースに、黒髪の三つ編みをしているメガネの少女は、メガネの位置をなおしキラリとレンズを光らせた。


「申し遅れました。私はボーエン。エドガー様の助手をしております!」


「この迷探偵に助手なんか必要なのかね?」


「いるんじゃないですか? 日常生活を送ることすら難しそうですし」


 わりと酷いディスりを入れる、シルメリアとレオ。以前、突然現れたエドガーに色々と引っ掻き回されたことを考えれば、彼らの反応も納得だろう。しかし、ハナの反応は彼らと少々異なった。


「わぁ…! 探偵さんなんですね! なら、この遺跡の謎が解けるかもです!」


 キラキラと目を輝かせ、子犬のような笑顔を浮かべたハナは、尊敬と期待感のこもった瞳で「霧歩き」エドガー・ミストウォーカーの立ち姿をみる。


 まんざらでもなかったのか、エドガーはフフン、と鼻を鳴らし、自信に満ちた様子で神殿の奥をぴしりと指さした。


「このエドガー・ミストウォーカーは、すでに霧の向こうの真実を見抜いている。

 ――真実はこの神殿の奥にある!」


「すごい、さすが迷探偵さんです!! 神殿の謎をまるっとお見通しです!」


「そうです、先生はすごいんですから!」


「あんまり信用しないほうがいいと思うけどなぁ…」


「ここに無いんだ。言われなくてもそうだろうさ」


 レオ一行(ハナは除く)に、うさん臭いものを見るような目を向けられたエドガーだったが、まるで気にする素振りを見せない。


 柱から離れたエドガーは、神殿の石床にコツコツと革靴の乾いた音を響かせて、背筋を伸ばし、何もはまっていない台座を通り過ぎて、颯爽と廃墟(はいきょ)の奥に向かった。見た目だけは名探偵だ。


「さてボーエン君、神殿の奥に向かうぞ」


「はい、先生!」


「大丈夫かなぁ……」


「確実に駄目だろうね。かといって見捨てるのもなんだかね」


「とはいえ、これは好都合です」


「え?」


「レオ先生、先ほど、エンリコさんがおっしゃったことを覚えておいでですか?」


「えーっと……あ、『聖水は神殿の泉からわずかに湧き出る』だっけ? もしかしてこの廃墟にも、それがあるってこと?」


「はい。仕掛けがあることから察するに、この神殿に何らかの報酬が用意されていることは明白です。しかし――報酬があるということは、それなりの〝障害〟も設定されていることでしょう」


「障害……敵とか、罠か。」


「はい。ノーマンズランドに到着したばかりの我々の装備では、それら脅威に対する対処は困難。ですが、迷探偵が進んで罠にかかってくれるなら、それに越したことはありません」


「ねぇねぇ、霜華ちゃんって、なんかエドガーさんに当たり強くない?」


「流石にゲスくないかね?」


「うーん……。ぶっちゃけ、霜華の判断は正しいと思うし、エドガーだけなら見捨ててもいいけど……。つき合わされる助手さんがかわいそうだ。後を追うぞ」


「ですです!! ここはみんなで頑張るです!!」


 一行はエドガーと助手の姿を追って遺跡の奥に向かった。すると、エドガーと助手は、とある大理石の壁の前で立ち止まっていた。


 助手はどこから取り出したのか、白木の松明を掲げて壁を照らしている。エドガーはというと、コートの前で腕を組み、壁を見上げている。


 彼らの目の前にある壁には、原始的な染料を使って色彩豊かな壁画が描かれている。壁画のモチーフは、海、森、そして草原だろうか。しかし、壁画が描かれた壁には大河のように大きな亀裂が広がり、絵の大部分が壁から剥げ落ちてしまっていた。


「これは……壁画みたいですね。台座のパズルと関係あるのかな?」


「ふむ――鍛冶屋くん、これを見たまえ」


「えっ?」


 エドガーが指さした先を見たレオは、反射的に飛びのいた。


「わっ、骸骨(がいこつ)!」


 そこには、壁により掛かるようにして倒れた骸骨があった。骸骨は手に何かの道具を持っており、その傍らには、ぺちゃんこになった革袋がある。すでに誰かの手で袋の中身を盗まれたのだろう。


「骸骨が手に持ってるのは……なんだこれ、彫刻刀か?」


 骸骨の手には、長方形の刃先を持った道具が握られていた。みようによっては、錆びた彫刻刀にも見えるが、大きさはそれよりずっと大きく物騒な見た目をしている。

とはいえ、完全に錆びてしまった今は、武器はおろか道具としても使えなさそうだ。


 シルメリアがレオの横に立ち、屈んで骸骨を覗き込む。


「これ、石を削り取るノミみたいだね。」


「……ふぅん、てことは、その人はこれを削り取ったのか」


 結衣が、壁画の下の方、リボンのように広がる羊皮紙の図案を指し示す。

 そこには、「海はやがて風になり、―となって――に降り注ぎ、我らに恵みを与えん」と、一部分が削り落とされた文章が描きこまれていた。


「どうやら、これが台座のヒントじゃないかね?」


「なるほど、それっぽいですね!」


 レオがシルメリアのアイデアに同意すると、彼らの背後にいた迷探偵がパチンと指を弾いた。


「ふむ、ボーエン君、例のものを並べてみたまえ」


「はい! エドガー様!」


 エドガーがそういって指示すると、少女が長方形をした石のタブレットを壁画前の床に並べ始めた。それぞれのタブレットには、抽象的な図案がレリーフとして書き込まれていた。


1つめ、3つ縦にならんだ波線図案。

2つめ、涙のような雫の形の図案。

3つめ、渦巻きの図案。

4つめ、郵便番号のような、Tの上に横線が並んだ図案。


「お! これ、さっきあった神殿の台座にはめるんじゃないですか?」


「台座の穴は2つ。このうち2つが正解で、あとの2つは不正解ってとこだろうね。順番も関係するなら……霜華、総当たりであたりを引く確立は?」


「順番が関係しない場合は6通りですが、シルメリアさんが仰るように、順番が関係する場合は12通り。確立にして16%ほどですね」


「運頼りは期待できないか。まともに解くしか無さそうだ」


 エドガーは、壁画と石板を交互に見ていたかと思うと、突然パチンと指を鳴らし、自信満々の様子で一行に振り返った。


「ふむ、ボーエン君! 真実は霧の向こうに隠れているものだ。だが、このエドガー・ミストウォーカーは、すでにその輪郭を掴んだ!」


「さすが先生! もうお分かりに?!」


「真実の鍵は……これだ!」


 エドガーはコートの裾を翻し、ボーエンが並べていた石のタブレットの中から、渦巻き図案と波線図案の二つを手に取った。


「エドガーさん! なんでその2つが答えなんですか?」


 ハナがキラキラした目で尋ねると、エドガーは不敵な笑みを浮かべた。


「削り取られた文章は、正解のタブレットを指し示すものだ。すなわち、『海はやがて風になり、〝台風〟となって〝川〟に降り注ぎ、我らに恵みを与えん』だ!」


「なるほど!!」


 ボーエンが目を輝かせ、尊敬の眼差しでエドガーを見つめる。一方、レオとシルメリアは半信半疑の表情を浮かべ、霜華はことさら冷ややかな反応を返した。


「どうせハッタリです。いつも通り、適当にそれっぽいこと言ってるだけです」


「うーん。〝川〟だと削り取られた幅に合わないような。なんか嫌な予感が……」


 だが、自称名探偵は衆愚の意見などに惑わされはしない。彼は足取りも確かに神殿の入口近くにある台座へと歩を進めた。石床を踏みしめる革靴の音だけが、静かな廃墟に響き、支配する。まるで、彼が主人公であるかのように。


「霧の奥の真実暴く! エドガァァァァ、ミストウォーカーァッ!!!」


 そう叫ぶと、彼は迷いなく二つのタブレットを台座の穴にガチリとはめた。


 一瞬、静寂が神殿を包む。レオたちは息を呑んで台座を見つめる。すると、ゴゴゴ、という重々しい音とともに、台座の奥の壁がゆっくりと横にスライドし、隠し扉が現れた。


「うおっ、開いた!!」


「すっごーい!! さすが名探偵さん!!」


 レオが驚きの声を上げ、ハナは手を叩いて大喜びだ。ボーエンは「先生、素晴らしいです!」と拍手を送るが、シルメリアと結衣、とりわけ霜華は冷ややかで、まるでチベットスナギツネのような、一切の感情が感じ取れない虚無のこもった視線を送っていた。


「驚いた。アイツが正解ひくこともあるんだね」


「そうですね。確立は低いですが、0%ではありませんでしたし」


「私の前にして、謎はその姿を隠し続けることはできない。見たまえ!」


 エドガーが得意げに胸を張って指さしたその先、隠し扉の奥の闇からカタカタというなにか乾いたものが触れ合うような、不気味な音が響き始めた。


「……んん? なんだ、この音?」


 レオが眉をひそめ、真っ暗な通路の奥に視線を凝らす。次の瞬間、骨が擦れ合う音とともに、青白い燐光を放つスケルトンが姿を現した。


「ぎぇ?!」


「ほら、やっぱりこうなりました。」


 霜華がやれやれといった風で手を広げる。やはり迷探偵は迷探偵だった。


 双眸に青い光をともしたスケルトンは、錆びた直剣を手に、ぎこちない動きで一行に向かってくる。シルメリアは槍――といっても白木を尖らせただけの棒を低く構え、探偵を信頼した後悔を吐き出すように嘆息した。


「謎解きは死闘の後で、ってことかね?」


 スケルトンはシルメリアのボヤキに、カラカラという骨の音で答え、手にした武器を振りかぶった。



www リロイ・ジェンキンスみたいなやっちゃな…。


あ、唐突にRimWorldの中世プレイをしたくなったのでRimWorld再開したんですが、中世系の装備で良いのがなかったんで装備MODを自作中です。Tasty Armoryはクオリティ高いんですけど、Medieval overhaul にあった兜飾りのついたグレートヘルムみたいな、装飾のついた装備がないので、グリフォンに乗った騎士用に金飾りのついたゴテゴテしたプレートアーマーを作ることにしました。オブリビオン以来のMOD製作ですが、やっぱり自分で作ったものがゲームで動くのは超楽しいですね。

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