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[掌編集]嘘の五つの顔

April Fools' day -嘘の五つの顔③-

作者: palomino4th

「森の中にある建物だ」、とミキオは説明し、ずんずん歩く。

後ろについていくケンジはもういい加減に付き合いきれない、と思っている。

いっそ何も言わず向き直りこの場を離脱するか。

小学生の男子二人だけで進む道は舗装は残っているが随分と補修がされていない。

両脇には下草が蔓延り手入れがされず、高く伸びた木々が日の光をかなりさえぎっている。

こんなところに何があるっていうのか。

「もう人がいなくなって誰も使ってない二階建てのビルだけど、中に何かがいる」

それを二人で確かめに行く、とか口実を付けられてミキオに引っ張りだされてきている。

ケンジはもうウンザリしている……ミキオが連れ出しに来てから、不自然に一言も触れていないことがある。

今日は四月一日。


去年を思い出す……ミキオに誘い出されて一緒に自転車で隣町の人工池まで行った。

目を離してる間に姿を消した最中、池の中にミキオの被っていた帽子が浮かんでいるのを見つけた。

こちらの気づかない間に水に落ちたのか……

他に人のいない中、どうしていいのか分からずミキオの名前を呼びながら、誰か助けてくれる大人がいないか周囲をおろおろと探し回ったが、見当たらなかった。

自転車で助けを呼びに行こうと思って停めた場所に行ったら自転車がなくなっていた……。

呆然としていると笑い声が聴こえた。

離れた場所の木の影からミキオが出て来て、半分泣きかけているケンジの顔を指差して可笑しそうに笑っていた。

「エイプリル・フールだから今日は一回だけ嘘をついていいんだ」


ケンジは無論、そんなことに納得などしなかった。

あれは「嘘をつく」なんてことじゃない、エイプリル・フールに入らないといったが悪びれる様子もなく、かえって「お前は冗談が分からないやつだ」とケンジをとがめる始末だった。

ケンジは学校に友達がいない。

同じ町内で一学年上のやや大柄なミキオとは昔は普通に遊んでいたはずだったが、次第に友達とは違うのではないかと思うようになっていた。

ケンジはミキオが嫌いになっていた。

ミキオの方はケンジに常に声をかけてきて気にかけているのだが、それには身勝手さと同時に自分の思い通りに愉しめる手頃な玩具と見ていることに気がついた。

ケンジにちょっかいを出して、困ったり慌てたり嫌がったりするのを見て愉快そうに笑う、ミキオは子供でいながら嗜虐性の芽生えがあるのか、相手の心に対する想像力が乏しい。

他に遊び相手がいないからといってこういうのとずっと関わるのは危険だ、とケンジも気づくようになって来たが、どこかに「子分」めいた気質が刷り込まれてしまっているのか強引に引っ張り出されるといつも逆らえない。


今日もそうだ。

なんでこんなことに引っ張り出されているのか、ミキオはきっとまた何かを企んでるんだろうに。

そこでケンジに対して何かを仕掛け、引っかかってみっともなくうろたえるのを見て笑うんだろう。


「ビルの中にいる正体不明の怪物を確かめにいくんだ」

ケンジは黙って聴く。

廃ビルに何かいるとしたら、怪物でも幽霊でもなく、きっとホームレスなどの生身の人間だろう。

もしかしたらその相手にオレを差し向けて、相手に何かされるのを見て笑おうとしてるのじゃないか。

「そら、あそこだ。……いるかもしれないから音を立てるなよ」

ミキオが偉そうに指示を出してくるのにケンジはだんだん腹が立ってくる……

遠目に小ぶりなビルが見えてくる。

一応は道路の脇に立つ二階建てだが、何かの資材置き場にでもされていたのか、一階は正面に大きなシャッターが下りたままで隣に小さなドアがあるだけ。

蔦植物が壁面に絡み枯れている中に、窓があるのだがガラスはとうに破れている。

ミキオは芝居じみた仕草で一人建物の側面に回り込んで窓から中を伺う。

しばらくしてからケンジに手招きをして見せる。

「今はいないな」

そう言いながらミキオが正面のドアノブを握ると扉はそのまま開く。

入ると、風の通されていないようなどこかほこりっぽい空気が淀んでいる。

中はガレージのようになっていて、ほとんど物がなく誰かが持ち込んだような得体の知れないゴミが散らばっている程度。

「怪物の痕跡だ」ミキオが床の一部を指差す。

屋内に焚き火をしたような焦げ跡がある……怪物がそんなことをするものか、普通に人間の仕業だろうに、とケンジは思う。

ミキオはポケットから懐中電灯を取り出して室内をあちこち照らす。

主のいなくなってから素性の知れないものが出入りしているのか、わずかに人の痕跡はあるけれどどれも濃くはない。

「こっちに階段がある」

端の方に二階に上がる鉄製の段を明かりで照らす。

「上に何かある」

ミキオは階段にむかうがケンジは動かない、段に足をかけてから振り向くと怒ったように言う。

「何してるんだよ、来いよ」

ケンジは無言で階段を登る。


二階もほぼ何もない。

ただ床の面積が分断され片側に部屋になっている。

鉄製の扉があけられていて中が見えているが、いくつかの棚が据え付けられているだけで特に何もない。

ミキオは二階のガラスのない窓枠から外を見たり床の上を懐中電灯を照らし何かを調べるような振りをしていたが、部屋の隅にあるだいぶ傷んだボロボロのブルーシートを照らして止まる。

近づいて指先でシートの端を摘んで持ち上げ変な声を上げる。

「嘘だろ」

ミキオがしゃがんでシートが覆い隠していたものを見る。

ケンジにもそこに積み上げられているものが見える……骨が。

犬や猫ではなさそうな、もう少し大きい……多分、太腿の骨のようなものが見える。

頭骨は見当たらないけれど砕かれた砕片がそれらしく見える。

第一印象では人間の骨に見えるだろう。

ミキオの顔つきをじっと見て、ケンジはため息をく。

自分を騙すために仕込んでいたものだろう、とケンジは思う。

なんて下らないことに労力を使うんだろう。

これを見てオレが怯え泣き出すのを期待しているんだろうか。

そして「エイプリル・フールだ」と種明かしして笑おうとしてるんだろう。

「なんだこれ、なんだこれ」

小さく呟くミキオをケンジは冷たい目で見ていた。

もう帰りたい、こんなことに付き合ってられない。

突然、ミキオが耳をすます。

ケンジがその顔を見ると、唇に人差し指を立てて黙らされた。

「……何かが来た」

まただ、とケンジは思う。

きっとエイプリル・フールの仕掛けだろう。

ケンジが怖がる姿を見て愉しもうとしてるのだろう。

ミキオの顔はひきつっている、本当に厭なヤツだな、平気でこんな演技ができるなんて。

「まずいな……まずいぞ。下まで来ている」

ケンジの手首を掴んだミキオはそのまま小部屋まで引っ張る。

離せよとは言えずケンジはそのまま部屋に押し込まれる。

「お前、足が遅いからな、俺、一人で走って逃げる……大人の助けを呼んでくるから隠れてろ、いいな」

言い返す前に身体を押され後ろに下がらされ、鉄の扉を閉じられる。

かすかに足音が扉の前を離れるのが分かる。

ふざけるな、と思いドアのノブを探ったがそこに無い。

押しても動かない、ラッチがかかってしまっている。

この扉は内側からは開けられない。

コンクリで四方を固められた部屋には他に出入口はない。

ケンジは完全に閉じ込められてしまったのに気が付く。

ああ、これもミキオが仕組んだ嘘なのか、今日は四月一日だ。

さっきの骨だってきっと怖がらせるために用意されていたものだ。

怯えて泣き喚くのを待っていて、それから現れてその様子を見て笑うんだろう。

下らない、とケンジは無性に腹が立った。

まさか、このままにして戻ってこないなんてことはないだろう。

ケンジは乾いた床にしゃがむ。

泣いたり喚いたりするものか、アイツを喜ばせるようなことはしない。

時間の過ぎるまでそのまま待ってやる。


もうどれぐらい経っただろう、とケンジは思う。

外はまさか夕方になってるんじゃないか。

アイツいい加減に戻ってこないのか、もう悪戯じゃすまないぞ、と。

その時、小部屋の外に足音が聞こえてくる。

そら、ようやく来たか。

コンクリートの床の上……間違い無く足音。

ミキオにしては少し重々しく感じる、これも演技なのだろうか。

さすがに心配になってきたのか、こちらの様子を見にきたんだろう。


重い足音は扉の方に向かってくる。

ほらミキオだろう。

扉のすぐ向こうで足音が止まる。

……これはエイプリル・フールなんだろう、みんな?


初出:2024年(令和06)04月30日(火)

[エブリスタ]  https://estar.jp/novels/26225882

【三行から参加できる 超・妄想コンテスト 第219回「エイプリルフール」】参加作品。

( https://estar.jp/official_contests/159765 )


改稿:2025年(令和07)02月11日(火)

[小説家になろう]

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