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第五十五話 信じて

先日発表されたオブリビオンリメイクに脳を破壊された作者です。

今からプレイするので今回は短め(5600字)です

 炎は収まったが、白い煙が立ち込めたまま消えない。

 艦内の換気が良くないせいだろう。


(よし……!)


 煙の中、レオの操作する崩槌がゆっくりと通路に踏み出した。


 視界は煙で真っ白だが、とくに問題はない。煙の奥にある物体をセンサーが捉え、その輪郭をハイライトさせる。


 レオは床に散乱する鉄やプラスチックの残骸を巨体で押しのけ、ハンマーのような足で踏み潰す。花が咲くように広がった残骸のひしゃげる音が艦内に響いた。


「部屋を抜けたぞ。次はどこに行けばいい、霜華?」


 機械的な反響を帯びたレオの声が煙の中を探すと、ビスクドールのような白無垢の義体になった霜華が軽やかに飛び、彼の背中に乗った。深緑色の巨体の上に乗った霜華は、タブレットを操作しながら答える。


「サーバールームまでの経路をお二人の視界に投影します。どうですか?」


 視界に乗ったオレンジ色の構造図に、輝く光の筋が走る。光の筋は通路を複雑に曲がりくねり、巨大な物体が円環状に並んでいる空間を終点にしていた。


『ストーンヘンジみたいだな。これがサーバールーム?』


「はい。距離にして500メートルほどですが、激しい抵抗が予想されます。気をつけてください」


「500メートル?! どんだけデカい船なんだい……」


『このサイズになると、船っていうよりか街ですね』


「実際、往時の鯤鵬は街のような機能をもっていたようです。最大で8000人の乗員を収容できる底部居住区には食料品店を始めとして、ジムやゲームセンターといったアミューズメント施設まで揃っていました。テレビ局まであったそうですよ」


『まったく、よくやるよ……』


 天井から垂れ下がったケーブルをくぐりながら、光の導きに従ってレオは通路を進む。狭い通路は、崩槌の巨体を通すのがやっとと言った感じだった。


 役目のわからない錆びたパイプとケーブルが壁を這い、通路は混沌としている。

 実際、把握されているのかも怪しい。

 されていれば、ここまでボロボロになっていないだろう。


 けたたましい警報音が鳴り響くなか、赤い警告灯が点滅する。

 警告灯はそのいくつかが止まり、まちまちの間隔で通路で点滅していた。


 すると、ガコン! という重い金属音とともに、レオの目の前で鋼鉄製の隔壁が閉まる。振り返ると、後ろでも隔壁が動いて通路を塞ごうとしていた。


『ゲッ、前と後を塞がれたぞ!』


「レオ、上だよ!」


『……上? ぎょわっ!?』


 シルメリアに言われて天井をみると、短銃身のガトリングガンを装備したタレットが天井から降りてきていた。銃身はすでに回転を始め、レオたちを捕捉している。


『クソッ、艦内ステージでありがちなやつ!!』


「早速、派手なクラッカーでお出迎えと来たね!!」


 レオが大きな腕を前にかざし、崩槌の巨体を盾とした。

 タレットから放たれた無数の弾丸が崩槌の装甲を叩き、火花が散る。

 しかし、複合セラミック装甲はびくともしない。


 レオにあたって跳ね返った弾が壁のパイプに当たり、穴から蒸気が吹き出す。

 跳弾で何かの設備が吹き飛び、金属の破片が床に散らばりまくる。


 後ろに回っていたシルメリアは、EXOアームで壁から外れたパイプの一つを掴み上げると、槍投げの要領でタレットに投げつける。


 義体の膂力で質量兵器となった鉄パイプは、見事にタレットの基部に突き刺さり、根本から機銃をもぎ取った。


「よし、まずは一個目!」


 シルメリアが義体の細く白い腕でガッツポーズをすると、今度は左右の壁からタレットがにょっきりと顔を出して来た。


 2つ、いや、4つのタレットが壁からレオたちを狙う。


「なんだい、一個潰したら倍以上でてきたね」


『お代わり早ッ?!』


 銃身が回転を始め、ガトリングガンが火を吹く。


 ――が、放たれた銃弾が撃ち抜いたのはレオの装甲ではなく、タレット同士だった。仲間であるはずのタレットにガトリングガンが向けられ、無数の銃弾が壁に突き刺さって爆発する。


 薬莢と破片が飛び散るなか、シルメリアは肘を曲げて両手を上げた。


「おやおや、こいつら思ったより仲が悪かったのかね?」


『連中が職場の人間関係に悩むとは思えませんね』


「霜華がハッキングしたのかい?」


「いえ、これは……私ではありません。結衣さんですね」


「結衣が?」


 霜華の反応にシルメリアが首を傾げたその瞬間、レオとシルメリアの頭の中にひょうきんな結衣の声が響いた。


『はいはーい! 私! 私がやりました!』


「結衣、いったいどうやってここに?!」


『ハート・オブ・フロンティアの演算領域に間借りして処理を飛ばしてるの。みんなが戦ってるのに、待ってるだけってつまんないじゃん?』


「……ったく、脳を焼かれる前に帰るんだよ」


『はいはい、わかってるって! シルは心配性なんだから!』


 ひとまずタレットは結衣の機転ですべて破壊された。

 しかし、通路を塞ぐ隔壁はそのままだ。


 レオが足を進め、分厚い隔壁の前に立つ。

 すると突然、チュートリアルが浮かんできて彼の視界を遮った。


『うわっ、いきなり何か出てきた……』


 チュートリアルとして出てきたのは、絵による説明だった。絵は義体の前腕に備わる「お弁当箱」型の追加装甲を、互いに触れ合わせるようにしろと指示していた。


 チュートリアル画面を見たレオは、中世の騎士を思わせる義体の頭を傾げる。

 説明はわかるが、それでどうなるかが描いていない。


「うーん? こうしろってことか?」


 チュートリアルの指示通り、レオが腕を重ね合わせる。

 すると装甲がカチリと合わさり、細かい振動と共にエネルギーが充填されるような甲高い唸りが通路を満たした。


「レオ先生、慎重に! それは――」


 霜華が警告するが、遅かった。


 次の瞬間、崩槌の腕から青白いショックウェーブが放たれ、前方を襲う。衝撃波はタレットの残骸を文字通り根こそぎ粉砕し、隔壁に亀裂を走らせた。


<ドゴォォォォォッ!!!>


 見えない力が通路を押し通り、鋼鉄の壁を歪ませ、通路を膨らませる。


 その余波でパイプが破裂して蒸気が噴き出し、天井からワイヤーやケーブルが内蔵のように飛び出し、火花を吹いた。


「うおっ!! なんだこのバカみたいな威力!?」


 レオが興奮気味に叫ぶなか、霜華が冷静に説明する。


「崩槌は戦闘工兵用義体です。そのため、地雷やバリケードといった、戦場の障害物を破壊する機能が搭載されています。レオ先生が放った衝撃波は、地面に埋められた地雷やセンサー類を破壊するための機能です」


『つまり、邪魔なものは全部吹き飛ばせるってわけか』


「はい。ショックウェーブの射程は短いですが、効果は見ての通りです」


「いいじゃないか。これならサクッと目的の場所まで進めそうだね」


 ショックウェーブを受けた隔壁は、半端に開いた状態で傾いている。

 レオは握り込んだ拳を叩き込み、邪魔な鋼板を押しのける。


 すると、それに反応したかのように冷たいアナウンスが艦内に響いた。


『セキュリティレベル、乙級へ移行。警備用兵装に加え、自律兵器を展開します。交戦規定、ウェポンズフリー。強力兵器の無制限使用を許可します。また、乙級移行に伴い免責条項が発動。現時刻をもって、巻き添え被害保証が無効化されました。乗組員の皆様はご注意ください。』


『なんだそれ! ハトフロ運営もそこまで無責任じゃないぞ!』


「レオ先生、セキュリティレベルが最大の甲級に上る前に急ぎましょう。」


「甲級にあがるとどうなるんだい? 戦闘機でも飛んでくるのかい?」


「その可能性もありますが、より可能性が高いのは自爆ですね。最上位のセキュリティレベルに達すると、自爆が選択可能になります」


『げっ!』


「証拠隠滅のため、鯤鵬そのものを消し去る可能性がある、か」


「はい。その前にサーバーに到達し、鯤鵬のコントロールを奪います」


『ならぼっとしてる場合じゃないな。2人とも、俺に乗れ!』


 レオはシルメリアと霜華を背中に乗せ、猛然と通路を走った。

 義体の足の底が鋼鉄の床を叩き、へこませる重い足音が艦内に反響する。


 霜華の手によって、レオの視界にはオレンジ色の構造図が重なっている。眼の前でオレンジ色のポリゴンの板が動き、現実でもその動きに応じて隔壁が閉まる。


 しかし、レオの足の勢いは止まらない。ショックウェーブを放って隔壁の動きを止めると、ハンマーのように腕を振って、鋼鉄の板を殴り飛ばした。


 まるでダンボールか何かのように重厚な鋼板が吹っ飛んでいく。すると、鋼板が落ちた通路の奥から、キャタピラの軋む音と金属の擦れる音が近づいてきた。


 姿を現したのは、大型犬ほどの大きさの小型戦車と、人間大の大きさのカマキリ型ロボットだった。戦車は背負った砲塔をレオに向け、カマキリは腕の鋭いブレードを振りながら飛びかかってくる。


『うわっ、キモいのが来た!』


 レオが腕を合わせ、再度ショックウェーブを放とうとする。

 ――が、駆動音がしない。どうやら連続では使用できないようだ。


『クソ! それなら!』


 レオがカマキリを狙って義体の腕を振る。が、カマキリ型のロボットは4つの足を軽やかに動かし、卓越したフットワークでレオの単調な攻撃を回避した。


 そのスキに小型戦車が砲撃を放ち、砲弾は崩槌の胸のあたりを直撃する。

 小口径ゆえ貫通こそしなかったが、着弾の衝撃に巨体が苦しげにたたらを踏んだ。


『ぐぇっ!』


 見かねたシルメリアがレオから飛び降り、カマキリ型に突進した。

 金属音を響かせながら、カマキリのブレードとEXOアームが交錯する。


「レオ、ぼさっとしてるんじゃないよ!」


 シルメリアが貫手を放ってカマキリ型の腕からブレードを奪う。

 彼女の背後のEXOアームが前に回り、ブレードを逆手に持ってカマキリの胴体を切り裂いた。金属を削れて火花が散り、ロボットが崩れ落ちる。


『こんにゃろ!』


 前衛を失い、無防備になった小型戦車をレオは義体の足で踏み潰した。

 いくら戦車とはいえ、圧倒的な体重差には敵わなかったようだ。


『霜華、 このままじゃキリがない! 何かいい作戦はないか?!」


 霜華がタブレットを操作し、レオの視界に新たなルートを投影する。


「確かにこのままでは時間がかかりすぎます。ショートカットを提案します。昇降塔を下りれば、サーバールームに直行できます」


『下りるって……どれくらいの高さだ?』


「約100メートルほどですが、崩槌の装甲なら耐えられるはずです」


『ひゃ、100メートル!?』


「レオ、迷ってるヒマはなさそうだよ」


 通路の奥から何か巨大な物が動く、重い足音が聞こえてくる。

 レオが暗闇の中を見据えると、横一文字の赤い眼光が揺らめいているのが見えた。


「……なんだありゃ」


 姿を現したのは、黒い装甲に覆われた、崩槌よりもさらに一回り大きいロボットだった。ロボットはひらべったい饅頭型のボディから4つの足を伸ばし、胴体のおそらく顔に当たる部分には横一文字の光る目がついていた。


 一見、武装はない。だが、それがかえって不気味に感じられた。


『なんだあのバケモン!?』


「不味いですね。あれは、破天――

 膠着した戦線の突破を目的とした攻撃用の義体です!」


「ってことは、レオの使ってる崩槌とちがって、コイツは戦いが本職ってことかい」


『ちょ、霜華! なんでそんな義体を野放しにしてたんだよ!!』


「いえ、けっして野放しにしたわけでは……。博士の情報によると、破天の開発状況は〝未完成〟だったはず。それがどうして……」


「ヤツが動くよ!」


『――なら、先手必勝ッ!!』


 レオは背負ったコンテナをすべて開き、3つのミサイルを発射した。

 丸太のような灰色のミサイルが、通路に佇む破天にめがけて飛翔する。


『喰らえ!』


 破天の眼が真っ赤に輝く。破天が黒色の装甲に包まれた片手を持ち上げると、光が一閃し、通路が爆炎に包まれる。光は炎を貫き、鋼鉄の壁を溶断する。切断面はチーズのようにとろけ、オレンジ色の炎を上げていた。


 シルメリアがブレードアームを振り、霜華を庇う。


「プラズマカッターでミサイルを迎撃したようですね」


『ならもう一回……! あれ?』


 レオは膝を折って背中のコンテナを破天に向ける。

 が、何も起きない。


「レオ先生、コンテナはすでに空です。ミサイルは撃ち尽くしました。」


『げげ、もうおしまいかよ!』


「あのミサイルは自衛用です。崩槌はあくまでも工兵。戦闘用ではないので……」


「なら、とっとと逃げるよ!!」


『賛成!』


「レオ先生、ルートを更新します、昇降塔はすぐそこです!」


 レオはシルメリアと霜華を手に腰掛けさせ、踵を返した。追いすがる破天を無視し、視界に重なって表示されるオレンジ色のルートをたどって必死に足を動かす。


『ぬぉぉぉ!!!』


 破天がレオの背後からレーザーを放つ。閃光が前方の天井に当たり、オレンジ色の軌跡を残す。梁が焼き切られ、支えを失ったことで、上階にあった物がボトボトとレオの頭上に落ちてくる。


『自分の家でもお構いなしか!』


 崩れゆく通路の破片が崩槌の深緑色の装甲を叩き、塗装を剥がす。

 かまわずレオが前に進むと、視界に重なるオレンジ色の輝きが強くなってきた。


『――!!』


 通路の縁に立つレオの眼下に、100メートルの奈落が眼下に広がっていた。

 巨大な立坑の中央に昇降塔が屹立し、塔を支えるように壁から橋が伸びている。


 上空から差し込む光は底に近づくにつれて弱くなり、底の方は完全な暗闇だ。

 オレンジ色の構造図だけが暗黒の中に浮かんでいた。


『思ったより、高いな……これを飛び降りるのか?』


「はい。座標を表示します。それに向かって飛んでください」


 レオの視界の端から線が伸び、四角いターゲット表示に結ばれる。

 霜華の座標指定は、昇降塔を支える橋が重なる箇所を狙っているようだ。


『……これ、本当に大丈夫なのか』


「――信じて、としか言えません」


「くそっ、こうなったらやるしかねえ! 行くぞ、みんな!」


 破天の足音が迫るなか、レオは意を決して空中に飛んだ。




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