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第五十九話 天を落とせ!(2)

『破天が誘いに乗った! あとはコイツを甲板まで持っていくだけだ!』


『レオ先生、ルートを更新します!』


 霜華の声がレオの頭の中で響き、通路に重なった光の筋が向きを変える。


 濃密な霧に満ちた通路に立った崩槌が(きびす)を返す。


 レオが自身の足に力を込めるイメージをすると、崩槌の内蔵モーターが唸りを上げ、彼の体をより強い勢いをもって前に進めた。


『よし、こっちだ!』


 エンジンルームに続く通路は、2体の巨人が衝突したことによってボロボロになっていた。通路の壁は破天のプラズマカッターで切り裂かれ、溶けた鋼鉄が赤熱した傷跡を残している。鋼鉄のパネルもひしゃげて曲がり、無事なものは一枚もない。


 崩槌の足が水たまりを弾く。

 天井から滴り落ちるスプリンクラーの残水が作ったものだ。


 その背後、暗闇の中破砕音が響く。破天のカニのような腕が通路の壁を広げながら、暗闇から迫っていた。


『しっかりついてこいよ! 俺に言われなくともその気だろうけど!』


 霜華のアシストによる光の線が、レオを先へと導く。

 すると、通路の突き当たりに、巨大な搬入用リフトが現れた。


 鯤鵬の中に資材を運び込むのに使っているのだろう。

 リフトの上には6輪を履いた2tトラックがそのまま残されていた。


『これか!』


 床を蹴り、レオは崩槌の体をリフトの上に乗せた。錆びついた手すりを弾き飛ばし、崩槌の起こす振動でトラックが大きく左右に揺すられる。


 レオはリフトの上の制御パネルに飛びつくと、大きな起動レバーを前に倒した。


『ホラー映画じゃないんだ、一発で動いてくれよ……よし!』


 レバーが入ると、ガコン、と重い音を立ててゆっくりとリフトが動き出す。

 すると、破天の巨体が通路の角から姿を現した。


 破天は体を起こし、前足をリフトの端に引っ掛ける。

 巨体がしがみついた重みで基部がきしみ、何かが曲がる嫌な音が聞こえてきた。


 破天は鋼の悲鳴にも構わず、リフトによじ登ろうとしてくる。

 レオはとっさにショックウェーブを放ち、破天の巨体を押し出した。


『定員オーバーだ! 次を待つんだな!』


 破天が無防備だったのが幸いした。リフトに登ろうと前足を使ったことで、破天はレオの動きに反撃できなかった。衝撃波を受けた破天はバランスを崩し、リフトの下に落ちてひっくり返って腹を上にした。


<ドガッシャァン!!>


『おっと、腹が冷えると体に悪いぞ! 布団をかけてやる。――鋼鉄製だけどな!』


 そういってレオはリフトの上に残っていたトラックを引きずり落とした。

 義体の圧倒的膂力をもってすれば、これくらい造作もない。


 破天の腹めがけ、運転席を下にしたトラックが真っ逆さまに落ちていく。衝撃音とともにガラスの破片と運転席両側のドアが飛び散った。リフトが軋みながら上昇を始め、破天の咆哮が遠ざかっていった。


『ふぅ。時間稼ぎにはなった……かな?』


『ですね。ですがレオ先生、ブラックボックスに反応した破天は、必ず追いかけてきます。撃破まで気を抜かないでください』


『あぁ。そっちの様子はどうだ?』


『バッチリです。コンデンサを接続し、レールの上に発射体として輸送コンテナを設置しました。あとは破天を誘い込むだけです。』


『さすがだな。これで終わりにしよう』


『はい、レオ先生!』


 レオがリフトの上を見上げると、四角く切り取られたような青空が、次第に大きくなっていく様子が見えた。


 リフトが甲板に到着すると、異様な光景が広がっていた。海風が吹き抜ける甲板の上には、所狭しとソーラーパネルが設置され、陽光を反射して輝いている。足元でのたうつ大蛇のようなケーブルといい、船の上というよりは発電所のようだ。


 元黒軍の義体はここにも現れたようで、青色のソーラーパネルの上に、白い義体がよりかかっているのがちらほら見えた。戦闘の余波でいくつかのパネルが破損し、割れたガラス片やパネル内部のセルが甲板に散乱していた。


 まるで畑の作物のように並ぶソーラーパネルの遠くでは、電磁カタパルトのレールが陸橋のように立ち上がり、黒々としたシルエットを浮かべている。


 リフトから飛び出したレオは、ソーラーパネルを跳ね飛ばしながらカタパルトを目指した。くすんだパネルがガシャンと砕け、ガラス片が宙を舞う。


 ――だが、崩槌の立てる音とは別に、金属の砕ける音が甲板に響いた。


 レオが振り返ると、リフトが真っ二つに破壊され、中央から破天の巨体が甲板に躍り出た。破天は4本の足の先からブースターを吹かし、平たい円盤状の巨体を回転させながら空を飛んでいた。


『げっ! まるでカメの怪獣だな……!』


 くるくるとネズミ花火のように回転する破天が甲板の上に降り立つ。ソーラーパメルの上に破壊の軌跡を残しながら着地した破天は、足を伸ばして立ち上がった。


『今すぐカタパルトを撃てるか?!』


『ああ、こっちにきな!』


 通信にシルメリアの険しい声が飛び込む。


 レオは甲板を疾走し、カタパルトのレールを目指すが、破天も追いすがる。プラズマカッターで甲板の上の障害物を片っ端から切り裂きながら、黒い巨体がレオの背中を追いかけてくる。


『ひぃぃ!?』


 レオがレールの横までたどりつくと、大きな輸送コンテナがレールの上に固定されていた。コンテナはレールの上にあるソリのようなパーツの上に乗っている。


 霜華とシルメリアはレールの基部で制御盤を操作している。彼女たちの義体は、ほぼ人間と同じ体格だ。このコンテナを動かすだけでも一苦労だったろう。


「レオ先生! 破天をレールの上に!」


『わかってる! うぉぉっ!!』


 破天がプラズマカッターを突き出し、レオはとっさに横に跳ぶ。カタパルトのレールの上をかすめた光刃が光の塵を散らす。


(なんとかコイツをレールの正面に誘導しないと……!)


 レオはブラックボックスを掲げ、レールの向こうに飛ぶ。

 すると破天が彼を追い、レールの上にのしかかった。


「今です!」


 霜華が制御盤のスイッチを押すと、電磁カタパルトが唸りを上げる。

 レール全体に青い光が奔り、熱で空気が揺らぐ。

 圧倒的なエネルギーが放出される瞬間は、空間そのものが歪むようだった。


 コンテナが秒速200メートルで射出。

 10トンの鋼鉄塊が破天に直撃――するはずだった。


 破天は進路上に両手を向け、プラズマカッターを突き出した。

 光の刃は弾体として射出されたコンテナを加速とプラズマの熱で形を保てなくなり、崩れ落ちてしまった。溶けた鋼鉄が甲板に飛び散り、コンテナだったものがソーラーパネルの上で炎を上げた。


『マジかよ!?』


「クソッ! 霜華、次だよ!」


 シルメリアが叫ぶが、霜華が首を振る。


「ダメです! 次の射出体を用意する時間がありません!」


 レオが崩槌の頭を回し、周囲を見回す。

 甲板の上にはソーラーパネルとその破片、または小さな資材しかない。


 10トン級の射出体は見当たらない。

 破天が再びプラズマカッターを構え、レオに迫る。


『くそっ、どうすりゃ……!』


 その瞬間、レオの頭にあるアイデアが閃いた。


(そうだ、崩槌はどうだ? 頑丈な装甲をしてるし、重量だって十分にある!)


 レオはカラカラと音を立てて戻って来るレールの上のソリに視線を送る。

 ソリは艦載機を乗せるだけあって結構なサイズをしている。

 崩槌の体は十分収まりそうだ。

 

『俺がやる! 崩槌をレールに乗せる!』


「はぁ!? レオ、それは――」


 無茶だというシルメリアの言葉を遮り、レオはレールの上のソリに飛び乗った。

 義体の装甲がレールにガコンと嵌まり、射出スロットに固定される。


 ブラックボックスを追う破天がレールの正面、レオに向き直るように立つ。

 絶好のチャンスだ。


『霜華、今だ!!!』


 霜華が一瞬躊躇するが、すぐに制御盤のスイッチを叩く。電磁カタパルトが再び唸り、崩槌が秒速200メートルで射出するための荷電を開始する。


 この一瞬を狙って、レオはブラックボックスを真上に投げた。

 すると破天が反応し、プラズマカッターを上に向ける。


『――よし、かかった!』


 ソリの上でレオが力強く叫んだ。

 彼はリフトで破天と戦った時、その弱点に気づいていた。


 破天がリフトに乗り上げようと上をむいた時、破天は崩槌のショックウェーブにまるで反応できなかった。そしてその後、腹を見せた破天がレオにトラックを投げつけられた時も、プラズマカッターを使って反撃することをしなかった。


 破天の下方は完全にプラズマカッターの死角になっているのだ。


 電磁カタパルトが青白い光に満たされ、力が開放される。

 瞬間、弾丸となって打ち出された崩槌がレール上の破天に直撃した。


<ズガァァァァァッ!!!>


 衝撃波が甲板を揺らし、破天の装甲が崩槌と共に粉々に砕け散った。噴水のような火花を散らしながら、破天の黒い巨体がゆっくりとレールに倒れ込んだ。


 甲板に静寂が戻る。


 崩槌の義体は衝突でバラバラになり、頭部だけが甲板に転がる。

 しかし、レオの意識は辛うじて頭部の義脳に残っていた。


『……ハハ、なんとか上手く……いった、かな?』


 霜華が駆け寄り、レオの頭部をそっと持ち上げて小さな胸に抱えた。

 彼女の白い義体の指が優しくレオの頭を支える。


「レオ先生、ご無事でなによりです」


「ったく、無茶をさせたのはこっちだけど、ここまでするかね……」


 シルメリアが肩をすくめながら近づく。

 彼女は苦労をねぎらうように、崩槌の頭殻をぽんぽんとたたく。


 霜華に抱えられたレオの視界に、海の景色が広がる。波に反射する太陽の光がギラギラとした輝きを放ち、造り物の目を通してでもひどく眩しく感じられた。


 誰も声を上げず、じっと立ち尽くしていた。

 だが、その静寂を破るように、甲板に新たな足音が響く。

 現れたのは白衣をまとった年かさの男――

 霜華たち義脳の開発者、リュウキ博士だった。




もうちょっとだけ、続くんじゃ!

(更新が安定しないのは、大体オブリビオンリマスター発売のせいです

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