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幕間 トレジャーハント(1)


 レオの鍛冶屋は、ブリトン郊外の平原にぽつんと佇んでいた。


 石造りの小さな2階建ての店は素材を活かした砂岩色だ。


 おとなしいアースカラーが平原の緑に馴染み、まるで最初からそこにあったかのような印象を見るものに与える。


 ――が、すこし視界を広げてみると、具合が変わる。


 こじんまりとした店の周囲はトゲトゲしいシルエットをした漆黒の要塞に囲まれており、まるで黒装束のギャングにナイフを突きつけられているような雰囲気だった。


 こうなってくると、風に梢が揺れる音も別のものに聞こえる。

 なんとも不穏な静けさが辺りを包みこんでいた。


 レオは作業場に座り、ぼんやりと炉の炎を見つめていた。

 ここに店を建ててからというもの、毎日のように何かしらの事件がおきる。

 しかし、珍しく今日は平穏そのものだった。


 消耗品の素材を調達するときでさえ、PKはおろか、BOTにも出会わなかった。


 まるで、この世界に自分しかいないような――

 今日のレオは、そんな平穏な孤独を味わっていたのだ。


 彼は分厚い耐熱グローブを手にはめなおし、ハンマーを握り込む。


「ふぅ……今日は静かに鍛冶に集中できそうだ」


「よぉレオ! 鬼のように儲けたくないか!?」


「ですよねー!!!」


 店の扉がバーンと勢いよく開き、メイランの胴間声が響き渡った。

 レオが作業場から玄関をのぞくと、そこには巨漢のメイランが仁王立ちしていた。


 彼は近未来的なパワードスーツに身を包み、まるで動く鉄の城塞のような威風を放っている。手元の魔術書の放つ赤い光もあって、アメコミヒーローのようだった。


「突然なんですか、メイランさん?」


「うむ! トレジャーハントだ!」


「トレジャーハントって……宝箱を掘り出す、あのトレジャーハント?」


 レオは首をかしげつつ、メイランの言葉を繰り返す。

 思い返せば確かに。

 ハートオブフロンティア(HOF)には、そんなシステムもあった。


 HOFのモンスターは、低確率で宝の地図をドロップする。


 宝の地図にはワールドのいずれかの場所がマークされており、そこをスコップで掘ると、ゴールドやマジックアイテム、鍛冶や裁縫に使うレア素材や、戦闘に役立つ魔法やスキルを習得できるスキル本が出てくるといったものだ。


 しかし、宝箱の中身は完全ランダム。レアアイテムをゲットできるかどうかはプレイヤーの運次第という、非常にギャンブル性の高いコンテンツだった。


 だが、レオは鍛冶屋。

 そういったコンテンツとは縁遠い、堅実な生活を送ってきた。


「えぇ、そのトレジャーハントです。」


「あ、クロウさん!」


 そこへ、メイランの陰からからスルリと現れたクロウが口を開いた。


 瘦せぎすの体に黒いフードをかぶり、腰に毒の塗られたダガーをズラリと並べた毒アーチャーだ。背中の巨大クロスボウが戸口に軽くぶつかり、音を立てた。


 クロウの声は静かだが、どこか楽しげだ。

 彼はフードの下で目を細めて続ける。


「HOFのトレジャーハントには、スコップと採掘スキルが必要なんです。スコップは鍛冶で作れるし、採掘スキルは鍛冶屋ならお持ちでしょう?」


「うむ! だからレオに白羽の矢が立ったというわけだ!!」


「いや、ちょっと待ってください! たしかに採掘スキルはあるけど、宝箱を掘るなんて初めてですよ? できるかなぁ……」


「ケヒャ! できなきゃ死ぬだけさ! フフ、レオさんなら大丈夫ですよ」


「そんなマクロないですよね?! 明らかに誤爆じゃないですよね!!」


「さてはて、どうでしょう……」


 クロウが不気味に笑いながら肩をすくめる。

 その横で、ピンクのツインテールを揺らしたリリィがぴょんぴょん跳ねてきた。純戦士の彼女は、巨大なピザカッターを軽々と持ち上げ、目をキラキラさせていた。


「ねー、レオ兄ちゃん、スコップ作って! 宝箱掘ったらすっごい儲かるよー!」


「うむ! わしらは戦うのは得意だが、それ以外のことはてんで苦手だ。

 だがお前なら、スコップも作れるし採掘もできる。完璧だ!」


 メイランが豪快に笑い、魔術書でレオの背中をバシンと叩く。あまりの力にレオはカウンターの上にひっくり返りそうになった。


「いやいや、ちょっと待ってくださいよ! トレジャーハントなんてやったことないし、そもそもやり方も――」


「心配するな! やり方はクロウが調べてきた!」


「はい。実はですね、私たちのサーバー、エジソンでトレハンイベントが始まったんですよ。イベント中に限りレアアイテムの品目が追加されていて、ゴールドも普段の10倍の量が入ってるらしいんですよ」


「なにそれ!!! 鬼のように儲かるじゃん!!!」


「ガハハ!! だからそういっておろうが!!」


 ちょっと乗り気になりつつあるレオに、クロウが指を立てて説明する。


「でも、スコップは使い捨てで壊れやすいし、採掘スキルがないと掘るのに時間かかる。で、僕たちPKには戦闘以外のスキルないんで、レオさんに頼もうかと。」


「レオ、これはビジネスチャンスだぞ! お前がスコップ作って掘ってくれりゃ、俺たちが守ってやる。宝箱の中身は山分けだ!」


 メイランが胸を叩いて豪語する。

 レオは目を白黒させながら、頭の中で計算を始めた。


(確かに、スコップを量産すれば素材費はかかる。けど、そんなの高が知れてる。宝箱の中身からレアアイテムがでてこなくても十分元は取れる。けど――)


「いや、それって――今のフィールドってメチャクチャ危険じゃないですか? お宝を掘り出す所を狙って、ぜったいPKが巡回してますよね?」


「ですね」

「おう!」

「あたりまえじゃん!」


「イヤーーー!!!!」


「大丈夫だよー! あたしたちだってPKなんだから!」


「うむ、守ってやる! タンクは任せろ!」


「ケヒャヒャ! 新鮮な毒で沈黙させてやりますよ。」


 3人の頼もしさ(?)に、レオは半ば諦めたようにため息をつく。


「……わかりました、やります! あ、でも! 死んだらアイテムの回収は手伝ってくださいよ!?」


「よーし、それでこそ男だ!! さぁ、行くぞ!!」


「ぎゃー!」


 メイランがレオの肩を掴み、そのまま店から引きずり出した。


 地面を引きずられるレオの横でリリィが「やったー!」と跳ね、クロウが「じゃ、スコップお願いしますね」とニヤリと笑ってインゴットを差し出してきた。


 こうしてレオの静かな鍛冶屋ライフは、またしても騒々しいPKたちに巻き込まれて姿を消すこととなったのだ。




HOFのシステム的な遊びを描写してなかったので、その補完的な幕間です。

重めな本編と違い、幕間はふわふわ軽めのお話となっております!

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