リブラへようこそ(1)
「‥‥やっぱすごい人」
リオネの言葉に、「だね」とジェルソは静かに応えた。
傘さし歩くリオネとジェルソ、その二人(一人)の足元には水流れる石畳。リオネ達の他にも多くの人間が雨ながらに行き交っている。
「とりあえず出店の方に行ってみよっか。面白いものが沢山あるってブルートさんも言ってたし」
リオネ達は色とりどりの傘と傘との合間を縫って、灰色の世界を進んで行った。
「昨日の晩もだけど、朝ごはんもおいしかったね」
「そういえばリオ、おかわりしてたね」
「あれはジェルでしょ?」
「いつも食い意地張ってるのはリオだよ」
その言葉に、「‥‥そんなことないし」とリオネ達は唇を尖らせた。
「それはいいとして、いつまでいる?」
「好きなだけいいよとは言われたけど‥‥」
「まあ、天気が良くなるまではお世話になろっか」
「うん、そうしよ」
そうやって二人が話して歩いていると、次第に雨音の中に何やら雑音の様なものが混ざり始めた。伴って増えていく人の数。リオネ達はおどおどとその中を更に進む。
「これが都会か‥‥」
そうリオネが呟いて左に曲がったその時だった——。
「いらっしゃいっ」 「はいっ、お待ちどうさまっ」 「こっちも安いよおっ」
重なる大声は言葉ではなくもはや音。少し狭い通りを人々はすれすれですれ違う。彼らの目当てのほとんどは——、通りの左右を埋め尽くす出店であった。
その賑わいに、リオネ達は気圧されたように、立ち止まってしまっていた。
「おい、あんた。邪魔だぞ」
「あ、すみません」
歳のいった男に注意されて、リオネ達は一歩踏み出した。
「ごめんなさい」 「すみません」 とすれ違うたびにぶつかる傘に、リオネ達は謝るが、ぶつかった人々は気にする素振りもなく歩いていた。さらに、先に進めば進むほど密度はより高くなり、傘どころか体すらぶつかる。
「リオっ。撤退しよう。僕たちには無理だ」
「だねっ」
人の奔流に攫われて、リオネ達は遠く続く通りの切れ目まであれよあれよと流された。通りを抜ける頃には、二人の綺麗な黒髪はぐしゃぐしゃに乱れており、傘を差していたのにもかかわらず纏うローブの両肩は濡れていた。
「大丈夫? リオ」
「‥‥ここは良くない」
片手を膝につきながら息を切らすリオネ達をよそに、人々はその横を通り過ぎていく。俯きながらも昇らせた視線、二人の黒い瞳に映るのはリブラの日常——。忙しないようで、どこか落ち着きのある、そんな風景——。
「あの、大丈夫ですか?」
その呼びかけに、リオネ達はすっと元を辿った。そして、すっと体を持ち上げてから口を開く。
「はい。すみません、大丈夫です。その、ちょっと人混み‥‥に疲れてしまって」
そう苦笑を浮かべたリオネ達の先には、口の周りに黒ひげをこさえた男が無愛想な顔つきで立っていた。




